第23話 呪いの村 エマ視点①
私の名前はエマ。
カナリア様のメイドとして働かせてもらっている平民だ。
呪いと忌避される村に赴いて、原因を調べる予定だ。
カナリア様はこれを感染症と推測しているので、私とシリウス様で調査をしてくる。
「エマ、薬は持ったわよね? マスクもしっかり付けて、消毒用のアルコールも……あっ、それから──」
カナリア様が心配そうに確認してくるが、かれこれ五回は同じことを繰り返していた。
シリウス様も笑っていた。
「カナリア、心配しすぎだ。そんな調子だと俺たちが帰ってくるまで気が持たんぞ」
「そうですね……」
カナリア様も自覚しているのか自分を落ち着かせようとしているが、それでもソワソワとなさっていた。
するとシリウス様が突然カナリア様を抱きしめた。
──まぁ……。
美男美女の抱擁は絵になると思えるほどだ。
私だけではなく、エーデルハウプトシュタット夫妻とヴィヴィアンヌ様も手で口元を押さえていた。
「君のメイドだけはなく、俺の心配もしてほしいな」
「も、もちろんしております! ただシリウス様ならどんな事でも乗り越えてしまいそうで……」
「冗談だ。これが終わったら俺とも祭りを見にいこう」
「はい……」
カナリア様の頬がほんのり赤くなっている。
するとシリウス様は私たちの位置を確認するようにチラッと見た後に、カナリア様のお顔が見えないように少し体の位置を変えて、顔を下へと動かした。
「ぁ……んッ!?」
カナリア様のお声が少し漏れた。
私たちからは何をしているのか見えなかったが、おそらくは──。
そして少しの静寂の後に二人の顔は遠ざかり、シリウス様もそうだが、カナリア様の顔は先ほどとは比較にならないほど真っ赤になっていた。
「行ってくる」
「は、い……」
お互いに目を合わせず、シリウス様で私と共に隔離村へ向かうことになった。
馬車に乗って到着した村は見た感じは普通の村だった。
「ここが隔離村なのですね」
「ああ。といっても普通の共同生活はしてもらっているから、病気を持っている者達を集めているだけだがな」
シリウス様と共にマスクを付けて村を回っていく。
するとここの村長が顔をフードを纏ったままやってきて、私たちを招いてくれた。
「子爵様からお話は聞いております。よくぞ来てくださいました」
「こちらこそよそ者なのに歓迎感謝致します。ところで村の方々は仕事は休みなのですか?」
村長の家に行くまで誰とも顔を合わせなかった。
シリウス様のお言葉に村長は首を横に振って否定した。
「いいえ。ただこれまで我々は迫害を受けてきましたので、外から来た者には警戒してしまっているだけです。このような形でね」
村長が顔のフードをとると、その顔は皮膚に異常が起きていた。
そして私たちに見せた後にすぐそれを隠す。
「驚いたじゃろ? ここは似た症状を持った者達の寄せ集め。だが、みんな同じ境遇を持っておる。同じ村人から石は投げられ、商人達はわしたちから呪いを移されると行商にも来なくなった。そうなれば村はお終いだと、どんどん差別が厳しくなってくる」
「お辛いのに、それを見せていただき感謝します」
「こちらこそ初めて我々の診察をしてくださる方がいらっしゃって感謝してもしきれません。どうか二度とこのようなことが繰り返さないように原因を調べてください。ただし、村人達はすでに繊細な心を折られておりますので、私の体をお使いください」
シリウス様は私を見て頷く。
私は「失礼します」と問診のリストを取り出して、質問を何度か繰り返した。
そしてカナリア様が事前情報で集めた病気の候補と照合する。
「もしかすると、アルマジロ病かもしれませんね」
「どんな病気なんだ?」
私は病気の症状について読み上げた。
「えっと、アルマジロから似た病気を検出したので付いた名前みたいです。皮膚や神経に障害を引き起こす病気で他者に感染するリスクがあると書かれております」
「やはり人に移るのですな……わしたちが呪いというのは間違いではないということですか……」
村長は悲観的になり、声色も震えていた。
だが私はさらに続きを読む。
「しかし、感染力は強くないため免疫力を高めて、治療を行えば二次災害は未然に防げるとのことです。治療を行うとそれ以降は病気があっても他の方には移さなくなるので、十分対策が出来る病ですね」
「ほ、本当ですか!」
村長は大きな声で聞き返す。
私は頷くと、村長は床にうずくまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
体が痛くなったのかと思って駆け寄ろうとしたが、村長が泣きながら呟く。
「それなら私たちは呪いでは、ないのですね……」
「ええ。ただの病気です。これからカナリア様が薬を作ってくれると思いますので、もう少しだけ辛抱してください」
私たちは終わりと村長の家から出た。
だがシリウス様は深刻な顔をしたままだった。
「どうかされましたか?」
呪いの正体もあらかた分かったので一件落着かと思ったが、シリウス様の表情が浮かないままだ。
「呪いではないと分かったが、村人全員の薬を作るためのお金をどうしようかと思っていてな。俺のお金ももちろん出すが、国庫から予算を出さねば足りないかもしれない。父上がそれを承認するかどうか……」
薬は貴重であり、特に今回の病気の薬はそこまで安くはない。
最新の技術で治療薬が作られているため高価であり、なおかつ長期間に渡って服用が必要と書かれていたので、個人のお金では限界があった。
「おそらくはそれは問題ないと思いますよ」
「問題がない? もしかすると薬が安く手に入る方法があるのか?」
シリウス様はどのような方法か気になっているようだった。
「いいえ。カナリア様はお金を集めるのがとてもお得意でいらっしゃいますから」
まだまだ私の方がカナリア様のことを知っていることが少しの優越感を与えてくれる。
しかしカナリア様がこれまで行った善行は広めてあげたいと思っているので、私は惜しみなく伝えたい。
シリウス様も知りたいご様子でうずうずとしていた。
「それはどういう──」
その時シリウス様の言葉を遮られた。
「シリウス・ブルスタットだな」
目の前に武器を持った男達が大勢いた。
「下がって!」
「はい!」
シリウス様が私を守るように前に出てくれた。
相手は殺気立つ目をしており、私たちへ武器を向ける。
「殺しはしない。お前の婚約者カナリア・ノートメアシュトラーセもいるのなら好都合」
どうやら私をカナリア様と勘違いしているようだ。
だがこの状況はまずい。
呪いが降りかかるかもしれないと騎士たちは誰も付いて来なかった。
護衛騎士が一人だけ付いてきたが、シリウス様がカナリア様を守るように命令したので、戦える者がシリウス様だけだ。
「お前らはもしかしてフーガ族か?」
「いかにも。我らの土地を侵略した国王が土地を返すまでは人質になってもらおう」
多勢に無勢であるため、私たちは戦わずに人質になり、どこかに連れていかれるのだった。
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