第19話 - 瑞希の弱点
時刻は19時30分を回り、既に陽は沈み辺りは暗闇に包まれていた。サイクス第二研究所は人里から少し離れた山中に建設されている。それにも関わらず、研究所から放たれる輝きはまるで野外ライブが行われているかの如く一帯を照らしている。
瑞希、和人、花、田島梨花の4人は出口へ向かうために13階にある訓練室Aからエレベーターの中にいた。
「和人くんはどうやって帰るの?」
「俺は地区接続電車に乗って第1地区まで行った後に地下鉄に乗って帰るよ」
「どのくらいかかるの?」
「まぁ第3地区から第1地区は20分くらいでそこから家まで10分くらいだから30分前後ってとこだよ」
「そんなもんなんだねー。私も行ってみたいな」
「遊びおいでよ。俺案内するよ」
「うん。行くときにはお願いしよっかな」
和人は少し躊躇した後に瑞希に尋ねる。
「じゃあ……瑞希の連絡先教えてよ」
瑞希は少し驚いた表情をしてから逆に聞き返す。
「あれ? 私、和人くんの連絡先知らなかったっけ?」
「俺知らないよ」
「え、じゃあ交換しよっ」
瑞希はそう言って携帯を取り出して電話番号を表示する。和人はそれを登録してメッセージを送った。
「届いた。ありがとう」
瑞希はニッコリと笑い、和人は少し照れ臭そうに笑う。ちょうどエレベーターの扉が開き、4人は出口へと向かう。先ほどの受付の女性は既に退勤しており、数人の研究者たちは少々疲れた表情を見せながら帰宅するところだった。
〝玲奈が迎えに向かってる。あと少しで着くから待ってて〟
愛香からメッセージが瑞希に届く。〝了解〟と返信し、3人に伝えた。機を見て和人も一向に別れを告げる。
「じゃあ俺帰るわ」
「うん、お互い頑張ろうね」
「そうだな。そういや少し安心したよ」
「何が?」
「いや、瑞希って大概のことはすぐにこなしちゃう人間離れしたイメージだったから」
「そう?」
「いや、そうでしょ」
瑞希は少し苦笑いをする。確かに特にサイクスのことであればすぐに修得していたが今日の内容は少し苦戦した。
「まぁお前なら来週には完璧になってんだろーけど」
瑞希は「さぁ」と肩をすくめる。
「じゃあ、また来週な」
「うん、気を付けてね」
「ありがとう」
和人は瑞希に別れを告げ、花と田島にも一礼して研究所を後にした。
「和人も少し勇気出したわね」
「??」
花は瑞希の様子を見て「やれやれ」と手を広げて出入り口の方を顎で指して瑞希に合図をする。
「玲奈さん!」
「瑞希ちゃん、お疲れ〜」
「1人で帰れるのに」
「夜に女の子1人は危ないからね」
2人の様子を少し見守った後、花が瑞希に伝える。
「じゃあ瑞希、今日言われたことしっかり実践するのよ」
「分かりました」
「じゃあ、3日後またここに」
「はーい、さようなら」
そう言って瑞希と玲奈は研究所を出て行った。
花が田島に声をかける。
「それで、田島さんどうでした?」
「2人ともとても優秀だと思います。月島さんは苦戦したみたいなことを言っていましたが、いきなりあのレベルの〝アウター・サイクス〟ができるのは素晴らしいです。p-Phoneを出している時とそうでない時のサイクス量にかなり差があるので感覚に四苦八苦しているみたいですが。それと……」
「自然消費量のことですね?」
「えぇ。そして特に膨大なサイクス量を持つ超能力者に多いのですが、〝
「確かに。上野との戦闘でもそれまでにサイクスを消費していたとはいえ、5分程度しか保ちませんでしたからね。長期戦を好む相手の場合、相性が最悪ね」
「瑞希さんの場合、〝アウター・サイクス〟と〝インナー・サイクス〟の修得はもちろんのこと、普段のサイクスの使い方について見直す必要がありますね。恐らく無駄が多いでしょう」
「サイクスの効率化・最適化が必須ってことですね。愛香や瀧はどちらかと言えばサイクスの量にものを言わせるタイプだし……」
「あら、それに対して花さんや玲奈さんはサイクスの扱い方が素晴らしいですよ」
「あはは。私たちはそもそもサイクス量が多くないですから。膨大なサイクス量を持ち、使い方の効率が良い超能力者と言えば……課長ですかね」
「確かに。タイプ的にはピッタリかもしれませんね」
少々面倒だなと花は少し唸る。
「霧島くんに関しては来週にはほぼ完璧に〝アウター・サイクス〟をこなしてくるでしょう。素晴らしい人材です」
「私もそう思います。彼はサイクスの量も多いし、扱い方にも長けているようです」
「いずれにせよ2人とも逸材です。政府は何としても『TRACKERS計画』に組み込みたいでしょうね」
花は愛香の顔を思い浮かべながら苦笑いをする。それを見て何かを察した田島は花の肩に手を置く。
「色々と事情がありそうですね。私はこれから退勤ですので。それでは」
そう言って田島は着替室の方へと向かって行った。花は「肌荒れそう」と呟きそのまま出口へと向かった。
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「どうだった?」
瑞希を乗せた車が高速道路に差しかかった時、おもむろに玲奈が瑞希に尋ねた。
「〝アウター・サイクス〟、難しいなって。苦手かも」
「少し分かる気がする」
「どうして?」
「サイクス量が多い超能力者の永久的な課題よ」
瑞希は感覚的にこのことを理解していた。そしてこれを克服することが自分の超能力を使いこなすための鍵となることも。
「できるようになると良いなぁ」
「すぐになるわよ」
玲奈は一瞬笑った後、p-Phoneを具現化し続けたまま疲労を隠しきれない瑞希を横目にハンドルを切った。
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