4-1話  文化祭の準備

 拓海たくみ莉子りこは2組の教室に入った。夏休みだが、文化祭の準備の一環ということで多くのクラスメイトが来ることになっている。


 浩太こうた、クラリス、キマロが早速莉子に声をかけてきた。旅行先でのヴァンパイア事件についてだ。


「莉子ちゃん、本当に大丈夫だった?」

「でもリコ、大手柄よね!」

 既に連絡は取り合っていたが、事件後に直接顔を合わせるのはこれが初めてだったので、拓海たちはこの場で改めて顛末を語り合った。


「いやホント、クラリスとキマロがいてくれて良かった……」

「そうね。もし二人がいなかったら私たち危なかったもん……」

「ふふん、何しろワシは竜神族じゃからな! ワシが身体強化術をかけたら、余程の者でなければ負けはせん」

 キマロが自慢気に言う。しかし、本当にその通りだと拓海は思った。戦ったのはぎくの方だったが、拓海と日菜菊の体力差など、キマロの魔術の前ではあってないようなものだった。


「ルビーさんも、竜神族って何なんだろう、って言ってたよ」

「まあ、チキュウのことわりで理解する必要もなかろう」

 拓海の問いにキマロが答えた。


「クラリスもフラフラになるまで回復魔術を使ってくれてたもんな」

 浩太が言った。


「友達の大ピンチだもん。そりゃ頑張るよ」

「クラリス~……」

 莉子がクラリスに抱きついた。クラリスは答えるように莉子の背中をポンポンと叩いた。


「なんだなんだ、怪異研究会、また何かあったのか?」

 男子生徒が話しかけてきた。


「それがね……」

 別の場所にいた日菜菊が合流し、ヴァンパイアと戦ったことを明かした。




「えええ、そんなことが……!?」

「ヴァンパイアも本当にいるんだ……」

「ちょっと、日菜菊も莉子も、色々起こり過ぎじゃない?」

 拓海たちは詳細を明かしたわけではなかったが、かなり危険な戦いだったことは伝わったようで、クラスメイトは口々に心配の声を上げている。



「まあ、ひとまず大丈夫だったから」

「そうそう。お土産買ってきたから皆で食べてよ」

 日菜菊と莉子は、旅行の帰りに買ったお土産を机に並べた。


「お、いいね!」

「ありがと」

「もらうよ」

 クラスメイトは次々とお土産に手をつけていった。



 クラス委員長をしている愛佳あいかを中心に、文化祭の題目であるお化け屋敷をどのような構成にするかということがこの日のトピックだった。怪異研究会の面々だけでなく、全員が怪異と絡んでいるクラスなので、良いものにしようという気運が高まっている。


「キマロにお化け役やってもらうのはどう?」

「キマロじゃダメでしょ。可愛いもん」

「いやいや、自由に空を飛べるのは大きい。何か脅かす役ができるんじゃないか」

 というキマロについての議論もあった。


「文化祭の日って、満月? やっぱ剣持けんもち先生の変身が最強じゃね?」

「前もそんな議論出たよね。やり過ぎだと思うけどなぁ……」

「残念ながら、満月は昼間には見れないよ」

 これは狼男である剣持を投入するかどうかの議論だ。


「怪異研究会、何か、お化け屋敷向きな魔具とかないの?」

「お化け屋敷向きか……。今すぐは思いつかないなぁ」

「ルビーさんの店でも何か探してみようか」

 怪異研究会も、お化け屋敷向きの何かを探すことになった。



 このように様々な相談が行われ、あっという間に昼になった。


 拓海は鞄から弁当を出した。夏休みの学食運営は限定的なのだ。


「お、不室ふむろ、それは愛妻弁当か?」

「そうなのか、不室!?」

「ん? 莉子と一緒に作った」

 男子が拓海を茶化したが、拓海は堂々と言い返した。


「う……。想定を上回ってきたな」

 茶化した男子たちはうなだれる。


「そういうの、いいな~」

「いい付き合い方してるね」

 女子たちも反応してきた。莉子も鞄から弁当を出し、その女子たちと談笑する。


 さらに、拓海はもう一つ弁当を出し、日菜菊に渡した。一緒に作ったとなれば、当然3人ふたり分だった。


「そのお互いの目を全く見なくても手渡しできるのが何とも……」

「割とうちのクラスの名物だよね……」

 生徒たちが拓海と日菜菊の様子を見ながら言った。こんな光景もだいぶこの2組に馴染んできていた。




 午後は、部活が終わって教室を訪れた生徒に午前中の情報を伝えただけでほぼ終わりだった。その後に部活に行く生徒も少なくない。拓海、莉子、日菜菊、浩太、クラリス、キマロも怪異研究会の資料室に向かった。


「お化け屋敷に使えそうな魔具か……。どんなのがあるかな」

「娯楽用途ってことだもんね。そういうのあるのかな」

 浩太と日菜菊が言った。


「クラリスとキマロにも聞きたいんだけど、魔術でそういうのはない?」

 問いかけたのは莉子だ。


「ああ、あるよ。チキュウのお化け屋敷というのとは違うかもしれないけど、ホラーの演出に魔術を使ったりするよ」

「確かにヒナタ・コンビがいれば実現はできそうじゃの」

「明日ゾダールハイム行くよね? 何か試してみよっか」

 クラリスとキマロからは肯定的な言葉が返ってきた。魂を共有しているが故に、拓海と日菜菊がこの世で唯一、異世界ゾダールハイムの魔術を地球で行使できる存在であることは怪異研究会のメンバーなら承知している。


 そんなことをワイワイ話し合っていると、資料室の扉からノック音が聞こえた。


「はいはーい」

 莉子が扉を開けて来訪者を出迎える。


「あれ、愛佳?」

 莉子の目の前にいたのは、先ほどクラスで議論のまとめ役もしていた愛佳だった。


「あのさ、天知あまちくん、まだいる?」

「コウちゃん? いるよ」


(……これは、あれだな。恋愛相談だな)

 拓海は何となくそう思った。中学時代にもよくある光景だったのだ。

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