番外編②-17 – 八方美人 (トランスフォーマー)

「俺はこの〝八方美人トランスフォーマー〟を、使用する特殊弾薬によって様々な形態に変形させる物質生成型超能力者だ」


 藤村はSHADOWシャドウの影を使った攻撃を軽く躱しつつ〝八方美人トランスフォーマー〟をSHADOWシャドウに見せびらかしながら説明する。


「それと、どの形態であっても俺のサイクスを込めた弾丸を放つことができる」


 そう言って藤村は〝八方美人トランスフォーマー〟にサイクスを込めて1発、SHADOWシャドウの影に向かって撃ち放ち、それは跡形も無く消滅する。サイクス弾は勢いそのままに会場の端まで届き、壁を砕く。


「あ〜ぁ。壊れちまった。いまいち力加減が分からねー」


 藤村は〝八方美人トランスフォーマー〟の銃口を眺めて少し面倒くさそうな表情で呟く。


「余裕のつもりか? 自分の超能力についてペラペラと……!」


 藤村はSHADOWシャドウの言葉に対して何の反応も示さず〝八方美人トランスフォーマー〟の銃身に軽く触れた後に説明を付け足す。


「例えばこいつは任意の6箇所に次元の穴を開けてそこを通れるようにする。そして俺は触れた部分から自由に繋げた次元の穴へと移動できる」


 SHADOWシャドウのイライラした反応を見て藤村はニッと笑った後にその場から大きく跳躍し、影を躱しつつそのまま客席の暗闇の中へ紛れ込む。


「気でも狂った? 暗闇の中は俺のテリトリーだよ」


 SHADOWシャドウはそう言うとサイクスを纏って藤村に攻撃を仕掛ける。


––––〝影波かげなみ


 客席の影部分が波打ち始め、それが徐々に侵攻して藤村へと襲いかかる。


「おっと」


 藤村は影の大波に押し出されて空中に投げ出される。SHADOWシャドウはそれを確認すると地面に両手を着く。


––––〝影剣山かげけんざん


 地面の影が盛り上がり、そこから無数の鋭い針型の影が藤村に向かって一直線に襲いかかる。


––––〝次元開通弾ディメンション・ドア


 藤村は空中で左手を広げ、そこから次元の穴が開かれる。〝影剣山かげけんざん〟が藤村に到達する前に藤村は次元の穴の中へと入り込み、次元の穴は消滅する。


「なっ……!」


 姿を消した藤村に対してSHADOWシャドウは行方を追う。


「別に触れたものに〝大気〟が含まれてないとは言ってないぜ」


 藤村は再びステージ中央へと移動し、余裕の表情でSHADOWシャドウに告げる。


「お前の超能力は大体理解した」


 藤村はそう言うと床を見つめながら話を続ける。


「お前の影には範囲がある。大体1辺60センチ程度の正方形か? そこから影が襲いかかってくる……。今の波のような攻撃も針のような攻撃もその正方形からそれぞれ影が伸びて融合するイメージ。有効範囲外に出た影からその集合体から離脱していき、新たな影が加わる感じだな」


 SHADOWシャドウは藤村の言葉を静かに聞く。SHADOWシャドウの影を操る超能力・〝深淵の入り口ブラック・フォレスト〟は藤村の言う通り適用範囲が存在する。高さに関しても6メートルという制限があるもののSHADOWシャドウがサイクスを込めることでその高さを調整することが可能となっている。


「それにこれも条件か?」


 藤村はステージ上の照明を眺めながらSHADOWシャドウに尋ねる。


「部屋全体を暗闇にすりゃあ良いのにそうしないってことは……条件だな。部屋の一部に明かりを施しておかなければならない。範囲は分からんがな」


 藤村の推測通り、SHADOWシャドウの〝深淵の入り口ブラック・フォレスト〟を発動している部屋には照明を作り出しておく必要がある。その照明の範囲はサイクスを込めて有効高度を6メートルよりも高くした分だけ広がる。

 D–3ビル地下4階のホールは高さ約18メートル、そのために必要な照明の範囲は丁度、中央のステージの範囲ほどであった。


「照明を壊せば良いんだろうが、まぁ何か対策はあるんだろう?」


 SHADOWシャドウは沈黙を貫くものの藤村は肯定と捉えた。


「俺も〝八方美人トランスフォーマー〟は、さっき説明した基本形状ともう1つの形状だけを使って闘うよ」


 藤村の持つリボルバー型装飾銃が黄色いサイクスで包まれる。〝八方美人トランスフォーマー〟は変化してスライドが先端までない、『ワルサー』のような形状のハンドガンが形成され、それを2丁持つ。


「この形状は特殊でね、2丁使うんだ。この右手に持ってる方は〝別れ話リパルシヴ・ストーリー〟、こっちの左手のは〝引き合う2人アトラクティヴ・ストーリー〟。銃弾を当てることで引き合う力と反発し合う力を付与する。さらに……」


 藤村はそれぞれの銃を撃ち、その銃弾がその場に停滞し、サイクスが球型に広がる。


「こうしてトラップ型として設置することも可能だ。その球は割れたり割れずに弾かれたり。こっちの仕組みは上手いこと自分で解明してみてくれ。青と赤で色の違いがあるから分かり易いと思うぜ。ちなみに〝次元開通弾ディメンション・ドア〟に変えた場合はこのトラップ型の弾はそのまま残すことも可能だからよろしく」


 そう言うとSHADOWシャドウの目の前から藤村は消える。


––––パリンッ


 会場の照明は全て消され、暗闇に呑まれる。


(チッ)


 SHADOWシャドウは舌打ちをした後に手の平から紫色に輝くサイクス10個を持ち、それを会場の至るところに投げ出す。

 部屋の照明がなくなった場合、SHADOWシャドウは自らのサイクスを使って明かりを作り出すことが可能で、それを使用することで〝深淵の入り口ディメンション・ドア〟を発動することができるようになる。


「!?」


 SHADOWシャドウの明かりによって照らされた瞬間、既に会場には赤い球と青い球が大量に浮遊している。


(もう既にトラップを仕掛けている!?)


 赤い球がSHADOWシャドウに触れるとその球に弾かれる。その勢いのまま背後にあった青い球に触れた瞬間、その青い球は弾け飛び、SHADOWシャドウは少しだけ吹き飛ばされる。


(何だこれ、面倒くさいな!?)


––––ヒュォッ


 その瞬間、藤村の右拳がSHADOWシャドウの仮面に直撃し、仮面が破壊される。仮面の中からは褐色の肌の30代くらいの男性が顔を見せる。血が混じった唾液を口からペッと吐いているSHADOWシャドウを見ながら藤村はニヤッと笑い、「とっとと終わらせるぞ」と呟くと圧倒的なサイクスを纏った。




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