開花

 魔法を使うため、深呼吸して意識を集中させると、不思議とこれまで制御出来なかった魔力が体内で落ち着くのを感じる。

 これまでどれだけ集中しようとしても魔力がここまで落ち着くことはなかったのに……。これはもしかすると今回はちゃんと魔法を使えるのではないか。


 そんな期待が嫌でも自分の中で高まってくるのを感じる。

 婚約破棄もされて実家からも追い出されてしまったけど、今からでも魔法がきちんと使えるようになればそれでも全然ましだ。


 むしろ実家にいたままであればちょっとぐらい魔法を使えるようになったところで、父上や他の人々の陰に隠れて目立たないままだ。それよりも今はせっかく暇な時間が増えたのだから、一人で魔法を楽しんだ方がいいかもしれない。


 そう思って私は屋敷の裏庭に出ると、周囲に人がいないことを確認する。いくらこの家の人に何も期待されていないとはいえ、万一失敗した場合見られたくはない。

 誰もいなかったので、まずは一番基本と言われる魔法を使ってみることにする。


「サモン・ノーム」


 すると私の目の前に魔力が集まり、目の前の地面から手の平に乗るぐらいの、可愛らしい土の妖精が出現するのが見える。


「わああ、すごい!」


 それを見て私はつい声をあげてしまう。一時期は召喚することが出来たが、最近は全然だめだった魔法が使えるようになったなんて。

 他の貴族であれば多少魔法の心得がある者は誰でも使えるような魔法だが、私はしばらくの間感動に浸っていた。


 目の前のノームは突然召喚されたせいか、周囲を見回してきょろきょろと戸惑っている。

 なら次はノームに何かさせてみよう。ノームは土の妖精だから植物関係のことが出来るはずだ。


「試しに花を咲かせてみて」


 私は妖精語で彼(?)に語り掛ける。幸い言葉は勉強すれば出来るようになるので、魔法に比べて得意だった。魔法の苦手を妖精語の勉強で補おうとしていたこともあり、私は結構妖精語が得意だ。

 するとノームは一つ頷くと、すぐに私の前に一輪の花を咲かせる。


「わあ、きれい……じゃあハーブは?」


 すると今度はすぐにハーブが私の前に生えてくる。

 しかも青々としていてほのかにいい香りが漂ってくる。


「あなたの力ならハーブを何本も生やすことが出来る?」


 するとそんな私の言葉を肯定するように、ノームは次々と私の前に薬草を生やしていく。

 それを見て私は今まで全く魔法が使えなかったのが嘘のように感じられ、すっかり夢中になってしまう。


「わあ、すごい! ねえ、もっと色々な植物を生やすことが出来る!?」


 私の声に応じてノームは次々と植物を咲かせていく。図鑑でしか見たことのないような貴重な植物や、この辺りでは全く見かけないような花まで色んなものが目の前に咲き乱れていく。

 ただの屋敷の裏庭だったところは気が付くと小さな植物園のようになっていた。


「わあ、きれい……」


 そんな私の言葉にノームは照れたように頬をかくのだった。

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