第9話 - Pi-bot (ピボット)
––––お願い……こっちに来ないで……
花を吹き飛ばした後に愛しい表情で近付いてくる菜々美に対して瑞希は恐怖した。7歳の頃から共に成長してきた幼馴染みに対して抱く初めての感情である。
(腰が抜けて……動けない……怖い……)
「月ちゃん、可愛い……」
瑞希は恐怖で身体を動かすことすら出来ずに菜々美に両頬をなぞられながら舌をねじ込まれ、されるがままにキスをされる。
花が"
「月ちゃん、2人でゆっくりいっぱい楽しめるように邪魔なものは消しちゃおうね」
そう言って菜々美は花の方へと向かった。
––––先生が危ない
瑞希は花の身の危険を感じ、必死に自分の身体を動かそうと試みた。
(お願い! 動いて! 先生が……! 危ないの!)
それでもなかなか身体を動かすことができない。
瑞希は涙を溢れさせながら花を救いたいと更に強く願う。
––––瑞希の強い思いとサイクスの圧倒的な
そのサイクスは瑞希を中心に旧校舎全体を覆うほどに強大なものとなり、また、それは瑞希の今の精神状態を容易に汲み取ることができるほどに警戒が無く、その場にいる者達全員を一斉に警戒態勢へと移行させた。
(これは……このサイクスは、月島さんの!?)
(月ちゃん!?)
ほぼ同時に花と菜々美がサイクスの発生源を特定し、そのサイクスによって生成されたと
(何だかこれまで以上にサイクスが
(今、私が考えるべきは如何にして徳田先生を救うか。そして〝
––––それに関しては問題ないよ
その時、瑞希の脳内に直接何者かが話しかける。
(誰!?)
––––ボクはキミから創られたマスコットだよ。右手のスマホを見て
瑞希はその時初めて自分の右手にスマホが握られていることに気付いた。
(いつの間に!? 私が具現化したの?)
「その通りだよ」
スマホの画面には見る者全てを吸い込むような美しい金色の瞳を持ち、垂れ耳でキジトラ模様の毛色が特徴的な猫のキャラクターが瑞希に話しかけていた。
「あなたは?」
「ボクの名前は
「問題ないって言うのはどういうこと?」
自らの強い思いで生成されたからか、瑞希はピボットやp-Phoneの出現をすんなりと受け入れることができた。
「ふふっ。キミは飲み込みが早くて賢いな。それにとても良い判断だ」
「良いから早く教えて」
「おっと、無駄話をしてしまったね。瑞希、キミの特技は何だい?」
––––私の特技……。
「残留サイクスが見れること?」
「確かにそれもそうだね。けどもっとキミが日常的に得意としているものだよ。何もそれは超能力に限ったことじゃない」
……私の特技?
「キミは真似することが得意じゃなかった?」
*****
「でも月ちゃん大体1回見たら出来るようになるよね。超能力に限らずだけど。勉強もだし、ほら体育とか楽器とかさ。ピアノしかやったことないのに、ギター直ぐ弾けてたのとかビックリしちゃったもん。あと耳コピも早いよね」
「何となくでだけど見てみたらできてたって感じかなぁ。耳コピも実際の映像見た方が早いし。別に指の動きを見てるってわけではないんだけど……」
※プロローグより
*****
「いやでもそんなこと」
「ふふふ。もちろんタダできるなんて言わないさ。でも、もうほとんど条件は整っているんだ。瑞希、菜々美の3メートル以内に近付いてp-Phoneをかざしてみて」
「3メートルって……」
「ふふふ。頑張って。瑞希なら出来るよ」
瑞希は何か使える物がないか辺りを見回した。
「月ちゃん、そんなに沢山のサイクス量……。どうしたの?」
菜々美が最大限に警戒しながら瑞希に声をかける。窮地に立たされた瑞希が具現化したスマホ。そして彼女の膨大なサイクス量。どのような
瑞希はこの警戒心を利用しようと考えた。
人間の意思とサイクスは密接に関係する。4年前の愛香や
それに関してサイクスを使って物を浮かせるなどの〝
無論、瑞希もこの手法の訓練はしていない。
しかし、瑞希は菜々美の警戒心を利用してただの〝
瑞希や菜々美にとって本来は授業の実技において基本動作として行う程度の簡単な操作であるが、瑞希のスマホをかざす動作も相まって菜々美の意識を背後に向けることに成功した。
その隙に瑞希は菜々美の3メートル圏内へと侵入することに成功する。
––––
––––超能力・〝
「
〝
––––
––––超能力・〝
菜々美が異様なサイクスに気付いた瞬間、既に瑞希は花を抱えて距離を取って壁に寄りかからせていた。
「どうやって……!?」
瑞希の右手には〝
「さすがは瑞希。キミは賢い女の子だ」
ピボットは画面の中で手を叩いて瑞希を賞賛した。
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