第41話報告
「え〜、それで性別が変わってしまったと?」
「はい...」
僕は今、市役所で職員を前に縮こまっていた。
目の前の職員さんは僕をじっと見ながら写真を見比べる。
正直、こんなにガン見されると僕も恥ずかしいのだが、確認の意味もあって見ているみたいなので我慢する。
「(現実でこんなことあるんだな...)ボソッ」
「え?なんかいいました?」
「いや?何でもないよ」
何やら職員の人がつぶやいていた気がするが、気のせいだろうか。
「少し上と相談してきますので、少々お待ちいただけますか?」
「え?あ、はい。」
職員の人が書類を持って窓口から離れていった。
「...絶対に厄介ごとだよね、今の僕って。」
「まぁ...珍しい申請だし、しょうがないでしょ。」
香織と話しながら待っていると数十分後、
「すみません、お待たせしました。」
「あ、いえ大丈夫です。それで..大丈夫なんでしょうか?」
「あ、あぁ、多分大丈夫ですよ。初めての事例ということで今後同じような人が現れる可能性もあるので、特別に受理します。医師からの診断書も持参していただいたので問題ないかと。」
「そうですか、よかったぁぁぁぁぁぁぁ.....」
渚は深く息を吐き、背もたれに深く腰掛けた。
「よかったね渚ちゃん。」
「うん、安心したよ。」
電車に乗りながら次の目的地へ移動する。
「まずは第一関門突破だね。」
香織はニコニコしながら渚に話しかけると、
「うん、市役所が一番厳しいと思ってた。」
渚も少しばかり気が楽になったのかほっとしたように微笑む。
法律で女として認められるには色々と審査があるのかと思っていたけど、こんなにあっさり行くなんて思っても見なかった。
「この調子で次もうまくいけばいいんだけど...」
次の目的地へ向かう渚の心には未だ不安の種が残っていた。
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「ふぅ...」
「大丈夫だよ、渚ちゃん。」
渚は意を決して目の前の扉を開けた。
「失礼しま〜す....」
「お!その声は久里山....?」
ジャージ姿の美女、美田先生が渚を視界に収めると動きが止まった。
「.....なぜ姉が来た?」
美田先生は怪訝な顔を渚に向ける。
「先生、僕です。渚の方です。」
「........は?」
美田先生は脳で処理が完結しないようで、渚の顔をじっと見つめる。
「言いたいことははわかります。」
香織が美田先生の肩に手を置き、うんうんと頷く。
「篠原?...これは一体?」
「今はとりあえず話を進めましょう。渚ちゃんは女の子になりました。以上です。」
「話を進める気全くないダロォ!!せめてもう少しわかりやすくだなぁ!!」
「あ、これ医師からの診断書です。(スッ)」
渚がそっと紙封筒を差し出すと美田先生は即座に開封し中を確認する。
「....校長と相談する、久里山も来い。」
「...はい...」
〜〜〜〜
「校長があんな人だったとは....予想外でした。」
渚は校長の反応を思い出して苦笑いをする。
「それには私も同意だ。」
美田先生も頷く。
僕が今後女の子として通学する旨を説明したところ、校長から
『なになに!?TS?女体化?大好物だよ!!なに!元はおとこの娘!?大好きだよ!!え!?今後は女子として学校に通う!!!??大賛成さ!!!そして制服を着て恥じらって....ウェへっへへへへへへへへへ.......』
こんな感じで許可された。
ちなみに校長は男性だ。
「少し気味が悪かったな。」
まぁ何はともあれ、新学期からは女子生徒だ。
「それじゃあ新学期に。それと久里山は新学期に自分の口からみんなに話せ。」
「う、わかりましたぁ...」
美田先生の力のこもった眼差しに断ることができず了承してしまった。
「元男が女子になりましたって色々言われそうだよね...」
「でも渚ちゃんは元から女の子みたいな扱いされてたし、みんなそんなに気にしないんじゃない?」
「あまり嬉しくない慰め方!!?」
え!?僕って男の時からそんな扱いだったの!?
渚は驚愕の事実に膝から崩れ落ちた。
「まあまぁ、前より身長が伸びてるんだしいいじゃん!」
「それもそうか」
渚の気分は身長で直った。
これから多用させてもらおう。
そう心に誓った香織であった。
僕たちは学校を出て行こうと昇降口に向けて歩いていると、
「お、おい、あんな生徒うちにいたのか!?」
「横にいるのは篠原さんだろ?2人とも綺麗だなぁ...」
「でもあの顔どこかで見たことあるような....?」
部活動の生徒がすれ違うたびにこそこそと話しているのが聞こえた。
やばい、なんか身バレしそうだ。
「香織、早く行こ!」
「っうん!」
渚は香織の手を掴むとそそくさと学校を後にした。
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「うん、やっぱり似合うなぁ渚ちゃんは。」
「な、なんか恥ずかしいんだけど...」
「ぐ...」
制服のスカートの裾を握りながら顔を赤くする渚に香織は必死に萌えを抑え込んだ。
制服の採寸に来た渚は、制服を色々と試着する羽目になっていた。
自分の高校の制服しか着る予定がなかった渚なのだが、採寸をした店員から、
「せっかくなので他の学校の制服も試着してみますか?」
と提案があったのだ。
「いえ、大丈夫...」
「はい!!ぜひ!!!」
「え?」
渚が断りを入れる前に香織が声を張り上げて渚の声を打ち消した。
その後、さまざまなタイプの制服に着替えさせられ、渚はヘトヘトになった。
渚は何度も終わろうとしたのだが、
「後一着だから!ね!?後一着だから!!!」
という香織からの圧がしばらく続き、身も心もヘトヘトになった渚は最後の制服を着ていた。
すでに渚の目からはハイライトが消えている。
そうして今に至る。
「なんでこんなに裾が短いの...?」
膝より裾が高く、下着が見えてしまいそうで少し恥ずかしい渚。
「何でって、おしゃれだよ?かわいいじゃん!」
「これをかわいいで済ませる女子に尊敬するよ...」
元男子からしたらギリギリまで素足を晒すその度胸に拍手喝采だが、香織は元から女子のためその気持ちはわからないみたいだ。
「と、とにかくもう脱ぐよ!!」
「え!もったいない!まだ脱がないでぇ!!」
香織が必死に引き留めてくるが、僕は即座に着替えて私服に戻った。
「くぅぅ...写真撮りたかった....」
「どうせこれから毎日見れるんだからいいじゃん。」
「いや、今日着せ替えしたやつをね?」
「そっち!?」
香織と渚はそうして制服の店を出た。
「この後は何か予定あるの?」
香織が渚に聞くと、
「うーん、夕飯用の食材を買う以外は特にないかな。」
「そ、そうなんだ。っそれじゃあ少しデートしない?」
「デート?」
渚は突然の提案に少々戸惑うが、特に断る理由もなかった。
「わかった、いいよ。」
「っっ!!それじゃあ行こ!!」
香織は渚の手を掴むと近くのショッピングモールに向けて走り始めた。
「わわ!!ちょっと待ってよ!!」
渚もつられて走り出していく。
「お姉ちゃんはようやく踏み切ったか。」
「今までが奥手すぎたんだよな。好意丸出しなのに。」
「でもそれに気づかない渚姉ちゃんもだけどね。」
「「確かに」」
香織はこっそりついてきた兄弟たちには気がつくことはなかった。
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