第十七話 化け物
所持思念3:【破壊願望】
追体験:一方的な殺戮
効果:強い精神異常を起こすだけでなく、心身ともに大幅な負担を代償にするが、身体能力が1000%上昇する
「…………」
身体能力が1000%も上がるのか、これは凄まじい……。その代償もまた、ジェイドの最期を見ればわかるように甚大なわけだが、今の俺には手段を選んでいる余裕なんかない。
早速俺は【破壊願望】の思念を纏い、喧嘩相手のスティングと向き合うと、爪先から頭の天辺まで一気に熱を帯びていくのがわかった。
「……はぁ……はぁぁ……」
まともに呼吸ができなくなるくらい、熱い……。心さえも焦げつくようで、何もかもがヒリヒリしてくる。視界が段々と歪んできて、周りからの声が熱気で溶けたかのようにか細く聞こえてくるほどだ……。
「まだ遊べるんだじぇええええええええええっ!」
「……おそ、い……」
ワニ男のスティングが向かってくるが、今の俺には呆れるくらい遅く見えた。
「え……ええええぇっ!?」
スティングが振り返り、両目をこの上なく見開いている。
おそらく、やつにとっては相当に衝撃的な出来事だったんだろう。初めて攻撃をかわされただけでなく、俺に余裕の笑みすら向けられているわけだからな……。
「ハハッ……ハハハハハッ……!」
なんで笑っているのか、自分でもよくわからなかった。早くも精神がおかしくなり始めているらしい。
「う……うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!」
それがスティングの怒りを買ったらしく、やつは血眼で襲い掛かってきた。
それでも、俺には退屈に感じるほどに遅かった。ふざけてるのか、あるいは同情して手加減でもしてるんじゃないかと疑ってしまうレベルだ。さて、そろそろ反撃といこうか。
「ワニ野郎、今度は俺の番だ。はああぁっ……!」
「っ!?」
俺はスティングの体を軽く押しただけだったが、やつは壁に背中から激突し、まもなく赤い地図を描きながら床に転げ落ちた。
俄かには信じられない、異様すぎるパワーだ。これが【破壊願望】の威力なのか……。
「――ひっ……」
「…………」
スティングが起き上がったと思ったら、俺を見て明らかに怯えの色を見せてきた。
おいおい……ひたすら俺と遊ぶ――戦うことを求めてきたあの男が、この程度の力だったというのか。情けない。喧嘩なら、どちらかが死に絶えて原形のとどめない肉塊になるまでやるべきだろう……って、俺は一体、何を考えている……?
「テ、テッド、も、もももっ、もう遊ばなくていいっ! ワッ、ワイの負けだああああああっ……!」
「ダメだ。死ぬまでやるぞ」
「しょっ、しょんなあああぁ……」
スティングの降参宣言に対し、俺はわかったと答えたつもりだったが、自分の口は全然言うことを聞いてくれなかった。
「た……たしゅけてえええええええっ……!」
「ハハハハハッ!」
気が付けば、俺はひたすら笑いながらスティングの背中を追いかけていた。人外の化け物だと思っていたあの男が、今ではまるで瀕死の小動物のようだ。そうか、あれはワニではなくただのネズミだったか。
「オラアアアアアァァァッ!」
「ぎひいいいいいいいぃぃっ……!」
追いかけてはネズミの尻尾を掴み、振り回して放り投げては壁や床に叩きつけるということを繰り返す。
フフッ、最高の気分だ……いや、待て、やめてくれ……。
もうよせと言っているのに制御できない。心身の負担も増すばかりだし、まずいなこれは。このままでは本当にスティングを肉塊に変えてしまう……。
喧嘩ならもうとっくに終わっている。だから抑えろ、抑えるんだ、俺よ……。
「……おしゃえろ、りょ、ろろ……」
声を発するにしても、このように言葉が上手く回らない。精神状態も、忍耐力に自信がある自分じゃなかったらとっくに狂ってるんじゃないかと思えるほど不安定だ。だからなのか、思念を解除することもできない。
これが、圧倒的な身体能力を得たことの代償なのか……。この力が暴走を続ければ、いずれ相手だけでなく自分自身をも殺してしまうだろう。
なんとかできないのか……って、そうだ、あの手があった。思念を解除できないなら、その逆をやればいい。
所持思念1:【灼熱の記憶】
追体験:炎に包まれる
効果:気力の消耗を代償にして炎耐性100%上昇 精神異常耐性50%上昇
天への祈りによって確認したら、俺の思った通りだった。さらに気力を消耗してしまうが、この思念を【破壊願望】に重ねるようにして纏えば……。
「――はっ……」
【灼熱の記憶】の思念を纏ったとき、俺の精神状態は狙い通り正常な方向へと戻っていった……。
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