VS アメリカ
ブリスベン五輪から四年後のパラリンピック。日本イスバスチームはメダルは確実と言われている。ハイポインターの海斗と昴を軸に日本史上最強のチームに仕上がっている。四年前にバスケ界に現れた日本のヒーローが、今度はイスバスで牙を剥く。
しかし、その上をいき金メダル確実と言われているチームがある。アメリカ合衆国。
ブリスベンで現れた若きアメリカのヒーロー、マイケルは四年間で更なる成長を遂げていた。その身体能力は昴をも超えると思われる上に高さという武器も備えている。彼だけではなく、今回のアメリカチームは高さが一番の武器であり、マイケルを中心に史上最強のチームがこのパラリンピックにやってきていた。
まずは予選リーグ。
日本チームは絶好調だ。昴と海斗が同時にコートに立つ時のポジションは、司令塔となるポイントガードに海斗、積極的に攻撃を仕掛けるシューティングガードに昴だ。
この二人の連携プレーはトリッキーでもありスピード感抜群で、見る者を釘付けにした。昴は体幹を前後左右に自在に動かし、まるでダンスを踊っているように見える。片側の車輪を上げて打点を高くして打つシュートやボールカットは迫力満点だ。
一方のアメリカは横綱相撲をとっていた。マイケルは二人がかりでも手に負えないばかりか、彼以外の選手も相当手強い。有力選手を休ませ、層の厚さを見せつけていた。
日本もアメリカも予選リーグを全勝で勝ち上がり、決勝トーナメントも順調に勝ち上がり、予想通り決勝はアメリカ対日本だ!
日本はアメリカ対策としてスピードの強化と素早いパス回し、高さに対抗する為に下からのバウンズパスなどを取り入れて練習してきた。しかし、そうした時間を掛けて練習してきた物も通用しなかった。日本も研究されており、昴はマイケルによって徹底マークされた。ゲームは十分のピリオドを四回行うが、第一ピリオドで早くも十点差を付けられてしまった。
昴は苛立ちを隠せなかったが、海斗は昴がマイケルの動きに少しずつ対応出来るようになってきていると感じていた。
「スバル、たった十分の間に進化しているぞ。焦るな。これ以上離されずに付いていければ、後半に望みがある。第二ピリオドは全員で耐えよう」と言った。
その言葉に、日本チームは望みを持った。
第二ピリオド。点数を詰める事は出来なかったが差を広げられる事なく十点差で前半戦を終えた。第二ピリオドだけ見れば同点だ。アメリカチームは十点差を付けているというのに少し余裕が無くなった。
「ちょっとやってみたい事がある」
ハーフタイムに突然、昴が言い出した。練習でもやった事がないドリブルからのノーモーションでのアンダーハンドパスなら上手く通る場面が多そうだと言うのだ。
「カイト、ちょっと合わせてみてくれないか?」
十分間のハーフタイムをこれ程集中して使った事は無かった。昴と海斗のポジションを交換し、高さを捨ててパス回しとスピードに長けた選手を揃えて、攻撃の糸口を掴もうと試みた。
「オレを見てろ! 名前を呼ばれたら空いている所に切り込め。ノーモーションの速いパスを覚悟しろ!」
昴は必死だったし、チーム全体が必死になった。みんなが出来ると信じた。
第三ピリオドが始まる。円陣を組み、海斗が声を掛けた。
「最初から上手くいくはずない。何回かミスをするのは当然だから、ミスを恐れず、その間ディフェンスをしっかりやろう。ディフェンスから繋げて、一回一回この新しい事に挑戦して得点に繋げるぞ」
士気は高まった。
攻撃体制を変えてきた日本チームに対し、アメリカチームは少し戸惑っているように見えた。
連携はまだ上手くとれていないものの、マイケルは自分の固い守りの隙を突いて思わぬ所からパスを出してくる昴に苛立ちを見せ始めた。
パスは上手く通らないがもう少しだ。点数は詰まらないが良い感触を掴みながら、ディフェンスを頑張る。お互い点数の取れない膠着状態が続いて、我慢の時間が強いられる。
第三ピリオドの終了間近、昴がマイケルの隙を付いてノーモーションからの素早いアンダーパスを海斗に出し、ゴール下に切り込んだ海斗が綺麗なシュートを決めた。
「ウォー!!」
会場が揺らめいた。
第三ピリオドが終了し、流れは日本に傾いてきているが、疲労の色も濃くなってきている。特に激しく動き回っている昴の消耗は激しく、少し休ませたい所だが、今の流れを変えたくはない。
「スバル、泣いても笑っても最終ピリオドだ。行けるか?」
海斗の言葉に昴が頷く。
「当たり前だろ」
最終ピリオド開始早々、完全に日本チームが流れに乗った。半分が経過し、残り五分となった所でついに二点差に迫る。
ピッ!
鋭いホイッスルが鳴り、昴が倒れている。第三ピリオド後半から昴へのチェックが厳しくなり、ファール覚悟でアメリカは止めにきていた。何度も倒され、それでも身体能力の高い昴は自力ですぐに起き上がっていたが、今回は起き上がろうとしてまた倒れてしまった。
海斗が駆け寄り、手を貸すと昴は顔をしかめた。
「んー、脇腹が攣った」
海斗が手を挙げてスタッフを呼ぶ。昴の脇腹にスプレーを噴射させて応急処置をし、車椅子を立て直す。スバルはしかめっ面をしながらも、「大丈夫だ」と手をあげた。会場が拍手で湧く。昴はギリギリの状態で戦いに挑んでいた。
アメリカも粘り、一進一退の攻防が続くが一度も同点に追い付く事が出来ないまま、残り時間が少なくなっていく。
残り時間ニ十秒。アメリカが依然二点をリードしている所でアメリカにファールがあり、日本ボールだ!
おそらくこれがラストチャンスで、何としてでも同点に追いつき延長戦に持ち込みたい。緊張が高まる。スローインから日本がパスを回す。昴がボールをキープし、海斗へのパスを伺っている。
海斗へのマークも厳しく、パスを出せる隙が無い。時間は刻々と刻まれていく。
「打て!」
海斗が叫ぶのと同時に昴は無理矢理シュートを放った。ボールはリングの前方に当たり、バウンドした。
「入れ!」
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