番外編②-32 – 縛り
(〝
内倉も例外なく
––––〝
先の藤村との戦闘に敗北し、自ら死を選んだ
そしてもう1つの超能力はこのDEED制圧及び
対象者を生きたまま乗っ取るためには2つの条件が必要である。
1つは
内倉が
①他の十二音の正体を明かすこと(内倉が正体を知るのは
②十二音に協力者、及び政府内部に精通する者がいること
内倉はこの4年間で不協の十二音脱退、並びに彼らの制圧を望むようになっていた。〝去る者は追わず〟というスタンスを貫く彼らではあるが〝遊び〟を続けるためにも現在の状況、例えば葉山が超能力者管理委員会に所属していることなどを崩されたくないという思いは強いはず。また、自分は不協の十二音設立から数年してからの参加のため、彼らからの信用は最も薄い。だからこそ唯一、上記の条件を課せられていると考えられた。
(もしも脱退を言い始めれば俺はただでは済まない。相手は葉山だ。あの状況下で俺が逃走できたことから警察と何らかの取り引きを交わしたと考えるかもしれない)
内倉は瀧に対して嘘をつき、さらに危険な賭けに出ている。その嘘とは3日後に「必ず戻る」という言葉である。
––––連絡が途絶えたら死んだと思ってくれ。必ず戻る。
内倉は自分が無事では戻れないという自覚が既にあった。
(最後に償いを……。せめて葉山に一矢報いる……!)
無論、瀧に協力を仰ぐことを一瞬考えたが、
(葉山の性格上、面白いと言ってそのままあえて俺を残すゲームを仕掛けてくるかもしれないが……。これ以上、奴の手の平の上で踊らされるのはごめんだ……!)
そして内倉は瀧に手がかりを残すために1つの危険な賭けに出た。
内倉は十二音の協力者や葉山の裏工作によって経歴を
内倉が東京第三地区高等学校に赴任したことについて〝彼らの働きによって〟という言葉を使うことで十二音に協力者がいることを仄めかしたのである。経歴の詐称程度であれば、何らかの超能力で済むはず。よって十二音のメンバーの1人の超能力で十分であるにも関わらず、〝彼ら〟と複数形を表明することで超能力ではなく、さらにそれを可能とする人物、つまり政府内部にまでその手が侵食していることを示した。
(これは〝
内倉は最後まで十二音の超能力を明かすか否かに迷いを持っていた。
(縛りの中に十二音の超能力を明かすことは含まれていない。これは奴らに絶対的な自信があるから……! しかし、何らかの対策を練らせるためにも伝えた方が良かったか? いやしかし……)
結果的に明かさなかったのは瀧たちに先入観を持たせないようにするためだった。内倉は十二音の超能力を完全には把握しきれていない。つまりは発動条件やその効力、また、その奥の手を完全に理解していないのである。
十二音の面々は全員、一度は覚醒を経験しており、それによって複雑な超能力が発現しているかもしれない。特に信頼が他より薄い自分は普段使用しない超能力、つまりは奥の手を隠されている可能性が高い。超能力戦において相手の超能力を事前にどれほど把握しているかは大きな鍵を握る。それによって講じる対策によって如何にして相手より優位に立つかによってその勝敗は決まる。
(中途半端な情報で生じる先入観によって警察側が不利に立つのは避けたい……!)
さらに十二音の連中は寧ろ自身の超能力が把握されている中での戦闘を楽しむ面々である。優位に立っていると思っていることが相手にとっては喜ばしい状況である場合も考えられる。そのことからリスクを避けたのである。
(それに俺は葉山の超能力を実際に目撃したことがない……!)
葉山は自身の超能力をその複雑さゆえに本人ですらも完全には理解していないと発言していた。そしてこの不利さ、あるいは自分が窮地に立たせることですらも楽しむ葉山の厄介さを理解している内倉はあえて詳細には伝えなかったのである。
––––しかし、この内倉の考えには誤算があった。
非超能力者・杉本一警部の存在である。内倉は自分の4年以上前の経歴を誰も気にかけていないことを把握していた。そしてこれは葉山の超能力によるものであることにも気付いていた。
(相手の精神に影響を与える能力? いやそれだけじゃない! 奴の超能力はもっと複雑なはずだ……!)
内倉はこの力は葉山の超能力の一部に過ぎないことを確信していた。でなければ葉山が自分の超能力を把握できていないという発言に矛盾が生じる。そして何よりこれまで不自然なまでに葉山の思い通りに物事が進んでいくのを目の当たりにしているからである。
本来、『変えられた世界線』と『変わる前の世界線』の違和感に気付くことは至難の技である。しかし、杉本たちの緊迫した状況が彼らの知覚能力を高めたことで両者の狭間に生じた隙を認知することを可能にした。ゆえに『経歴詐称』と『内倉の経歴に対する疑問のなさ』を切り離して考えるに至った杉本はその後の菜々美の証言から『他人の精神に影響を与え、誤認させる超能力』の存在を推測する。
並外れた洞察力を持つがゆえに生じた大きな綻び。これは葉山の思惑通りなのか、それとも偶然の産物なのか。答えは分からない。
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