第24話 恐怖の始まり

 

「すぅ……すぅ……」

「あらあらぁ♪ 私の腕の中で寝んねしちゃったか。葵ちゃん見て♪ エルちゃんのこの可愛いらしい寝顔♪」


 あれからエルちゃんをあやし続けて、何とか泣き止んでくれたと思ったら、今度は泣き疲れちゃったのか私の腕の中でスヤスヤと眠ってしまいました。


「うふふ……お姉ちゃん、少し早いけど今日はそろそろ寝ない?」

「そうだね〜じゃあ、リビングの電気消して寝室に向かいましょうか」


 私はエルちゃんを起こさないようにそっと寝室へと移動します。エルちゃんはまだ幼いので、今後は細心の注意を払う必要がありますね。



 ◆一ノ瀬家 寝室◆



「よいしょっと、エルちゃん〜♪ ベッドの真ん中で寝んねしましょうね〜♪」


 私はエルちゃんをベッドの真ん中にそっと寝かせて、タオルケットを掛けてあげました。私と葵ちゃんもベッドに入り、左に私と右に葵ちゃんで川の字の状態です。


「――――――。 んぅ?」

「あらぁ♪ エルちゃん起きしちゃったの? 甘えん坊さんはお姉ちゃんの所においで♪」


 エルちゃんは目をゴシゴシと擦った後に、寝惚けながら私の胸に顔を埋めて甘えて来たのです♡ ディフフ……あ、行けません。私とした事が……つい理性を失う所でした。


「ふふっ……あははははっ!!」

「っ!? どうしたの葵ちゃん!? もしかして葵ちゃんヤキモチ焼いてるの?」

「違うよ〜だって、お姉ちゃんのエルちゃんを見つめる顔が危ない人みたいで面白いだもん〜♪」

「もう〜葵ちゃんったら、お姉ちゃんは至って健全ですよ?」


 とは言ったものの、思わずにやけてしまいます! エルちゃん可愛いすぎます! エルちゃんはロリコンキラーですよ!


「――――――。うぅ……まん……ま……」


 するとエルちゃんが何やら寂しげな声で寝言を呟きました。ママと聞こえましたね……言語は分からないですが、辛い事があったのでしょうか、エルちゃんの目から一筋の涙が零れ落ちます。



「エルちゃん……私がママでもお姉ちゃんでも何にでもなってあげるから、ね? もっと甘えて、お姉ちゃんに我儘沢山言って欲しいな♪」


 私はエルちゃんの小さな身体をそっと優しく抱きしめました。少し震えてたエルちゃんの身体はピタリと止まり、穏やかな寝息が私の腕の中からすぅすぅ……と聞こえてきます。


「お姉ちゃん……さっき調べてみたんだけど、エルちゃんらしき女の子の捜索願いとかは出されて無いみたいだよ。もしかして、エルちゃんは本当に……」


 葵ちゃんは悲しげな表情で、エルちゃんの顔を眺めます。こんなに可愛い子を捨てるなんて……信じられません。まだまだ私達はエルちゃんの事について、詳しく分かっていません。ですが、この短期間で分かったこともあります。エルちゃんは優しくて素直で純粋で寂しがり屋さんで、食いしん坊で、甘えん坊さんでとても良い子です……何だかエルちゃんの境遇を思うと胸が痛いです。初めて会った時は酷く私達……大人に怯えていたのです。更にクリームパンやご飯を食べた時のエルちゃんの反応……涙を流しながら食べてたのを私は見ています。エルちゃんの育て親が、もしかしたらろくなご飯を与えずにDV等の虐待をしていた可能性があります。


「私はエルちゃんの人生に華やかな色を添えてあげたい、沢山の愛情を注いで寂しさも忘れるくらいに……血の繋がりは無くても本物の家族以上に」

「うん♪ エルちゃんは私の可愛い妹だもん! これからもずっと3人一緒だよ♪ 一ノ瀬家は三姉妹!」

「葵ちゃん……ありがとね。私は素晴らしい妹を持って幸せね」

「うふふ……私も最高のお姉ちゃんを持って幸せだよ♪」


 過去の事より今後の事が重要ですね。エルちゃんにお勉強や言葉と言った様々なことを教えて行かなければなりません。大変かもしれませんが、私は絶対にエルちゃんを見捨てる様な事はしません!


「後はエルちゃんの耳についても謎だよね。ラノベの世界に出てくるエルフそっくりだもん。」

「確かにね……まあ可愛いからそれはそれでよし!」

「ふふ……そうだね♪」


 私もエルちゃんの耳については、前々から疑問には思っていましたが、エルちゃんが可愛い過ぎてその程度は些事に過ぎませんでした。


「お姉ちゃん! 私もエルちゃんとムギュっしたいよ!」

「じゃあ、葵ちゃんとエルちゃん両方抱いちゃうね! ムギュっ!」

「もう〜お姉ちゃんったら強引何だから〜」


 私は2人の妹をムギュっと抱きしめました。これは挨拶みたいな様な物なので、お姉ちゃん的には至って普通です。


「お姉ちゃん、明日はどうする?」

「明日か〜やっぱり、家の中にずっと居るのも良くないよね。エルちゃんを外に連れて行くのも少し不安はあるけど……そうだ! 家のすぐ近くの駄菓子屋さんに連れて行こうか♪」

「明智商店か〜いいね! 沢山お菓子売ってるからエルちゃんが喜びそうだね♪」


 よし、明日はエルちゃんをベビーカーに乗せて駄菓子屋さんに行きましょう。明智商店は私達が子供の頃からある駄菓子屋さんです。良く葵ちゃんと一緒におこづかいを握り締めてお菓子を買いに行ったものです♪


「エルちゃんがどんな反応するか楽しみだね♪」

「あそこは菓子パンも売ってるから、エルちゃんの大好きなクリームパンもあるしきっと興奮するだろうね〜」


 エルちゃんが駄菓子屋さんで、キャッキャッと喜ぶ姿が目に浮かびます。


「今日は私達も寝ましょうか、葵ちゃん電気消してくれるかな?」

「おけおけ! 私もエルちゃん抱いて寝よ♡」


 明日が楽しみです♪ 寝る前に、おやすみのチューをエルちゃんにしてから寝るとしましょう。エルちゃんが寝てる今はキスし放題です♪



 ◆



「ん……うぅ……あれ、いつの間にか僕寝ちゃってた?」


 僕は深夜に目を覚ましました。部屋は暗くて、僕の左右にはお姉さんが気持ち良さそうに静かに寝息を立てています。


「……僕またお姉さん達の前で泣いちゃったんだよね……自分の感情が上手くコントロール出来ない……恥ずかしい……」


 穴があったら入りたいような気分です。


「ぐぬぬ……ふんっ! よし、お姉さん達の腕からとりあえず脱出成功!」


 僕はおしっこがしたくなったので、急いでトイレに向かいます。部屋のドアを開ける所までは良かったのですが、廊下が物凄く暗いです。


「……お化け出ないよね? いやいや、たかが暗いくらいで僕は何をビビってるんだ? これくらい余裕余裕♪」


 とは言ったもの、僕の足が言うことを聞きません。自分に大丈夫だと言い聞かせても中々前に踏み出す事が出来ません。


「お姉さん起こすの申し訳けないし……かと言って……」


 僕はトイレへと続く暗い通路を見つめます。お化けは出ないと分かっているのに、想像すると怖くて足が震えてトイレに行けません。


「うぅ……仕方ない」


 僕は部屋に戻り、お姉さんを起こす事に決めました。



 ◆



「――――――。」

「んんっ〜ふぅ……あら? エルちゃんどうしたの?」


 私はエルちゃんに、身体を揺さぶられながらゆっくりと目を覚ましました。時刻は深夜の2時ですね。隣には楓お姉ちゃんがパジャマ姿でスヤスヤと熟睡しております。


「――――――!」

「え? んーっと……あ、ちょっと待って! 今ベッドから降りるから」


 エルちゃんが私の服を引っ張って、部屋のドアの方向へ指を指します。何だか落ち着き無くソワソワとしている様子です。そしてドアを開けるとエルちゃんは切実な上目遣いで何かを訴えております。


「もしかして……トイレに行きたいのかな?」


 私はエルちゃんに手を強く握られながら、エルちゃんが向かう方向に足を運びました。案の定やはりトイレの様ですね。


「そっか、廊下暗いもんね。一人じゃ怖いよね♪ よしよし〜葵お姉ちゃんがここで待ってるから大丈夫だよ〜♪」

「――――――♪」


 私はトイレの電気を付けてドアを開けました。エルちゃんは私の顔をチラチラと見つつトイレに入って行きます。その様子を見ているだけで、思わずニヤニヤと笑みを浮かべてしまいました。本当に可愛いです♪


「うふふ……エルちゃんスッキリしたかな?」

「――――――!」


 どうやらエルちゃんは上機嫌の様子です♪ 私の身体にピタっとくっ付いて、今度は上目遣いで何かを訴えております。


「抱っこして欲しいのかな〜? エルちゃんは甘えん坊さんだね♪ よいしょっと」


 私がエルちゃんを抱っこした際に事件は起こりました。1階の部屋から大きな物音がしました。更にタマちゃんの威嚇するような声までしたのです!

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