2-11話 異世界での食事会

 デボールが去って少し経ったある日。放課後のホームルームで剣持けんもちが連絡事項を伝え終わると、待っていたように教室の前の扉が開き、不思議な服装をした二人が現れた。2組にとっては、異世界ゾダールハイムの人が来たとすぐに分かる状況だ。


「申し訳ない、ソウゴ殿。少し時間を頂戴したい」

 ゾダールハイム人に言われ、剣持は頭を抱えた。


「「「食事会!?」」」

 生徒たちの声が重なる。デボールの弟の手引で、デボールの非礼の詫びと婚約への手助けのお礼に、2組に食事を振る舞うというのだ。


「ほほう、面白いではないか! チキュウのみんなにもゾダールハイムの料理を食べてもらう良い機会じゃ!」

 キマロが言う。


 クラスメイトたちはノリノリだった。用のない者はすぐにでもついて行き、部活や別件がある者は後で向かうということになった。


拓海たくみ、行く?」

「行こうかな、母さんには今から伝えれば問題ないし。莉子りこはどうする?」

「行きたい、かな! 私も家に連絡入れるね」

 拓海と莉子も行くことにした。


 2組の生徒がぞろぞろと魔の13階段に向かう。


「なんだか、この階段も全然、謎の怪異って感じじゃなくなっちまったんじゃないか?」

 浩太こうたが拓海に言った。


「そうかも……。みんな使ってるもんなぁ」

 ほんの2ヶ月前までは怪異の存在も知らなかったというのに、と拓海は思った。


 ゲートの前まで来ると、ぎくはいつものように待機しようとした。


「ヒナギクも来ると良かろう」

 キマロが声をかけた。


「え、でも……」

「ゲート監視所までだったらもう全然未知の世界じゃないでしょ? そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」

 クラリスも日菜菊が来ることを促した。


「うーん、じゃあ、そうしようかな」

 とが言った。違う方向から飛んできた返答に、クラリスは『ホント不思議な人ね』と言いながら微笑んだ。




 ゲート監視所にはバーベキューの用意がされており、料理人と思われる人たちも訪れていた。


「これ、何の肉なの?」

「見たことない野菜あるぜ!」

 クラスメイトたちは、食材が置いてあるところを眺め、ざわついている。


 デボールの弟を名乗る人が前に出た。ふくよかな体型だったデボールと比べ、体格が良くハンサムと言える男だった。デボールの弟は改めて2組にデボールの行いを謝罪し、お見合いに協力したことにお礼を言った。


 料理人が前菜を持ってくると同時に食事会の開始となった。自由に調理して食べるバーベキューと、料理人が完成形の料理を運んでくるのが半々のスタイルだ。


「おお、美味い!!」

「やだ、感動!!」

「異世界の料理とか、食べたの俺たちが最初じゃね?」

 生徒たちは思い思いに楽しんでいる。




「拓海とヒナは何食べてるの?」

 莉子が野菜スープの入った器を手に持ちながら聞いた。


「私が魚で、『俺』が肉」

 口をモゴモゴ動かしている拓海に変わって日菜菊が答えた。


「ヒナタ・コンビは二人分の腹を使って違う食事を楽しめるんじゃな、そういえば」

「確かに、ちょっと羨ましいね」

 キマロとクラリスも会話に入ってきた。


「こういう時は嬉しい特性だと思うよ、自分でも」

 拓海が言い、今度は日菜菊が魚を頬張っている。拓海たちはクラリスにお勧めを聞きながら、色々な料理に手を付けていった。




宗吾そうご、お酒飲んでもいいんだよ?」

「いや、そういうわけにもいかないよ」

 柚希ゆずきと引率で来ている剣持が話している。剣持は少し食べてはいるものの、飲み物には手を付けていなかった。


「硬いわね、宗吾くん。異世界のお酒なんて、基本的に飲める機会ないのよ?」

「うわ、ルビー!?」

「あっ、ルビー、こんにちは」

 どこから話を聞きつけたのか、ルビーもこの場に混じっていた。そのまま剣持と柚希と談笑を始めた。




 時間が経ち、だんだん食べようという生徒も少なくなってきた。


「さ、さすがにお腹いっぱいかな……」

「俺と『私』もたいぶ食べた……」

 莉子と拓海が椅子に腰掛けて話している。なお、日菜菊はデザートコーナーで最後の1食の品定めをしていた。


「でも、料理、まだまだいっぱいあるな」

「まあ、たくさん食べそうな人たちがこれから来るけどね……」


 ちょうどそのタイミングで陸上部の村岡むらおかがゲートから現れた。

「あ、村岡くん来た」

「村岡、お疲れ」

 莉子と拓海が村岡に声をかけた。


「おう、お疲れ。ガッツリ練習して来たから腹減ってしょうがねえわ。これ、みんな食っていいの?」

 村岡はそう言って、皿の置いてあるテーブルに向かった。


 村岡に続いて、バスケ部の飛山とびやまや、部活を終えたクラスメイトが次々と現れ、食事会は第2戦の体をなしてきた。




 そんな中、ゲート監視所の広場にクラリスの声が響いた。


「さっき、聞かれたから答えたのに食べてないの!?」

 声を荒げている対象は浩太だ。


「いや、美味しいんだろうけど、もう腹いっぱいなんだって!」

 答えるように浩太が叫びのような声を上げた。


「ありゃりゃ、またやってるね、コウちゃんとクラリス」

「ホントにな」

 言い争いをする浩太とクラリスを見つめながら、莉子と拓海が言った。


「でも、ああいう態度を取る浩太は新鮮だよね」

 デザートを手に合流した日菜菊が言った。デボールのお見合い作戦の時の浩太は、中学の経験からいって浩太らしかったと拓海は思っている。だが、クラリスと一緒にいる時の浩太は、今までに見たことのない一面を見せているのだ。


「だいたいお前は! 少しは俺に感謝しろ! 大ピンチ、助けてやっただろ!」

 浩太はそう言うと、持っていた皿を片付けにテーブルに向かっていった。


「…………それについてはまあ、ありがとう……」

 クラリスが小声で言った。


「あ? 何か言ったか!?」

 それは浩太に届いていないようだった。


「!?……うっさい!」

 クラリスが頬を膨らませながら浩太の腕を叩いた。



 クラリスの様子を見ていた拓海は莉子を見た。莉子も拓海を見た。日菜菊も含めた3人ふたりは、クスリと笑った。


 きっと、浩太とクラリスのこれからにも、面白い展開が待っているのではないかと拓海は思った。



 File 2 異世界パニック 完

 次話より新章

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