第97話 初めての食べ放題①
◆エルちゃん視点
「んん.......」
「エルちゃん〜起きて♪ 今からご飯食べに行くよ♪」
「ふぇ?」
僕の身体がポカポカと暖かい.......誰かに抱っこされている感覚ですね。そして、僕が恐る恐る目を開けると.......何と! 目の前にかえでねーたんのお友達のまいかしゃんの顔があるのだ! どうやら僕はお姫様抱っこをされていたらしい.......そして、まいかしゃんの隣には、かえでねーたんがニコニコしながら僕の事を見つめていました。
「本当はお家でご飯食べようと考えてたのだけど、時間も遅くなっちゃったからね〜エルちゃんのまだ行ったことない場所でご飯食べようと思ってね♪」
「んみゅ?」
「舞香さん、エルちゃんをこちらにちょーだい。着替えさせるから♪」
僕はまいかしゃんの腕の中から、かえでねーたんの腕の中へと移動しました。どうやらお外へご飯を食べに行くらしいですね。一体何処へ行くと言うのだろう?
「エルちゃん、お肉好き?」
「むむっ.......!? おにくしゅき! だいちゅきなの!」
「うふふ.......お肉沢山食べれる場所に今日行きましょうか♪」
「わ〜い!」
やったぁ! 今日は美味しいお肉が食べられるぞ! ならば早く支度をしなければ.......こうしちゃいられない! 愛しのお肉が無くなっちゃう!
「じゃあエルちゃん、脱ぎ脱ぎしましょうね〜はい、バンザーイして♡」
「んみゅ!」
「はい、良い子でちゅね〜♡」
それにしても、毎度僕の服は可愛すぎませんかね? 着るのも少々恥ずかしいです。僕は男性が着るような.......紳士が着るような服が欲しいですね。スカートはお股がスースーするし、歩いていると周りの人達からの視線を集めてしまいます。地味な服で良いと言うのに、かえでねーたんはいつもお高そうな可愛い服を僕に着せるのです。
「よし、エルちゃん。この猫耳カチューシャを付けようか♪」
「むむっ.......やなの.......」
「え〜これを付けると強くなれるのよ? これには相手を魅了すると言う効果もあるんだ♪ おしゃぶりと同じ効果なの♪」
「ふぁ.......!? しょ.......しょうなの?」
「うんうん♪」
強くなれる上に相手を魅了する事が出来る.......そんな魔道具が存在していたとは.......そんな代物を容易く用意するかえでねーたんの財力.......恐るべし。おしゃぶりと言う魔道具も凄いですが、この猫耳カチューシャという魔道具も計り知れない価値があるのかもしれません。
「くすくす.......」
「んぅ?」
「あぁ、気にしないで♪」
何故か2人のお姉さんがクスクスと笑っています。そんなに僕の事を見つめて.......恥ずかしいよぉ。
「はぅ.......可愛い.......お姉ちゃん早速魅了されちゃったわ♡」
「楓先輩! 写真撮りましょう!」
「そうね、エルちゃん〜こっち向いて♪」
ねえ、これ本当に強くなれるのかな? 確かにお姉さん2人に魅了の効果は効いてはいるみたいですけど.......いや、待てよ? そうえば外の世界には獣人族も居ると聞いた事があります。ならば、僕がこの猫耳を付けても不自然では無いのかもしれません。
「エルちゃん、このおしゃぶりも咥えてみて♡」
「.......」
「「きゃあああああああぁぁぁ.......きゃわいい♡♡」」
2人とも大丈夫でしょうか? この猫耳カチューシャとおしゃぶりと言う魔道具.......ちとばかり魅了の効果が強すぎはしませんか? 2人とも目が完全にハートですよ。
「あ、エルちゃん。髪の毛をゴムで縛って置こうか。ご飯食べる時に汚れるといけないからね」
「あい!」
「今日の髪型はポニーテールにしましょうね♡ お姉ちゃんもポニーテールにしてエルちゃんとお揃いにしよ♪」
もういっその事、僕の髪の毛を短く切って欲しいですね。でも、それを前に言ったら、かえでねーたんやあおいねーたんに駄目だと言われ止められてしまいました。女は髪が命.......エルちゃんの髪の毛は綺麗だから持ったいないよと言われましたね。でも、僕は内面男の子なんだけど.......何とも言えない気持ちです。
「はい、出来ました♪ 舞香さんも髪の毛伸ばしていたらお揃いに出来たのにね♪」
「そうですね〜私も久しぶりに髪の毛伸ばそうかな」
「おお! 舞香さん絶対似合うよ!」
「そ、そうですか? えへへ.......」
良し、準備は出来た。後はお肉を食べるだけです! お腹パンパンに膨れるまで食べちゃうもんね!
そして、僕はかえでねーたんとまいかしゃんと手を繋ぎながら、近場のお店へと出掛けました。
◆食べ放題の店【満腹パラダイス】◆
「エルちゃん、ほら着いたよ〜♪」
「んみゅ! かえでねーたん、はやくはやく!」
「うふふ、そんな急がなくてもお肉は逃げませんよ♪」
めちゃくちゃ良い匂いがするの! 食欲をそそる様な香ばしい香り.......じゅるり。肉を前にした僕は、例えるなら獰猛なマンティコアです! 今宵は沢山食べちゃうぞ♡
「おにく〜♪ おにく〜♪」
「くすくす.......エルちゃん涎出てるよ?」
「んんっ.......」
「はい、お口拭き拭きしましょうね〜あ、キスもおまけに♡ チュッ♡」
僕はお姉さん達に手を引かれながら店内へと足を踏み入れた。そこには、沢山の大きなお皿に乗った様々なお料理とデザートや飲み物が沢山置いてあったのだ。僕はこんな光景を未だかつて見た事がありません。もしかしたら、僕は王族の主催する様なレベルのパーティーに足を踏み入れようとしているのでは無かろうか.......ここは楽園か?
「ふぁわああああああぁぁぁ!! しゅ、しゅごい.......じゅるり.......」
「エルちゃん、これはバイキングと言うの♪ あそこにあるのは、お寿司、パスタ、お肉、サラダ、デザート.......あぁ! エルちゃんちょっと待って!」
「んひょおおお!!」
「こらこら、走ったら駄目でちゅよ?」
僕は我を忘れそうになり、一目散で料理の所へと身体が勝手に動いてしまいました。かえでねーたんに抱っこされて完全に身動きが取れない.......
「いらっしゃいませ〜当店へようこそ♪ お客様何名様で御座いますか?」
「子供一名と大人2名です♪」
「かしこまりました。では、こちらの奥手にある12番テーブルへどうぞ♪」
あ、あの食べ物は一体何なのだ!? 見たことの無い木の実や果実が沢山.......しかも、お肉にもこんなに沢山種類があるとは.......ふぁ!? 何じゃあの魔道具は!? ボタンが沢山着いている.......あれは飲み物かな?
「楓先輩とお食事.......明日、台風来るのかな? いや私死ぬのかな?」
「舞香さん?」
「あぁ.......すみません! 楓先輩美味しそうですよね! はわわっ.......!? ま、間違えちゃった、お料理美味しそうですよね!?」
「うふふ.......舞香さん落ち着いて♪ そうだね♪ 我が家の食いしん坊さんも目をキラキラと輝かせているわね♡」
「かえでねーたん!」
「こらこら、そんな急がなくても大丈夫だから♪ ね?」
こんなに一度に沢山の豪華な料理を見るのは始めてなのだ! お家でも美味しいご飯を沢山食べさせて貰っているけど、こんな光景を見たら.......そら誰だって胸が踊るというものですよ!
「あ、楓先輩。今、レディースフェアと言うものがあるそうですよ♪ 女性は半額みたいです」
「おお! そんな太っ腹なフェアやってるのね〜私達運が良いね♪」
「しかも、小学生以下は無料と書いてありますね。エルちゃんは対象かな」
「うん、エルちゃん年齢は恐らく推定4歳児.......問題無し!」
ふぇ? こんな豪華な料理を無料で食べれると言うのか!? そんな店があるなんて.......世の中は広いものですね。
「良し、それではお料理を取りに行きましょ! エルちゃん〜お洋服汚れると行けないから、よだれかけしましょうね♡」
僕はかえでねーたんに首から布を付けられました。なるほど、これは確かに食べる時に服が汚れないので良いですね。ご飯を食べる時、なるべく零さないように丁寧に食べてるつもりですが、少し油断するとポロポロ落としたり、お口周りが直ぐに汚れてしまいます。これを考えた人は天才ですね。
「エルちゃん、お姉ちゃんとおてて繋いで行こっか♪」
「んみゅ!」
「ほら、舞香さんもどうぞ♪」
「え、それじゃあ.......」
まさに両手に花とはこの事ですね。距離は短いですが、僕の右手はかえでねーたん、左手はまいかしゃんとおててを繋いでいます。
「あ、先に飲み物だけ汲んでおきましょうか♪」
「そうですね♪ ドリンクバーの種類も豊富で.......あぁ! エナジードリンクもありますよ!」
ドリンクバー.......エナジードリンク.......飲み物なのかな? んぅ? この魔道具をドリンクバーと言うのかな?
「エルちゃん、このコップがドリンクバーのコップだよ。コップを置いて飲みたいジュースを選んでボタンを押すの♪」
「じゅーちゅ.......でゆの!?」
「うんうん♪ エルちゃんの好きなオレンジジュースやしゅわしゅわするコーラもあるよ♪」
「ふぅおおおおおお.......!?」
僕はまいかしゃんとかえでねーたんの真似をして、コップを魔道具の所へ置いてオレンジ色のボタンを押そうとするのですが、ここで由々しき事態が発生したのです!
「ふぇ? とどかないの!」
「ぐふふっ.......あらあら♡ エルちゃん身長小さいもんね♪」
「背伸びしてる姿が尊いよぉ♡」
「ぐぬぬっ.......!?」
結局かえでねーたんに抱っこして貰いながら僕はボタンを押しました。男として情けない限りです.......本当はかえでねーたんを抱けるくらいに身長が欲しいのですが、現実は甘くありません。
「んぅ? しゅわしゅわ?」
「あ、これはメロンソーダと言う飲み物だよ♪ 炭酸が入ってるんだ♪ コーラみたいにしゅわしゅわして甘くて美味しい飲み物だよ♪」
「ごくごくっ.......ふぁ!? おいちいの!」
コーラも良いですが、このメロンソーダなる飲み物.......こいつも神々の領域まで足を踏み入れた至高なる飲み物だ! こんだけ美味しい飲み物があるのだ。きっと他のも美味しいに違い無い!
「それは良かったね♪ それじゃあ、一旦席に戻って飲み物置いてこようか。それからメインディッシュのお料理を取りに行くよぉ♪」
「はいなの!」
僕達は飲み物を席へと置いて再び舞い戻って来ました! どうやら食べ放題となるものは、時間制限が設けられており、制限時間内にどれだけご飯を食べれるかが肝となるそうです。でも、これだけ沢山あるんだから少しくらい袋に包んで持って帰ってもバレはしないだろう。お夜食の分とあおいねーなんにお土産としていくつか持って帰ろう。
「エ〜ル〜ちゃ〜ん? ここで沢山食べるのは大丈夫だけど、お家にお料理を持って帰るのは駄目だからね?」
「うぐっ.......」
な、何故だ!? かえでねーたんは、何故僕の考えてる事が分かるのだろうか? かえでねーたんに僕の考えてる事が見破られる事は多々あるなと思ってたけど、もしかしてかえでねーたんには相手の心が読めるような特殊能力があるのだろうか? 僕が動物や虫さんとお話し出来るようにかえでねーたんにも.......
「くすくす.......エルちゃんたら、本当に分かりやすいもん♪ お姉ちゃんがバイキングのルール教えてあげるからね♪ 3人で回ろう!」
「んみゅ!」
「あ、お肉の前にお寿司少し取ろうか♪」
「おしゅし?」
ふむふむ、これがおしゅしと言う食べ物か。何かご飯の上にポンと乗っかていますね。種類も豊富だ。
「エルちゃんに食べさせるお寿司はどれが良いかな」
「楓先輩、イカとかタコとかはエルちゃんにはまだ早いと思うので、食べやすいマグロやサーモンとかどうでしょうか?」
「お、いいね〜じゃあ、一貫ずつ取ろう!」
ふむ、おしゅしも気になるのだが.......近くにある水槽の中の生き物も気になります。
「かえでねーたん、あれなぁに?」
「ん? あれはフグさんだね。お魚さんと言う海に生きる生き物だよ♪」
「ふぐたん? うみ?」
「そのうち水族館や海にも連れて行ってあげるから、またそのときに詳しく教えてあげるよ♡」
ふむふむ、この世には色々な生き物が居るんだなぁ.......しかし、あのふぐたん.......何だか元気が無さそうです。まるで人生に絶望したかのような.......
〘あぁん? 何見てんだよ! 見せ物じゃねえんだよ! おとといきやがれ! 〙
なぁっ.......あのふぐたん.......何か喋ってるぞ!? しかも、頬っぺたが膨らんだ!?
「かえでねーたん! まいかしゃん! あぶないの!」
「え? どうしたのエルちゃん?」
「フグがどうかしたのかな?」
あれは何やらヤバそうな雰囲気.......まさか、あいつ.......こちらに向けてあのおぞましい身体の棘を飛ばす気か!?
〘ふっ.......頭の悪そうな小娘だ〙
「むむ!」
この世は弱肉強食です。殺られる前にこちらが殺らなければ、この先僕の大切な人達を守る事は出来ない。逃げちゃダメだ.......例え相手がどんな強敵だろうと僕が背中を向けた瞬間、あのフグたんは間違い無く僕らを棘で貫こうと襲って来るに違い無い。これはまずいな.......
「お、フグ売り切れかぁ。すみません〜フグの握り貰えませんか?」
「かしこまりました〜今すぐ捌きますね!」
僕がふぐたんと互いに見つめ合いながら牽制していると若い男性2人組がやって来ました。
〘や、やめろ! お、俺はまだ死にたくない! だ、誰か助けてくれ! 俺にはやらないと行けない事があるんだ!〙
店員のお姉さんが網を持って、水槽の中で泳いでいるふぐたんを捕まえようとしています。
〘お、俺の身体には毒があるんだぞ!?〙
「なぬ!?」
こ、こいつ.......毒があると言うのか!? 毒があると言えば、僕の記憶に新しいのは、危険指定ランクAのバジリスクやポイズンスパイダーと言った冒険者殺しの恐ろしい魔物.......毒がある魔物は、大抵上位の魔物と相場が決まっております! まずい、この事を早く男性に知らせてあげなければ.......男性の命が危うい!
「だ、だめなの! それたべたら、めっなの!」
「ん? お、どうしたの可愛いお嬢ちゃん?」
「ふぐたんには、どくがありゅの!」
「お〜お嬢ちゃん博識だね! そうだよ、フグさんには毒があるんだ♪」
僕はふぐたんに毒がある事を若い男性2人組に必死に伝えたのだが、何故か笑顔で僕の頭を撫で撫でして来るのです。この人達は危機感が足りていません!
「あ、すみません.......うちの妹がご迷惑をお掛けして」
「う、美しい.......はっ!? あ、いえいえ! 余りにも可愛いお嬢ちゃんでしたので.......つい」
「うふふ♡ エルちゃん、あっちにお肉あるから行こっか♪」
「あ、あの.......」
むむ!? この人.......かえでねーたんのお胸やお顔をチラチラといやらしい目で見ていますね。まさか.......僕のかえでねーたんを狙っているのか!? だ、駄目だ! かえでねーたんは僕のお嫁さんなのだ! 絶対に渡さないぞ!?
「がるるる」
「エルちゃん? どちたの?」
「あぶないの!」
「え? あぁ、そういう事か。トイレに行きたいのね♪」
「ふぇ? ち、ちが.......」
「すみません、舞香さん。ちょっとエルちゃんをトイレに連れて行って来ますね」
「はい♪ 了解です」
え、あの.......そういう訳では.......ちょ.......ちょまま!? ちょっと、かえでねーたん!?
エルちゃんの苦悩は続くのであった。
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