番外編②-7 – 可能性

「十二音が今回絡んでんのか」


 〝脳内取調室ウェベックス〟での取り調べを終えて杉本、鶴川、狩野の3人は現実世界へと戻り、藤村に取り調べの様子を報告した。藤村は警察手帳タブレットを取り出してXRクロスリアリティ機能をオンにして空間に出現したキーボードを操作、4年前の襲撃事件の参考資料を選択してSHADOWシャドウGOLEMゴーレムおぼしき2人の画像を映し出す。


SHADOWシャドウって奴はこの映像と横手の証言を聞く限り、影を操作する物質刺激型超能力者で間違いないだろう。GOLEMゴーレムは身体刺激型超能力者のパワー型だな」


 藤村は口元に手を当てて少し考え込んだ後に杉本と共に話を整理し始める。


「〝毎回必ず電気を消させる〟って言ってたんだよな?」

「はい、横手はそのように証言していました」

「発動条件だな。影できるし」

「おそらくそうでしょうね」


*****


SHADOWシャドウって奴は会場の明かりを全て消すように毎回要求するんだ。言う通りにすると地面から影が這い上がってきて全体を覆うんだ」


番外編②-6 『取り調べ③』参照


*****


「4年前の研究所襲撃も夜だったな。まぁ夜の方が襲撃しやすいってのは一般的だが、こいつの超能力を最大限活かすためってのもあったんだろうな」


 藤村は4年前の資料を見返しながら呟く。


「課長、〝地下4階自体がなくなる〟というのと〝建物全体がなくなる〟という発言、どうお考えになられますか?」


*****


「外から見ると地下4階自体がなくなっちまう。あと最初、試しに別の建物を使ってその超能力を見せてもらった時には建物全体がその黒い影に包まれてその場から建物が消滅するんだ。初めからそんなものなかったかのようにな」


番外編②-6 『取り調べ③』参照


*****


「まぁ、2パターン考えられるな」


 鶴川が「それって何ですか?」と興味津々に尋ねる。


「1つは単純に任意の場所を影で包み込んで別空間へと移動させる力、もう1つの可能性としては飛ばせる範囲に条件があることだな」

「え、でも横手の話だと建物全体を移動させたって話でしたよ?」

「まぁ可能性の話さ。例えば一部の部屋を飛ばすには最上階と最下階だけとかな。横手の奴、〝言われた通りに一番下の階に会場を造った〟って証言してたんだろ?」

「その通りです」


 藤村は鶴川に可能性の話をした後に横手の証言の確認のために杉本に尋ね、杉本もそれが間違いないことを伝えた。


*****


「言われた通り一番下の階にホール造ってな」


番外編②-6 『取り調べ③』参照


*****


「まぁ、基本的に最初に言った力……つまり任意の場所を影で移動させる超能力として行動する。後は4年前の資料からだと影で攻撃してくるのは確実だな」

「できれば影の少ない日中に相見あいまみえたいものですねぇ」

「はぁ? 何言ってんだ?」

「はい?」


 杉本は藤村の返答に対して少し驚いて聞き返す。


「相手有利の場でやり合うのが至高だろ。ヒリヒリした感覚が味わえる」

「おやおや……僕はごめん被りたいですねぇ……」


 藤村の醸し出した一瞬の表情が狩野と鶴川、さらにいつも冷静な杉本にまで冷や汗をかかせる。


「まぁいいや、今度はGOLEMゴーレムの方だ。資料映像、横手の話から典型的な近距離特化の身体刺激型超能力者だ。身体をデカく変化させてパワーを上昇させてる節があるな」

「これは……単純な筋肉増強的変化ではないように見えますね」

「あぁ。石のように固く、赤く変化している。こういう場合は基本的に何か別要素を加えてより力を得ている。それが……」

「血である可能性が高い……」

「その通り」


 藤村と杉本の会話を聞いて鶴川は手をポンと叩き口を挟む。


「そうか、警備に協力する代わりに血を提供するって取り引きをしたって言ってましたね!」


*****


「3年前に奴らは俺たちの前に現れた。血をよこせってな」

「血を?」

「あぁ。その条件と引き換えにオークションの開催が安全にできるようにしてやるってな」


番外編②-6 『取り調べ③』参照


*****


 DEEDのメンバーは超能力者よりも非超能力者の人数の方が多い。藤村はGOLEMゴーレムには定期的に血の摂取が必要であること、そしてGOLEMゴーレムがどちらの血かを指定しなかったことから必要な血は超能力者、非超能力者のどちらでも構わないという推測を話し、その血によってGOLEMゴーレム自身の超能力の強さが変化するのではないかという推測も合わせて説明した。


「あとは使える形態変化が縛られるとかな。それとこれは少し重要な要素になり得るかもしれんが……DEEDのメンバー以外の血……一般人の血を提供したら契約が反故になったことだ」

「話によると特に子供の血に対して激怒していたということでしたね」


 藤村は杉本の答えを聞いて少し考え込んだ後に話を再開する。


「子供の血は超能力の条件に合致しない……という可能性もある。だが、どこか引っ掛かるな。あんたはどう思う? 警部」


 杉本も藤村の話を聞いて頷きながら返答する。


「僕も少し引っ掛かっていました。なぜDEEDのメンバーのみの指定だったのか……そもそも彼らほどの実力あれば自分たちで採取すれば早いと思うのですが」


 杉本と藤村が黙った一瞬に鶴川が一言呟く。


「自分でやると何か困ることがあるんですかね……?」


 藤村と杉本の2人は鶴川の方を見て「ビンゴ」と呟き、2人は話し始める。


「それだ。やはり自分で採取すると不都合が生じるんだ。つまり、日常に支障をきたす」

「えぇ。JOKERジョーカーJESTERジェスターは定期的に破壊行為を繰り返しており、十二音の面々は普段どこに潜伏し、何をしているのかを考えていましたが……僕としたことが……。定期的に姿を現していない者、いや先の2名も含めて我々の日常に溶け込んでいる可能性がある」


 藤村は杉本の話を聞いて大きく頷き、さらに話を続ける。


「これは……希望的観測かもしれんが横手の言う通り、子供を巻き込んだことに対してより怒りを感じていたのならば……」

「教育関係の仕事に就いている可能性が高い。学校教師、塾講師。いや教育だけではなく、例えば孤児院勤務や小児科医の可能性もあります」


 杉本の指摘に対して藤村は人差し指を向けて「そうかもしれん」と同意する。狩野は「ちょっと待って下さい」と2人の推論に対して異議を唱える。


「しかし……! 相手は十二音ですよ!? そんな慈悲な心があるとは考えられない!」


 その指摘に対して杉本は返答する。


「えぇ。確かに。しかし、僕は可能性があると思うのです。4年前の資料や証言をご存知ですか? GOLEMゴーレム、その力自慢の超能力者であるにも関わらず死者は皆、JOKERジョーカーJESTERジェスターなど彼以外からの被害です。もちろん、彼の攻撃による怪我人は多数いましたが」


 藤村は杉本の言葉に賛同しながら付け加える。


「あぁ、それにこれまであいつらの足取りなんて分からなかったんだ。闇雲に探すよりも可能性にかけてみるのも良いかもしれねーな」


 杉本は笑顔で頷く。藤村は警察手帳タブレットを片付け、携帯を取り出す。


「緊急だ。十二音に関する重要な手がかりを掴んだ。戻って警視庁全体で共有する」


 その後、すぐに現場を離れて警視庁へと向かった。




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