第30話 - クラスマッチ③
「今日のクラスマッチも頑張ってね。明日の最終日はお母さん、見に行けると思うから」
「別に無理しなくても良いよ」
(才能の無い人間が来たって分かんないでしょ。私の超能力だと特に)
母の激励も全く響かない。
(サイクスが後天的に発生したらしいけどあんなバカ兄、たかが知れてる。それの捜査に苦労している警察も無能が多いのね)
樋口凛は東京第三地区高等学校3年生で樋口兼の実の妹である。先天性超能力者で小さい頃から学業も超能力も努力を続け、トップ校である第三地区高校に入学した。本人はこのことを誇りに思うと同時にサイクスが少ない両親、そしてサイクスを持たない兄のことを軽蔑している。
樋口凛は、今回のクラスマッチでは女子
(女子バスケも女子ドッジボールもこの私が主役よ。この間、入学したての1年生なんか冗談じゃない)
彼女にとって才能のない者は軽蔑の対象、逆に才能ある者は嫉妬の対象である。
(月島瑞希。その才能と容姿で今回かなり注目されている。彼女のいる1年1組とは当たるとすればどちらも決勝トーナメント。その可愛い顔も才能も私がひねり潰してやるわ)
そう決意し、樋口は高校へと向かった。
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「ねぇ、本当に私、嫌われてない? 大丈夫?」
瑞希が半べそをかいている。
「大丈夫、大丈夫! あの、ほら、瑞希は高嶺の花的な感じでどう書けばいいか分かんなかったんだよ!」
「そうそう!」
綾子を始め、周りの生徒たちが瑞希を慰める。
––––話は昼食後の13時半頃に遡る。
「お店の都合で注文してたクラスタオルさっきようやく届きました。遅くなってごめんなさい。クラスマッチ、皆んなでこれ持って応援しよ!」
そう言って副委員長の豊島萌がクラスタオルを全員に配った。クラスタオルには真ん中に『1年1組優勝! ファイト!』とプリントされ、その周りにはクラス全員の名前が書かれている。書かれた名前は大概、あだ名や下の名前がプリントされている。しかし、瑞希だけ漢字で『月島』とだけプリントされていて本人は疎外感を味わったのだ。
「ほ、ほら俺も名字で書かれてるぜ、な?」
城島が『じょーじま』とプリントされた箇所を見せて慰める。
「でも城島くんのは平仮名で可愛いし、伸ばし棒もあって可愛いもん」
城島は「よく分かんね」とお手上げ状態になる。
「ちょっと委員長、何でこんななってんのよ」
萌はクラス委員長の
「いや、豊島に発注頼まれたけど、何て呼んでんのかなんて知らないし特に俺は超能力者じゃないから超能力者組、特に月島さんとはほとんどど話したことないし……ごめん……」
それを聞いて綾子は瑞希を元気付ける。
「ほら! 高嶺の花ってことだよ! しょげてないで頑張ろ! ね!」
瑞希は「委員長さん、そんなこと言ってないよ」と元気のない様子で話を聞いている。
「よし! それじゃあ月島さん、いや瑞希を応援するときは皆んな下の名前で『瑞希』って応援しよう!」
志乃が提案し、クラス全員が応じる。
「志乃ちゃんありがとう!」
萌が志乃にお礼を言う。
「意外と瑞希も子供なとこあんだね。それにほら、うちのエースには気持ち良くプレーしてもらわなきゃね」
志乃は笑いながら話した。
瑞希は午前中かなりのハードな日程でドッジボールの予選3戦全勝、その後の準決勝も勝利し、決勝進出を決めた。また、女バスの残り予選2試合も勝利し、準決勝へと駒を進めた。
少し時間を開けて15時から男女混合
試合は外野1人、内野5人でスタートし、内野の選手は一度アウトになると外野に移動、内野に戻ることはできなくなる。ただし、最初に外野となっている選手は審判に宣告することで内野へ行くことを許される。またこの権限は別選手へ移行すること(シフト権)ができて、これを行使すると内野に戻る権限は剥奪される。
選手が整列している様子を阿部翔子が眺め、一目で瑞希の様子がおかしいことに気付く。
(瑞希ちゃん、午前中に比べてサイクスが不安定? 疲れから? それにサイクスの回復もまだ十分じゃない? さすがに連日こんなに続くとキツイ? でも何だか別の要素のような……)
両チームがそれぞれコートに移動する。1年1組は月島瑞希(7番)、西条綾子(5番)、田上由紀(1番)、城島康太(10番)、大久保海斗(4番)、
城島がジャンケンに勝利し、1年1組のボールから開始される。審判の開始の合図とともに城島はサイクスを右手に込めボールを敵選手に向かって投げ込んだ。勢いよく回転のかかったボールは
(ボールをキャッチしてから投げるまでの流れが早い! サイクスの移動はさすが上級生って感じね)
大久保も捕球する態勢を整えるが直前でボールが曲がり右の瑞希目がけて方向を転換する。
「!?」
サイクスと意思は大きく関連し、その中でも〝害意〟や〝悪意〟といった感情を込めることは難しくこれは高校生の学習範囲外である。ボールを〝
実質的に『ボールを投げた攻撃側は投げた後に一度だけ〝
意表を突かれたとはいえ、ボールのスピードや込められたサイクスの量から考えて瑞希には対応できるボールだった。しかし、昼の出来事が若干まだ尾を引いている瑞希の精神状態がサイクスに不安定さをもたらす。
(しまっ!)
反応が遅れた瑞希は捕球を諦め、ボールを避けることに切り替える。それを予測していた外野の
「アウト!」
審判から発せられたアウトコールが体育館に響き渡る。
ここまで印象的な活躍を続けていた選手のいきなりのアウト。観戦者から驚きの声が上がる。
(何だ、あの子。騒がれるほど大したことないじゃない。余裕ね)
内野の樋口凛は外野へ移動する瑞希を目で追いながらほくそ笑んだ。
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