2-9話  異世界お見合い大作戦1

「リコぉ~、ありがとぉ~……」

 ピンチを脱したクラリスが莉子りこの肩に額を押し付けていた。莉子はクラリスの肩を抱いて落ち着かせようとしている。


 デボールたちは椅子に縛り付けられ、2組の生徒に取り囲まれていた。中でも、事情を聞いて怒り顔の村岡むらおかが、デボールたちの前で腕組みをしながら直立不動で威圧をかけている。


「デボール、お主という奴は……。こんなことをしても誰も喜ばん。お主の家族に申し訳ないと思わんのか?」

 キマロがデボールを諭す。


 すると、デボールが泣きながら語りだした。


「僕だって、頑張って来たんだよ! 恋愛だってしようとしたし、お見合いだって何度も何度もしてきたさ! けど、誰も僕を受け入れてなんてくれなかったんだ!! 全敗だぞ、全敗!! ストレスでどんどん太るし、お前らみたいに未来あるガキ共に分かるかよ!!」

 手下たちも泣いている。手下たちの表情はまるで『おいたわしや』という言葉が読み取れそうなものだった。


「それで最後の手段で、契約のちぎりってのが残ってるクラリスのところに来たってこと!?」

「うっわ、最低だな、このおっさん!」

「キモいキモい!!」

 クラスメイトが雑言ぞうごんを浴びせている。


 莉子は拓海たくみの顔を見た。人に優しい莉子でさえ、この男は無理だという顔をしていると、拓海は思った。

(莉子、安心してくれ。俺も無理だ、このおっさん……)


 拓海というより片割れのぎくの脳が反応しているのかもしれないが、拓海は確かに嫌悪感を抱いていた。


 おっさんと呼ばれておかしくない年齢のデボールは泣き崩れ、その半分程度しか生きていない2組の生徒たちはデボールを罵り続けるという混沌とした状況だったが、浩太こうたが切り出した。


「あー、もう、分かった分かった! おい、おっさん! 次のお見合いとか、縁談の話は無いのか?」

「へ?」

「俺が手を貸してやる」



    ◇



 デボールの襲来から少し経ったある日。その日はデボールがお見合いに挑む日だった。デボールの装飾品に魔術通信機器を忍ばせてある。浩太は通信で、デボールのお見合いを逐一サポートすることを買って出たのだ。


 浩太はゾダールハイム側のゲート監視所に来て、準備をしている。地球の者が街まで行くことは準備不足として領主のガストンに却下されたので、監視所からの通信ということになった。


 デボールの起こした事件のインパクトが強すぎて、拓海たち怪異研究会の面々だけでなく、時間のある2組のクラスメイトたちまで押しかけてきていた。


「よ~し、おっさん、そろそろ時間だぞ。心の準備はいいか?」

「う、うむ」

 浩太が通信越しにデボールに声をかけ、デボールもそれに答えた。いよいよお見合い作戦の決行だった。


「ど、どうなるんだ、これ?」

 本当にあのデボールのお見合いなど成功するのか、と拓海は思った。


「さ、さぁ……」

 莉子が拓海に答える。その声は拓海と同じことを考えていそうだった。




「ど、どうしよう、コウタ殿! 相手、美人だぞ! 僕なんかと釣り合わない!!」

「落ち着け、おっさん。まず容姿へのコンプレックスを捨てろ、問題ない。俺もコーディネートに立ち会っただろ? 大丈夫だ、ダンディさが出ているよ」

 早速ネガティブになっているデボールに浩太がフォローを入れた。


「うーん、私だったらこの時点で無理だなぁ」

 見に来ている女子生徒が言った。他の女子生徒から『私も』『私も』などと声が上がる。



 通信越しに向こうの状況が伝わってくる。デボールは自己紹介を終えた。当然ゾダールハイムの言葉で喋っているが、ゲート監視所には翻訳担当者が用意されており、リアルタイムで日本語に訳してくれた。


「よしいいぞ、おっさん! 多少どもったけど、打ち合わせ通りだ!」

 浩太がデボールを励ました。



 浩太は集中しているようで、真剣な表情をしていた。それを見て拓海は思った。

(浩太、凄いな……)




「よし、このタイミングだ、いけ、サクラのお兄さん!」

 浩太がデボールとは別の男に連絡した。


 浩太が言うには、デボールの家柄もやっている仕事も悪くない。上手く伝えられれば、相手の女性に好印象になると考え、デボール本人にではなく、偶然同じレストランを訪れた知人を装った別人に説明させることにしたのだ。


『おっさんはそういうの得意そうじゃないから、謙遜けんそんしてろ。おっさんを立てるのはサクラにやらせる』

 それがデボールに浩太が与えた作戦だった。


「よしいいぞ、おっさん、そこは……」

 のように、浩太のアドバイスは続く。


「ふん、何よ、軟派な男……」

 クラリスが浩太にケチをつけるが、集中している浩太には聞こえていないようだった。



 お見合いも後半に差し掛かろうという時、トイレと称して席を立ったデボールが浩太に話しかけてきた。


「だ、ダメだ、コウタ殿! 全然興味を持ってもらえてないんじゃないか!」

「いいんだよ、それで! 始めて会った女性がいきなり『デボール様、素敵~』なんて目をハートにするとでも思ったか? そんなの俺にだって無理だ。今回はそれでいいんだよ! というか、さっき共通の趣味を聞き出しただろ、誘え!」

「で、でも……」

「絶対に悪印象は与えていない! 俺がサポートし続けたんだ、俺を信じろ!」


 次に繋げろと浩太は言い、再びデボールを送り出した。思ったより悪くない進み方をしているお見合いに、2組の生徒たちも関心を持つようになっていた。


「おいおい、まさかデボールのおっさん、上手くいっちゃうのか……」

天知あまちくん、凄い……」

「私、次から天知くんに相談しようかな……」

「俺もそうするかも……」

 生徒たちが感心して言った。


 デボールが席に戻り、相手の女性としばしの談笑をした後、浩太が声をかけた。それに答えるように、デボールは女性を次の逢引に誘った。

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