第13話 - 代償

「瑞希、前にも言ったけどボクはキミのサポート、そしてp-Phoneの管理が仕事なんだ」

「p-Phoneは私が複写コピーした超能力を保存しておくところなんだよね?」

「その通り。そしてキミのサイクス量を管理するんだ。そのアナウンスはボクがするよ」


 「ふむ」と瑞希は頷く。


「でも条件はすごく厳しいんでしょ?」

「そうさ。とても厳しい条件が付くんだ。まずは超能力の複写コピーの仕方から教えよう」

「お願い」

「〝書き写すものトランスクライバー〟はまず、対象の超能力者の残留サイクスを〝あなたの存在証明サイクスマッピング〟によって可視化させ、〝宝探しハイライト〟で強調表示させるんだ。そして実際にその超能力を見ること。最後に3メートル以内に近付き、p-Phoneをかざす。特定した超能力者の型と対象者の型が一致すれば完了だ。これを1時間以内に行うこと」


 一通り説明を聞くと瑞希は顎に手を当てながら呟く。


「そっか。私、徳田先生の足取りが途絶えた後、なっちゃんの残留サイクスを〝宝探しハイライト〟してたから最後のかざすやつだけで良かったんだ」

「そう。でも気を付けてね。キミが把握している部分しか複写コピーできないんだ。徳田花からの情報と〝病みつき幸せ生活ハッピー・ドープ〟を刺されて操作された事務員の2人を実際に見たから今回は結果的に完全にあの超能力を複写コピーできたのさ」

「なるほど。正確に超能力を把握した部分だけ複写コピーできるんだね」

「うん。上書きはできるけどその場合にはもう一度プロセスを行う必要があるし、その最中は上書きする前の複写コピーした超能力を使用することはできないよ」


 「超能力を複写コピーするだけでも大変ね」と溜め息をついた。


「ふふふ。瑞希、大変なのはこれからだよ」

「タダで自由に使えるはずないもんね……教えて」


 瑞希は覚悟を決めて尋ねた。


「OK。ここからは大変だからしっかり付いて来てね。少し数学を始めようか」

「数学?」

「うん。瑞希得意でしょ?」

「まぁ」


 そしてピボットによる説明が始まった。


「まずはサイクスの数値化をしよう。単位をpsychsbyteサイクスバイト、PBとするよ。基準値としてキミのサイクス量を200PBとするんだ」

「分かりやすく100PBじゃないんだ」

「この後の数値化に分かりやすいから200PBとするんだ」

「そうなんだ」


 少し間を置いてピボットは続けた。


「じゃあ続けるよ? 瑞希、これをタップしてみて」


 ピボットは〝p-Cloud〟と書かれているアプリを指差している。瑞希は「p-Cloud……?」と呟きながら瑞希は言う通りにタップした。

 一番上の欄には残量89PB、その1つ下の欄には〝病みつき幸せ生活ハッピー・ドープ〟と書かれ、その隣には11PBと書かれている。


「これって……」

「そう、ここには瑞希が複写コピーした超能力とその必要サイクス量が記された項目が一覧になって表示されるんだ。今、p-Cloud内には〝病みつき幸せ生活ハッピー・ドープ〟が保存されていて11PB使用されているんだよ」

「なるほど」

「ここからよく聞いてね。瑞希、p-Cloudの容量は100PB。これはキミのサイクスから使用されているんだ」

「!? ちょっと待って。私のサイクス量って全部で200PBよね?」

「そう。そのうち100PBをp-Cloudに使用していることになるんだ。p-Cloudに保存できる超能力は100PB−11PBであと89PB。もし新たな超能力を保存する時に合計が100PBを超えてしまう場合、10秒以内に削除する超能力を決めないといけないんだ。10秒を超えた時は古い超能力から順に削除されていく仕組みさ」


 つまり、瑞希は200PBのうち半分の100PBをp-Cloudに強制的に費やされるため、瑞希が使える残りのサイクス量は100PBと言うことになる。


「私のサイクス、半分になっちゃった……」

「残念がっているところ申し訳ないけどこれは超能力を〝保存する〟のに使われるサイクス量なんだ」

「他にもあるの?」


 瑞希はゴクリと唾を飲み込んだ。


「そう。今度は保存した超能力を使用する時のことを説明するよ」


 瑞希は「次はどのような条件が付くのだろうか」と少し不安に思った。


「一度に使用できる超能力は50PBまで。31PB以上の超能力は他の超能力と併用できないけど、30PBまでの超能力なら併用はいくらでもできる。そしてこの50PBも瑞希、キミのサイクスから使用される」

「ってことは……」

「キミがp-Phoneを発動させた場合、自由に使えるサイクスは50PBだけだ。そしてこの50PBを使い切ってしまったらキミは強制的に3時間サイクスを全く使えなくなるんだ」


 瑞希は驚愕した。もしも戦闘時にp-Phoneを発動した場合、瑞希は全サイクス量のうち3/4を強制的にp-Phoneに使われてしまうのだ。


「そんな……!!」

「ちなみに〝あなたの存在証明サイクス・マッピング〟はキミの特異体質だからサイクスが消費されることはないけど〝宝探しハイライト〟と〝書き写すものトランスクライバー〟はそれぞれ5PB消費される。つまり瑞希、キミは菜々美と戦闘が始まった時点で少なくとも160PBを消費していたことになるんだ」


(なっちゃんとの戦闘の際、異常に疲れがあったのは精神的なものだと思っていたけどサイクスの消費量がそもそも大きかったのか……!!)


 瑞希の表情を見てピボットは悪戯っぽく笑う。


「ビックリした? けど瑞希の圧倒的なサイクス量が無ければそもそもこんな凄い超能力は得ることができなかったんだよ。誇って良いよ」


 なぜかピボット自身が誇らしげに話した。


「確かに凄いかもしれないけど……」

「でもあの状況で菜々美と互角にやり合うには手っ取り早く菜々美と同じ超能力を使った方が良いでしょ? とっても良い解決策だったと思うよ」


 瑞希はふと気になったことを尋ねた


「ちょっと待って。今はどうなっているの? 今は複写コピーした超能力は使っていないけどp-Phone自体は発動しているわ」

「よく気付いたね。勿論、今もキミは150PBを〝先払い〟しているよ。ただ保存されている超能力自体を発動していないからボクらが消えたらその150PBはキミの元に戻ってくるんだ。ただし、一度でも超能力を使用したら150PBが消費されることになるけどね」


 何て超能力だ。


「つまりあなたは今私から〝借金〟していることになるわね」

「あはは。意地悪な言い方だけど間違っていないね。まぁボクとお話したい時は〝タダ〟だから安心しなよ」


 ピボットは少しイタズラっぽく笑った。


 瑞希は溜め息をついて愛香に超能力の説明をしようとリビングへと向かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る