第12話森の主への挑戦④
Finalステージが始まった。
出現した最終ボス、ジャイアントブラッドベア(S)を見たナギが一番最初に想像したのは東大寺の大仏であった。
姿形は全く似つかないのだが、大きさは大体同じくらいなのだ。
今までとは違い単純な赤い毛ではなく、血に染まったような赤黒い色をしている。
その大きさに圧倒されているとボス熊が右足をダンッと大きく踏み鳴らした。
その途端周囲はボス用のバトルフィールドへと姿を変える。
雲一つない空はどんよりとした曇り空へと変わり、緑が生い茂る木は突如として枯れ果てた。
空気も少し血の匂いが混ざったような匂いがする。
最終戦なだけあって周囲の状況は臨場感あふれるものになった。
ナギは両頬をパンッと手のひらで叩き、気合を入れる。
そして〔纏気〕を発動させ、腕と足を魔力で覆うと足を半歩引き拳を顔の前で構える。
ボス熊はナギを目視すると大きく口を開け雄叫びをあげた。
それが戦闘開始の合図なのか、ボス熊はおもむろに手を横向きに振るった。
そうするとナギの足元の地面からいくつもの大きな石杭が飛び出した。
咄嗟に後方に跳び回避すると、追う様にナギの真下の地面から次々と石杭がナギの身体を貫こうと飛び出してくる。
「っ!まずい!」
このままでは足のつける場所がなくなってしまう。
そう考えたナギは石杭の一つに横から蹴り破壊すると勢いよく真上へ跳び上がり、スペースが空いたその地面に勢いよく踵を落とす。
その衝撃は地面から波紋状に周りへ広がり、周囲数メートルの石杭を粉々に砕いた。
その場に降り立ち、ナギは口に魔力を集中させると〔龍魔法〕“炎“のブレスをフィールド全体へ撒き散らし、石杭を一つ残らず砕いた。
ひとまず足場を確保しボス熊を見上げると、ちょうど鋭い爪を振り上げているのが見えた。
危険を感じ横へ跳びのくとその瞬間ナギのいた場所で砂塵が上がる。
砂塵がおさまったとき、その場所はボス熊の手の跡がくっきり残っていた。
ボス熊は地面に手を突き刺すと手を開いた状態で上へ振り上げる。
そうするとボス熊の周囲にあった地面は上空へと飛ばされ、いくつもの土塊となってフィールド上に降り注ぐ。
ナギは降り注ぐ土塊を避けながらボス熊へ接近すると〔龍の爪〕を発動し、それを思い切りボス熊の腿へと突き入れる。
ーーガキィィィ.....ン
金属同士を叩き合ったような音が鳴り響き、周囲には風が巻き起こる。
ナギの渾身の突きはボス熊の体力を減少するには至らず、表面の皮を削り肉に多少の傷をつけるのみにとどまった。
「ッッッッッッ!!?まじか!!?」
突いた爪が全く先に進まないことに驚きを隠せないナギだったが、すぐに攻撃方法を切り替える。
〔龍の爪〕を解除し、後方に跳びのくと〔龍の翼〕によって上空へ飛び上がる。
ボス熊の頭より数十メートル高いところまで上がると、ボス熊の顔を目掛けて羽ばたかせる。
途中振り回される腕を空中で回避しながら接近するとボス熊の鼻へ拳を叩き込んだ。
感じたのはコンクリートを殴りつけたような感触。
当のボス熊は不愉快に感じたのか、その大きさに見合わない素早さでナギを掴むとそのまま地面へと叩きつけた。
「ぐあっっっ!!!!.....がはっ、はぁ..はぁ...」
突然のことで受け身をとることもできず、背中から地面へと叩きつけられる。
肺から空気が全て押し出され、一瞬呼吸ができなくなる。肺に空気が戻ったときには咳き込んで口から血を吐き出す。
その衝撃によってナギの8割ほどあったHPは一気に減少し、半分を切り、残り2割ほどまで減少した後に動きを止めた。
ナギはこのとき全身に〔身体強化〕と〔纏気〕を発動させていた。
現在ナギが打撃や爪によって出せる最高威力の攻撃をほぼ無傷で凌ぐほどの防御力。
スキルによって防御力が上がっているにも関わらず、一撃で瀕死にまで追いやるほどの攻撃力。
え、これ勝てなくね?
攻撃は効かないし、自分は攻撃喰らうと死ぬし。
いや、攻撃は効かないと言ったけどまだ〔龍魔法〕は試してない。
けど現状を見る限りではあまり効果はないだろうなぁ。
とりあえず初級回復薬でHPを全回復する。
翼を使ってボス熊の顔の高さまで飛ぶと〔龍魔法〕“雷槌“のブレスを口から発射する。
“雷槌“は〔龍魔法〕の雷属性だ。感電すれば多少の攻撃も効くようになると思いこれを選んだ。
着弾した箇所で電気が弾けたようなバチバチとした音がなり、煙が上がる。
煙がおさまり、着弾箇所を見ると顔の毛が焦げているのが見えたが、それ以上ダメージを受けている様には見えなかった。
それでも多少の痛みは感じたらしく、ボス熊はナギを睨みつける。
そして口を大きく開け、咆哮した。
その瞬間ナギの全身を強い衝撃が襲い、ナギは地面に向けて吹き飛ばされる。
突然の衝撃にナギは反応が遅れ、地面に勢いよく叩きつけられる。
「がはっっ......一体...何が..?」
なにが起こったのか分からなかった。
ボス熊が吠えたところまではわかったが、気づいたときには衝撃を受け吹き飛ばされていた。
単純に考えれば吠えた衝撃で吹き飛ばされたということだろう。確証はないがボス熊のスキルなのかもしれない。
しかし、これでまたHPを大半失ってしまった。
再度初級回復薬を使ってHPを回復する。
全回復したところで再度翼を使って飛び上がり、ボス熊の周囲を飛び回りながら〔龍魔法〕“氷霜“のブレスをボス熊の顔目掛けて浴びせる。
ボス熊の鼻の先や瞼、頬が凍りつくが、ボス熊は手でそれを払い落とす。
ボス熊からしたら顔の周りを飛び回るナギは蠅並に鬱陶しい存在なのだろう。イライラしてきているのが手にとるようにわかる。
ナギがボス熊から多少距離をとった瞬間、ボス熊は下がっていた腕を動かし爪をナギ目掛けて振りあげた。
今度はナギの視界内から攻撃だったため反応するのは容易い。〔錬成武装〕によって両手に剣を生み出すと正面でクロスさせ爪を受けた。
滞空している状態のため支えるものが何もないこの状況。そこにボス熊の攻撃を喰らうと盛大に吹き飛ぶ...が、今回は上に向けて吹き飛ばされたため地面にクレーターを作ることはなかった。
ナギは両手の剣に〔纏気〕を発動させ切れ味を上げると、全身に〔身体強化〕を発動させる。
そしてボス熊の顔目掛けて一直線に飛んだ。
ボス熊の迫り来る爪を剣で弾き、顔の前までくると両手の剣を一つの戦斧へと変化させ、ボス熊の目元へと振り下ろした。
戦斧は眼球に突き刺さり、血が盛大に吹き出した。
「グガァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!!!!」
戦いが始まってから初めて感じる痛みに声をあげるボス熊。そして憎々しげに怪我の原因であるナギを見やるとすぐに手を振りかざす。
しかしそんな見え見えの攻撃を喰らうナギではない。すぐに飛翔しボス熊の手が届かないところまで飛ぶ。
「攻撃は〔錬成武装〕と〔龍魔法〕でなんとかなるかな?」
ボス熊のHPは見るからに減少した。全HPからしたら微々たるものだが、攻撃が通る方法がわかったのは大きい。
このまま攻撃を続ければもしかすると?と考えたナギだったが、次の瞬間ボス熊がおかしな行動を取り始めた。
地面を数回踏み鳴らし空に向けて咆哮をあげたのだ。
「...何かの合図か...?」
ナギは疑いを持った目でボス熊を見ていたが、答えはすぐに出た。
ボス熊の足元の地面がモコモコと盛り上がり、ある形を形成していく。そしてその姿が露わになったとき、ナギは目を見開いた。
その姿はなんと....
「.....えぇぇー...最初の赤熊やんけ。」
そう、みんな大好きブラッドベアである。そして背中からは大きな翼が生えている。
そんな赤熊は背中の羽を羽ばたかせると次々に上昇し始めた。
そんな熊が次々に生み出され....ついには3桁まで達した。
「今から同時100体はきついよ......」
正直1体ずつであれば大した脅威ではないのだが、ボス熊へ攻撃を続けながら飛び赤熊の相手をするのは心が折れる。
ようやく先行きが見えたと思ったのに....!!!!
ナギは〔錬成武装〕によって再度2本の剣を生み出し、それに〔纏気〕によって〔龍魔法〕“炎“を纏わせた。
そして自身の体に再度〔身体強化〕を施す。
「もうひと頑張りしなきゃいけないのか!」
そう呟くとナギは次々と飛び上がってくる赤熊に向かって急降下していった。
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