第92話 - 田川 vs 中本

(部屋の四隅と中央の1つで合計5台)


 花は中本が話し終わる前に天井に設置されている機銃の数を把握する。


(私の身体能力では弾丸全てを避けたり、サイクスを強く纏って無傷で防いだりすることは不可能)


 中本が部屋を出た瞬間、花は〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス〟を解除した。なるべく多くのサイクスを全身に纏うと〝アウター・サイクス〟によってそのままサイクスを安定させる。さらに〝第六感シックス〟を自身の周囲2メートルまでに設定する。範囲内に入った弾丸の軌道を正確に把握して躱すことを試みる。この際、花は弾丸全て避けようとは考えておらず、致命傷を避けることに尽力した。

 銃弾の雨の中、花は致命傷を避けつつXRクロスリアリティ機能を起動、地下シェルターのセキュリティーコードを取り出して緊急射撃解除コードを送信した。


(中本が使っていたのはおそらくオリジナルのセキュリティーコード。私のは警備エリアの管理室からデータを解析して私が作ったもの。オリジナルから下された命令を解除するには少し時間がかかってしまう……)


 花の解除コードが緊急射撃に反映されるまで約2秒。機銃は1秒辺り15発の弾丸を撃ち込む。これが5台あるために花は2秒間で150発の弾丸に耐えなければならない。


 2秒後、機銃は停止する。


 激しい射撃により舞い上がった粉塵を掻き分けながら花が和人に連絡を入れる。


「和人、聞こえる? 地下シェルターには中本しかいなかったわ。おそらく近藤と人質の2人もいない」

「花さん、やっと連絡が繋がった!」


 和人は手早く状況を説明し、田川が向かっていることも同時に伝える。


「了解。中本は今、避難エリアを飛び出したところよ。私もすぐに追いかけて挟み撃ちにする」


 花はその場から動こうとすると右脚に痛みが走る。


ッッ!」 


 軽く舌打ちをした後に袖を破って出血部分に巻いて止血を試みる。


(少しサイクスをケチり過ぎたかもね、怪我をし過ぎた)


 サイクス量の多くない花は、l機銃に耐え抜いた後の中本との戦闘にも備えてサイクスをなるべく抑えるようにしていた。頰から流れる血を拭った後に花は部屋を飛び出した。


#####


(勝は……本当にやられちまったのか?)


 中本は避難エリアを出た後にそのまま真っ直ぐ進み、所々で倒れている部下を確認している。


(さっきの奴が1人で全部やったのか? だとしたら相当強い……。近藤はあまり気に留めてなかったが、応援要請があったんじゃないか? 皆藤を倒すような奴が福岡警察にいたか?)


 近藤組は多くの人員を百道浜に割いており、コンテナターミナルに残っていた人数は通常の半分以下となっていた。百道浜へと向かった人員は県警、ホテルオーキの警備員、大木芽衣による尽力、そして気紛れ的に近藤組を排除していた吉塚仁によってほぼ帰還することができていない。 

 近藤が予想外に重傷を負って帰ったことでコンテナターミナルに残る部下のほとんどはコンテナ船へと人員を割いている。瑞希たちがコンテナターミナルへ侵入するのにはベストなタイミングだった。


「何だ、お前?」


 歩を進めていた中本の目の前に拳銃を構えた田川が立ち塞がる。


「手を挙げろ。地下シェルターは既に制圧している」


 中本は半身の状態で左腕を曲げて前に出しながら急所を隠しつつサイクスを纏って田川に突進する。


(俺の超能力は戦闘特化の力じゃねぇ。だがな、俺も身体刺激型超能力者だ)


 田川はすぐに引き金を引いて3発の銃弾を浴びせた。


「ぐぅ……ッ!」


 全弾中本の左腕に命中するがサイクスによって強化されたその肉体に致命傷を負わせることができない。そのまま中本は田川に右拳で殴りかかる。


「くっ! 重い……!」


 田川はとっさに左腕でガードするが、サイクスによって強化された拳の重さにたじろぐ。中本は左足で前蹴りを見舞うがそれを田川は躱し、足にサイクスを込めて少し距離を置くために後ろへ下がる。

 それを見た中本はしまっておいた拳銃を取り出して発砲する。足にサイクスを込めたことによって手薄になった田川の左肩に銃弾が命中する。田川は衝撃で後ろに倒れ込みながらハンドガンの引き金を引く。


「!?」


 その威力は先程とは全く比べ物にならないもので、中本のサイクスによるガードを突破して右肩に命中し、大量の出血を施す。


(何だ!? サイクスを込めて撃ってきやがったのか!? 物質刺激型超能力者だとしてもダメージがでけぇぞ!?)


––––〝火力増強銃バースト・ショット


 田川のハンドガン限定で使用可能な物質刺激型超能力である。複数の弾を消費して1発の弾にまとめて発射し、威力を底上げする。最大で1マガジン分(15発)をまとめることが出来る。その最大火力は人体を破壊するのに十分なものである。代わりに消費する弾数によって射出されるまでの時間は長くなる。 

 田川は5発を消費して中本の右肩に命中させた。その衝撃で中本が持っていた拳銃は吹き飛ばされる。中本は右手を押さえながらその場に座り込んだ。サイクスを込めてダメージを最小限に抑えていた田川は銃口を向けながら少しずつ近付く。


(さぁ。もっと近付いて来い!)


 中本は左手の袖に隠してあるナイフで田川の胸に突き刺そうと企んでおり、なるべく苦しんでいるように振る舞う。瞬間、背後から銃声がし、中本の左腕、両ふくらはぎ付近に命中、中本は呻き声を上げつつ倒れ込んだ。


「うぐぅ……ッ!!」


 花が銃を構えて立っていた。


「危険人物を捕らえる場合は、確実に動きを止めることですよ」


 その冷んやりとした金属のように温度の低い声色には同じ警察組織である田川も身震いする。 


「さて、私たちも上へ行きましょう。和人から話は聞きました。瑞希の言う通りならコンテナ船へ急がないと」


 花は中本に手錠と異不錠をかけながら田川に告げる。


「ふん、お前らに勇樹を捕まえるなんて無理だ! 絶対にな!」


 地面に押さえつけられながら喚く中本を見下しながら花が答える。


「あら、そう。楽しみね」


 そう言い残し、中本を気絶させて出口へと向かった。




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