俺のスキル《錯覚》が強すぎるんだが

牛富

第1話 注意力と不注意




ここは、サラリーマンやOL、学生など様々な人で賑わっている街。



そんな中、その人混みをカフェで抹茶フラペチーノを飲みながら観察している男がいた。



黒髪黒目、中肉中背、歳は20後半の何処にでも居そうな顔立ちをした男だ。


「あのサラリーマンは60、あのOLは80、あの老人は95。はぁ...」


そんな訳の分からない事をブツブツとオシャレなカフェで言ってるもんだから周りの客が不審がっていた。



だが男はそんな周りからの目線など意にも返さず、目の前の人混みだけを見ていた。



「おっ!10だ!!!」



そう言って立ち上がると、すぐに会計を済まし店を出ていく。



「はぁ、今月もまたノルマ達成出来なかった...今日もあのクソ課長に怒られた。」

と言いながらとぼとぼと下を向いて歩いているサラリーマンがいた。



こんな人混みを下を向いて歩いているもんだから当然前から来る人など見ておらず、前から来た男とぶつかってしまう。



―――ドンッ!スッ


「あっ、すいません。」


「いえいえ、お気になさらず」



サラリーマンの男が謝り、ぶつかった男は何も無かったかのように去っていく。


「クックック、チョロいな」



男はそう言って左手に持っていた財布を確認する。

そうこの男はさっきのカフェで1人1人の注意力を確認しながら品定めしており、注意力が低い獲物を探していたのだ。



「おっ、結構入ってんなぁ。久しぶりに叙留苑の肉でも食べるかー」



男は上機嫌にスキップしながら回れ右をして目的の場所まで向かおうとしていた。

しかし、目の前にさっき財布を盗んだサラリーマンが信号が赤なのに下を向きながら歩いていた。


「おい!お前危ねーぞ!!」


と信号待ちをしていた40代の男に注意されていたがそんな声に全く気づかず、横から来るトラックに轢かれそうになっていた。



「チッ!注意力が低いと思ってたけどまさかここまでとはな!」



さっき財布を盗んだ男はそう言うと自分でも気づかないほどに走り出していた。

サラリーマンの男がトラックにぶつかりそうになった瞬間に後ろから力強く押して自分が轢かれた。


-----ドォンッ!!グシャッ!!


まるでトマトが潰れるような音がした後、周りの人達が駆け寄り「おい!救急車早く呼べ!」とさっき注意をした男が周りに呼びかけその場は混乱していた。



(はぁ。なーんであんな男庇っちまったんだろーな。こんなクズな俺にも良心なんかあったのか?ハハハッ、いいや偽善だな。)



男はそう心の中で思い、自分の命が尽きそうと感じいる時、助けたサラリーマンの男と目が合った。



「な、なんで私なんかを...私の不注意なのに...私が死ねばよかったのに...私なんてこの世にいらない人間なのに」



そう言いながら呆然と立ち尽くしている男を見て、どこか過去の自分と重なった。そんな事を思いながら男は命を引き取った。





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