番外編②-5 – 取り調べ②

「1つの取り調べが終わると3分間だけ話し合いの時間が設けられます。これは制限時間から消費されないのでご安心を」


 天草英理子の取り調べを終えて取調室Aを退室し、狩野は杉本と鶴川に3分間のインターバルを使用することができると告げる。


「それでは少し話の整理を始めましょうか」


 杉本は鶴川と狩野にそう言って話を始める。


「天草さんが参加した経緯は分かりました。彼女も多くのメディアに取り沙汰されて心労が絶えなかったようですね。それで彼女の話を信じるのならばですが……去年春頃に試した薬物に救いを求めたと。若い彼女を巻き込むのは簡単だったでしょうね〜」


 杉本は家庭の娘2人が熱心なファンだったのを思いながらその期待に応えようと必死だった天草の心境を慮り、少し遠く見るような目で呟く。


「……こちらに関する話はまた他の方に任せるとして、彼女から警護に関して〝絶対に見つからない〟とDEEDのメンバーが語っていたという事実を引き出せたことは大きいです」


 杉本の言葉に対して鶴川が口を挟む。


「それって何者かの超能力ってことですよね?」

「その通り」


 杉本は人差し指を立ててそれを鶴川の方へと向けて少しだけ揺らせて満足そうに告げる。


「これまでこの会場を捕捉することはできなかったのですよね?」


*****


「それにしてもこんな場がこれまで見つからなかったのは妙だよな」


番外編② – 2 『妙』参照


*****


 杉本は藤村がこの会場に関して話していた言葉を思い返しながら狩野に尋ねる。


「えぇ。その通りです。DEEDが定期的に開催していたオークションはこの会場以外にも名前は出ていたのですが、それらしき場所にはこれまで何も無かったのです」

「しかし、今回は場所が特定できて制圧も可能だったと?」

「はい」


 杉本の言葉に狩野は答える。そして杉本は間を置かずに狩野に質問する。


「ここ最近でDEEDの中で捕えられた強力な超能力者やトラブルなどでその超能力者が稼働できなくなったという情報は? もしあったとして空間系の超能力者、特に大きなスペースをどこか別の場所へ移動させたり、大人数を別空間へ移動させたりするような超能力者はいましたか?」

「こちらで捕えた超能力者の中には……瞬間移動系の者はいましたが該当の者はいません。また、組織同士の衝突といったものはこちらでは関知していません」

「なるほど……」


 杉本の様子を見て鶴川が「どうしたんすか?」と尋ねる。


「〝絶対に見つからない〟という文言とこれまで会場の所在が見つからなかったことから場所自体をどこか別の場所へと移動させる超能力が一番可能性が高いと思いまして。後はオークションに参加する人数全てをどこかへ移動させるような超能力ですかね」

「そうか、それでこれまで場所が分からなかったってことっすね?」


 杉本は頷く。狩野は「もうそろそろ時間です」と告げて取調室Bの方を軽く顎でさす。杉本もそれに「了解です」と告げる。


「先ほどの天草の取り調べでは13分を消費しました。横手に対して使える時間は17分です」

「承知しました」


 狩野と杉本は短い問答を終えた後に鶴川を含めた3人で取調室Bへと入室する。取調室Bでは取調室Aと同じ構造の部屋となっており、横手イルマは中央の机を前にして椅子に座っている。憔悴しきっていた天草とは対照的に横手は両脚を机に投げ出して横柄な態度で入室した3人を睨みつける。


「横手イルマさんですね? 初めまして警視庁捜査一課の杉本と申します。隣の彼は鶴川、後ろの机に着席したのが狩野です。どうぞよろしく」


 杉本は自分のペースを崩さず横手に対しても穏やかな口調で自分たちのことを紹介する。横手は「フン」と鼻で笑い、鶴川はその態度に対して睨みを利かせる。


「お勤めご苦労さん、刑事さん。だがな、俺は何も喋らねぇ。仲間を売るような真似はごめんだからな」


 DEEDのメンバーの中でトップクラスの実力を持つ横手はその自信からか拘束されている状況であっても余裕を持っており、全く恐れている様子はない。


「一瞬で戦闘不能にされた割に偉そうだな。自分の立場をわきまえろよ?」

「あぁ?」


 鶴川の言葉に反応し、横手は鶴川を睨みつける。杉本は鶴川に手の平を向けて制止して横手に向けて話し始める。


「それでは手短にお聞きします」

「答えねーっつってんだろうが!」


 横手の主張に対しても杉本は無視して話を続ける。


「〝仲間に関して〟ですよね? 僕がこれから聞くのはおそらくDEEDのメンバーのことではありませんよ」


 杉本は一度言葉を切りると横手の顔を覗き込み、再び話を再開する。


「今回のオークション、トラブルが起こりましたね? 特に警備に関して」


 横手は〝警備〟という単語を聞いた瞬間に杉本の方を見る。


「〝絶対に見つからない〟という話だったのに蓋を開けてみれば警備すら杜撰ずさんだったという証言を得ています」

「誰の証言だよ」

「守秘義務です」

「チッ」


 短い問答の後に再び杉本は言葉を続ける。


「僕は特定の場所、しかも巨大な範囲を別空間へ移動させる、又は大人数を別空間へ移動させるといった力を持つ超能力者の存在を予想しています。こちらがオークション会場を見つけられていなかったことから前者の方が有力と考えていますが。さらに……」


 横手は少し興味を持って杉本の話を聞いている。その様子から杉本は微笑みながら続ける。


「さらにこちらが事前に捕らえたDEEDのメンバーに該当する超能力者はいませんでした。別組織の可能性も考えましたが、同じく最近捕らえた者の中にそういった超能力者はいなかった。そして麻薬オークションは一大イベントです。それに対してそうした重要な超能力を協力者として提供すれば報酬は大きなものとなるでしょう。抗争の情報もないことから拒否する理由がない。その者は何か独立した組織、もしくは個人でしかも金にあまり興味が無くあなた方のような活動もしていない者。おそらく別の部分で取り引きがあったと予想できますが、何らかの理由で反故ほごになったのでしょう。いかがでしょう?」


 杉本の推理に対して鶴川と狩野は感嘆する。それは敵視していたはずの横手もまた同じであった。


「あんた……結構やるな」


 横手は意図せず素直に杉本を称賛してしまったことに対して気まずそうな表情を浮かべる。


「どうもありがとう。それにもしも協力して下さればDEEDの残党に関して僕たちは関与しないことをお約束しましょう。それにあなた方への対処のついても僕が上に考慮するようお伝えします」


 狩野が少し焦った表情で間に入ろうするがそれを鶴川が止める。


「ほう……。あんた見た目によらず話が分かるな」

「おやおや、僕は使えるものは出し惜しみせず使う性質たちですよ?」


 横手はクククと笑った後に杉本に告げる。


「気に入ったぜ。それにあいつらは俺たちとは別世界の連中だからな」


 横手は少しだけ間を開けて再び口を開く。


「気持ちの悪い仮面を着けた2人組がよ」


(不協の十二音……!)


 横手の一言に杉本、鶴川、狩野の3人は十二音の関与を確信した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る