第32話 「真実と企み」





「シルバ君、お菓子、食べる?それは何をしているの?」


私は、マリセルがケーキを焼いたので、一切れ皿に乗せてもらい、シルバ君のところへ持って行った。シルバ君はケーキの皿を見て頭を下げ、「ありがとうございます」と言ってくれた。それから彼は、仮想ウィンドウを指さし、こう説明する。


「これは、“エリック”の主人のケースです。しかし、どうにもおかしいのです。証拠らしい証拠もないのに、途中で捜査本部は解体され、ほぼ握り潰されたに近い状況で事件は終わっています」


「まあ。それは変ねえ」


とは言ったものの、それの何が問題で、どうしてシルバ君がそんな事を調べているのかは、私は分からなかった。でも、シルバ君は続けてこう言う。


「僕は、この一連の流れで唯一解消されていない問題に手を付けてみる事にしました。そうする事で、見逃していた物が見つかるかもと思ったのです。でも、それは難しそうです…何せ、記録が無い…」


すると、アームストロングさんがこちらへ寄ってきた。私は、シルバ君に早くケーキを食べて欲しかったけど、彼らは話を始めてしまった。


「どういう事だ、シルバ」


「おかしいんです。事件性ありと目されたジミー・マクスタイン氏の死の真相が、ポリスによって握り潰されているように見えるんですよ…」


「捜査の指揮は」


「グスタフ総監です」


「それでどうして分からないんだ」


「だから疑問なんです」


私はその会話を聴いていて、ちょっと思い出した事があった。だけど、あまり二人の間に割って入るような事はせず、やんわりとこう言う。


「ねえ…グスタフさんって、この間、部屋に誰か入ったって言ってなかった…?」


それに、アームストロングさんはこちらを向いて「ええ」と返事をしてくれた。シルバ君は、ウィンドウを見詰めてこう言う。


「グスタフ総監の周りに、何か不審な事が起きていないか、調べてみる必要があるかもしれません。それから、マクスタイン氏が結局どのような事情で亡くなったのか。“エリック”が消えたのはマクスタイン氏の死の直後ですから、彼は何らかの事情を知って、姿をくらましたのかもしれません」


「それはどういう意味だ、シルバ」アームストロングさんは、ちょっと切羽詰まったようにシルバ君に詰め寄る。


「分かりません。ですが、これらが繋がっているとするなら、筋が通るかもしれません」


「そうか…」





「エリック、ホワイトハウスを襲撃するとなったら、それこそ建物自体を攻撃する方が可能性は高いですが、あそこほど頑丈な建造物はないのですよ」


私は続けてエリックを説得していた。彼はかえってウキウキしているように私を振り返る。


「わかってるさ。お前にはまた、偽の通行証を持ってもらう」


「そんな!ポリスは騙せたとしても、ホワイトハウスを騙せるわけがないじゃありませんか!」


私がそう叫ぶと、エリックは立ち止まり、私を振り向いて不敵に笑った。


「あの建物で、唯一自由に動けるのは誰だと思う」


「誰です?」


「分からないのか?大統領本人さ。そのIDを偽造するんだ」


「まさか!」


エリックは前を向いて歩き始め、「そのまさかさ」と言った。私達はその時廊下を折れ、元の小部屋から漏れる灯りが見えてきた。


「大統領と副大統領のIDだけは、偽造を防ぐため、ワンタイムで生成される。それをシステムに侵入してコピーするんだ。そうすれば後は使いたい放題で、25分のタイムリミットが課されるのさ。お前は、声紋や虹彩くらいなら、偽装して情報送信が出来るだろう?」


部屋の中に居たロボットに声を掛け、彼らを立ち上がらせると、エリックはもう一度私を見た。


「言ったろ。俺は大物なんだ」





つづく

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