第21話深愛 美桜【緊張のキス】
いつもご愛読いただきましてありがとうございます、桜蓮です。
大好評キャンペーン第4弾は桜蓮から女性人気キャラの皆様にとあるお題をご提示させていただきました。
そのお題とは≪あなたにとって記憶に残っているキスのエピソードを教えてください!!≫というものです。
普通ならこんなお願いをしたら完全変質者扱いされるか、華麗にスルーされるか、はたまた訴えられてしまいそうなものですが桜蓮ワールドの女性キャラ達はみんな心が広くお優しいので快く(?)エピソードを披露してくださいました♪
本日は美桜ちゃんが教えてくれたエピソードをご紹介させていただきます。
どうぞお楽しみくださいませ。
◇◇◇◇◇
学校の昼休み。
学食で昼食を終え、教室に戻った私はお腹いっぱいで眠気に襲われ始めていた。
そんな私に
「ねぇ、美桜」
麗奈が声を掛けてくる。
「なあに? 麗奈」
私はあくびを噛み殺しながら答えた。
「ちょっと、つかぬことを聞くんだけど……」
「つかぬこと?」
「うん」
……どこか改まった口調と様子の麗奈。
彼女がこんな態度をとる時は――。
「それってまさかとは思うけど私が答えづらいことだったりする?」
……そう、私にとって答えづらい質問を繰り出してくることが多い。
もちろん、必ずとは言えない。
だけど圧倒的にそういうことが多いのだ。
「えっ⁉……う~ん……いや……どうだろう?」
……麗奈がこんな言い方をするのって明らかに私が答えづらい質問をするつもりじゃない?
私は警戒心を強める。
それと同時に
「ちなみに私に拒否権とかあるの?」
確認する。
これは絶対に事前に確認しておいた方がいい。
私はこれまでの経験でそれを学んでいた。
先に確認をしておけばどうしても答えづらい質問の時には答えることを拒否できるし、答えても問題ない時には不通に答えればいい話なのだから。
すると麗奈は
「あ~、うん、そうだね。どうしても答えたくなかったら残念だけど仕方ないよね」
うんうん、と頷きながら言う。
それを聞いて私は
……やっぱり答えづらいことを聞くつもりなんだ。
私はそう察した。
それを察した時点で、麗奈の質問を聞くのすら面倒になってしまったけど
……でもこの状況だと質問を聞かない訳にはいかないよね。
そう聞かざるを得なかった。
「その質問ってなに?」
「ちょっと風の噂を耳にしたんだけど」
麗奈の口から出た“風の噂”というフレーズが
「はっ? 風の噂?」
妙に私は引っ掛かった。
「うん。なんかね、美桜のダーリンは超が付くくらいのキス魔だって」
「……えっと、私のダーリンって蓮さんのことだよね?」
「もちろん」
麗奈は笑顔で頷く。
麗奈はなぜか蓮さんのことをダーリンと呼ぶ。
それは大抵私との会話の中でのことが多いけど、それですっかり癖になってしまっているのか本人の前でもうっかり蓮さんのことをダーリンと呼んでしまったことが数回あった。
だから麗奈が蓮さんのことを“ダーリン”と呼んでいることは蓮さん本人も知っていたりする。
「蓮さんがキス魔?」
私は首を傾げながら麗奈が言った言葉を繰り返す。
この時点ではまだ私は蓮さんとキス魔という言葉が上手く結びついてはいなかったのだ。
「うん。本当のところはどうなのかなって思って」
「因みにその情報源はどこなの?」
「……えっと風の……」
またしても妙なフレーズを言おうとする麗奈に
「言えないんだね?」
私は悟った。
「うん。もしバレたら私がヤツに仕留められちゃう」
麗奈は神妙な顔で物騒な言葉を口にする。
どこからの情報なのか。
これはどうやら深く追求しない方がいいらしい。
でも麗奈のこの言い方なら大体の予想はつく。
おそらく麗奈にこの情報を齎したのは、麗奈のすごく身近にいる人物。
それに加えて私や蓮さんのことを知っていて、そういう情報が入りやすい人に違いない。
……多分、情報源は海斗だろうな。
それならば麗奈の物騒な言葉と神妙な表情の辻褄もピッタリとあてはまる。
情報源が誰なのか気付いたけど、私は敢えてその名を口にはしなかった。
そうしないと麗奈の身に危険が及んでしまうらしいから。
「そうなんだ」
「うん、だから情報源については深く聞かないでくれる?」
「分かった」
真顔で乞う麗奈に私は頷いて見せた。
私の言動で安心できたらしい麗奈が
「それで実際のところはどうなの?」
本題を切り出してくる。
「それは……」
私は麗奈のその質問に心底困ってしまった。
それはもちろん蓮さんがキス魔なのかどうかという質問の答えについてなんだけど。
もし、否定できるのであればこんなに困る必要はなかったのかもしれない。
でも残念なことにこの“噂”はまんざら否定できるようなものではなかったのだ。
確かに今まで私は蓮さんがキス魔だと思ったことは一度もない。
だけど
…この人ってよくキスをするひとだよな。
そう思ったことは何度もある。
思ったことはあるけど、私のその感覚があっているのか、それとも間違っているのか。
その判断ができずにいた。
だって私は蓮さん以外の人と付き合ったことがない。
だから蓮さんのキスの回数が多いのか少ないが分からなかったのだ。
「あのさ、麗奈」
「うん」
「私が答える前に、ちょっと参考として聞きたいことがあるんだけど」
「参考?」
「うん」
「なに?」
私は麗奈に聞いたうえで、蓮さんのキスの回数が多いのか少ないかを判断してから、質問に答えようと考えた。
もちろん麗奈に聞きたいのはアユムとのキスの回数。
それを聞けば判断ができる。
そう思ったんだけど、いざ聞くとなると私は躊躇ってしまった。
……こういうことを聞くのってなんか気恥ずかしいよね。
そう思ってしまった。
麗奈がアユムと付き合っているということは周知の事実だ。
2人はとても仲が良い。
学校ではもちろん、学校以外のところでもよく一緒に過ごしているし、麗奈もアユムもお互いのことが大好きだっていうオーラを常に出しまくっている。
私の前でもよくイチャイチャしてる。
さすがに2人がキスしているところは見たことがないけど、2人の時は確実にキスをしているだろうし、もしかしたらそれ以上のこともしているかもしれない。
……まぁ、恋人同士なんだからそれは全然いいんだろうけど……。
でもやっぱりそういうプライベートなことを聞くのには抵抗と戸惑いがあった。
「……えっと……」
「どうしたの?」
だけど聞きにくくても、聞いてみないといつまで経っても話は進まない。
だから私は思い切って聞いてみることにした。
「……麗奈は……」
「うん」
「アユムとどのくらいキスしてるの?」
ここは教室で、近くにはクラスメイトがいるから私は声を潜めて聞いてみた。
「えっ? 私?」
「う……うん」
私は意を決して、必死の思いで聞いてみたんだけど
「う~ん、私は平日は一日2~3回で休みの日に2人で会う時は……大体5回くらいかな」
予想以上に麗奈はサラリと普通に答えてくれた。
「そ……そっか」
「うん」
「まぁ、日によって変動はあるけどね」
「そ……そうだよね」
至って普通に答えてくれた麗奈とは対照的に私はかなり動揺していた。
……でも今は動揺している場合じゃない。
私は自分自身にそう言い聞かせて、何とか頭を働かす。
……私は一日何回ぐらいキスしてるんだろう?
朝起きた時。
出掛ける前。
帰ってきて顔を合わせた時。
お風呂の中で1~2回。
まったりタイムに3~4回。
ベッドに入ってから2~3回。
それとお休みのキス。
それぐらいかな。
あくまでもこれは平日の回数で、お休みの日だと倍くらいの回数になってしまう。
……うん、やっぱり多いよね。
一緒に暮らしているっていうのもあるけど少ないとはとても言えない気がする。
……ということは、蓮さんがキス魔だというのは事実ってことになってしまう。
「美桜?」
麗奈の声が答えを急かしているような気がするのは気のせいだろうか?
事前に私には黙秘権が与えられていたはずなのに、この時の私はその当然の権利の存在をすっかり忘れてしまっていた。
完全に麗奈のスクープを狙う記者のような剣幕に私は完全に気圧されてしまっていた。
「……まぁ、その噂もあながち間違いではないかな」
「えっ? そうなの?」
「う……うん」
私が肯定したこと、蓮さんのキス魔疑惑は確定してしまった。
「因みにダーリンはキス上手いの?」
「……逆に聞くけど、キスに上手いとか下手とかあるの?」
「もちろんあるよ。上手いキスはマジで気持ちが良くて腰がぬけることだってあるらしいよ」
「マジで」
「そういう経験ってないの?」
尋ねられて私は記憶を辿った。
確かに蓮さんとのキスは気持ちがいい。
頭の中が真っ白になるし、とても甘くてとろけてしまいそうに感じる。
麗奈が言う通り、蓮さんとキスしたあと全身の力が抜けて自力で立つことができなくなったこともある。
「あると言えば……あるかな」
「でしょ? てか美桜のダーリンってキスが上手そうな感じがさするもんね」
「えっ? そんなことまで分かるの?」
「分かるっていうか、勘みたいなものかな」
「なんかその勘は怖いね」
「そう?」
「うん」
「てか、美桜ってダーリンが初めての彼氏だよね?」
「うん、そうだね」
「……ってことは、キスしたのはダーリンだけ?」
「もちろん」
「そっか。じゃあ、美桜もキスが上手いんだね」
意味ありげな笑みを浮かべる麗奈に
「……はい?」
私は唖然としてしまった。
「えっ?」
「なんでそういう結論に達しちゃったの?」
「だって、キス魔のダーリンに仕込まれてる訳でしょ?」
「仕込まれてる⁉」
「うん。キスが上手い彼氏と付き合ってるとキスが上手くなるらしいんだよね」
「そ……そうなの?」
「うん。だから美桜もかなりキスが上手いのかなって思って」
「そ……そんなことないよ」
「えっ? そうなの?」
「……多分……」
自分がキスは上手いのかどうかなんて考えたこともない私には断言することができなかった。
「でもさ、美桜からダーリンにキスしたりもするでしょ?」
「……」
「美桜?」
「……ない……」
「うん?」
「私からはあんまりしたことがない」
「えっ? マジ?」
「うん」
「なんで?」
「なんでって……」
「ん?」
「……恥ずかしいから」
「恥ずかしいから?」
「うん」
私が言うと
「……」
麗奈は黙り込んでしまった。
「麗奈、どうしたの?」
「……美桜」
「なに?」
「それじゃダメだと思う」
「ダメ?」
「うん、ダメだよ」
「なにが?」
「そんなんじゃダーリンを他の女に奪われちゃうよ」
「えぇ⁉」
「もっとがっちりと掴んでおかなきゃ」
「そ……そうなの?」
「そうだよ」
「因みにがっちり掴んでおくにはどうすればいいの?」
「はい、よくぞ聞いてくれました。ここで重要になってくるのが積極的なキスなんですね」
「……積極的なキス……」
「えぇ、これでダーリンをがっちりと捕まえておくんです」
「キスでそんなことができるんですか?」
「はい、できます。それも確実に」
「……そうなんだ」
「確かに初々しい女の子も人気はありますけど、いつまででもそれじゃダメです」
「積極性が大事なんですね?」
「その通り!!」
「わ……分かりました。頑張ってみます」
こうして私は麗奈に背中を押される……いや蹴り出されるようにして積極的なキスを蓮さんにすることが決まってしまった。
◇◇◇◇◇
麗奈先生には断言したものの
……ちょっと待って。私なんかが蓮さんに積極的にキスとかできるの?……
そんな重要なことに気が付いたのは、蓮さんが帰宅してからのことだった。
ど……どうしよう。
とりあえず麗奈に連絡した方がいいかな……。
遅すぎるタイミングで大きな壁の存在に気付いてしまった私は麗奈に助言を求めるべきかどうか迷っていた。
そんな私に蓮さんが訝しげな眼差しを向けてくる。
「美桜」
「は……はい」
「どうしたんだ?」
「な……なにが?」
「なんか焦ってねぇか?」
「そ……そんなことないよ」
「そうか?」
「うん」
「それならいいけど。飯にするか?」
「そうだね」
それから私は必死で“タイミング”を探していた。
途中、蓮さんの目を盗んで麗奈に連絡すると
“大丈夫、美桜ならできるよ♪重要なのはタイミングだよ”
そんなメッセージが返ってきた。
しかもそのメッセージにはクマが迷彩柄の上下を着てヘルメットを被り、敬礼をしているスタンプが添付されていた。
そのスタンプを見て
……これはもう任務なんだ。
私は悟った。
でも、麗奈が送ってきた“大丈夫”は一体なにが大丈夫なのか。
残念ながら私にはまったくもって意味が分からなかった。
だけどなんとなくタイミングが大事なんだってことは分かったから、私は必死でタイミングを見つけようとしていた。
でもここで問題は発生した。
その重要なタイミングが見つからない。
一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、まったりとテレビを見て……。
今はもうすぐ寝ようかというところなんだけど、私が積極的に行動するタイミングは全くなかったのだ。
それなのに、この数時間の間に蓮さんはかなりの回数のキスをされてしまった。
普段は全く意識してなかったけど、今なら蓮さんがどうしてこんなに自然にキスできるのかもはや謎でしかなかった。
その自然さは神様と呼んでもいいぐらいだと思う
いや、神様と呼ばなければいけない。
……今度から蓮さんのことはこっそり神様と呼ぼう。
私は密かにそう決めた。
そんなどうでもいいことを考えているうちに
「……そろそろ寝るか」
蓮さんが言った。
……あぁ、今日はタイミングを見つけることができなかった。
私はがっかりしながらも
「……うん、そうだね」
そう答えた。
……ん? ちょっと待って。
よく考えてみたら、この後に最高のチャンスがまだ残ってるんじゃない⁉
ベッドに入って眠る前に蓮さんは必ずお休みのキスをする。
それを今日は私からすればよくない?
「美桜」
「なに?」
「寝ないのか?」
「ううん、寝るよ」
このタイミングを逃しちゃいけない。
蓮さんがベッドに横になった時がチャンスだ。
私は意気込んでいた。
……ヤバい。緊張する。
緊張のせいで高鳴る鼓動を抑えつつ寝室に入る。
スマホをサイドテーブルに置いた蓮さんがベッドに横になった瞬間、私は走り出した。
この時私の頭には
……蓮さんにキスをしないといけない。
それしかなかったし、それ以外のことを考える余裕もなかった。
駆け出した私だったけどもう少しでベッドに辿り着くというところで、履いていたスリッパが滑ってしまった。
そのせいで私の身体は大きく前のめりになってしまう。
「……あっ」
危機を察して私の口から焦りを含んだ声が漏れる。
その声に気付いた蓮さんが素早く上半身を起こし、私を支えようと手を伸ばしてくれた。
私の身体は蓮さんの勢いよく腕の中に納まった。
しかも、その衝撃で偶然にも私の唇は蓮さんの唇に重なったのだ。
「大丈夫か?美桜」
「うん、ありがとう」
「気を付けろよ」
「うん」
私が転びそうになり、蓮さんが助けてくれた。
その時の勢いで偶然お互いの唇が重なった。
状況的にはそうだけど、結果的には唇が重なったのだからキスしたことになる。
しかも蓮さんには全くそんな気はなく、私はキスをする気満々だった。
……かなり苦しくはあるけど私からキスしたと言ってもギリセーフかもしれない。
私はそういう判断に達して。
もちろんこのキスにはテクニックもなければ、色気のある雰囲気もない。
キスと断言するにはかなり苦しくはあるし積極的なキスとも言いがたい。
だけれど、これが今の私にいできる精一杯のキスなのだ。
深愛 美桜【緊張のキス】完結
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