厄災戦争 目覚める太古は終焉の為に2

 

 レナードの一撃を防いだニーズヘッグ。


 終焉戦争で使われてきた神々の欠片の中には、防御に特化した物も多くあった。


 その中でも火に滅法強い防御を用いて自身を守ったニーズヘッグは、被害を最小限に抑えるのは無理だと判断する。


(“終末アポカリプス”の異能は総じて馬鹿げているとは知っていましたが、ここまで滅茶苦茶だと困りますね。団長さんや副団長さんよりは練度が足りてないという点だけが救いですが........それでも油断出来ない事に変わりは無い)


 終末アポカリプスの異能は、使い方しだいでこの世の全ての生命体を滅ぼせる。


 世界を終わらせられるだけの力があるからこそ、終末の名を冠しているのだ。


 仁や花音のように完璧に極めると、たとえ相手が神であろうと勝てるだけの可能性が出てくる位には強い。


 しかし、レナードの一撃を見る限り、そこまでぶっ壊れた力を持っているとは思えなかった。


 恐らく、鍛錬する場所が無かったのだろう。


 これだけの規模に被害を及ぼせるだけの能力を鍛錬していたら、鍛錬中に世界が滅ぶ。


 ニーズヘッグは、噴火によってできた新たな島を眺めながら攻撃を開始する。


 被害云々を考えればできる限り規模の小さい能力を使うべきなのだが、そんなことを考える余裕は無かった。


 「“終焉戦争ラグナロク:豪風の嵐”」


 膨大な魔力と引き換えに、ニーズヘッグは神の力の一旦を行使する。


 相手は空を飛んでいるが、ニーズヘッグ程自由が効かない。


 先ずは、その体制を崩す為の一撃を食らわせる所から始まるのだ。


 舞い上がった火山灰が降り積もり中、急激にニーズヘッグを中心として風が巻き起こる。


 その風は徐々に徐々に大きく渦巻いていき、最終的には天に昇る龍となって嵐を呼んだ。


 超巨大竜巻。


 海水や新たにできた島を抉り取りながら周囲を破壊し尽くす嵐の権化。


 もちろん、空を飛んでいたレナード達もタダでは済まず、体制を崩して嵐に巻き込まれないように必死に耐えていた。


 「........ッ!!身動きが取れねぇ!!」

 「厄介やねぇ。でも、その風はウチも利用できるでー?疫病感染パンデミック


 必死に体制を保つレナードとクロネス。


 しかし、彼女達もやられっぱなしという訳では無い。


 クロネスは自身の異能を使うと、周囲の嵐に向かって黒いモヤのようなものをばら撒き始めた。


 「おい!!アタシまで巻き込むんじゃないだろうな?!」

 「安心しておくんなまし。ウチの病気は人を選べますからなぁ」


 黒いモヤは竜巻の中に吸い込まれていき、灰色だった竜巻が黒く染まる。


 “疫病感染パンデミック”。


 レナードと同じく“終末アポカリプス”に属する異能であり、その能力は相手に疫病をばら撒くというもの。


 その疫病の種類は様々で、魔物だけを殺す病や人にとてつもない速さで感染する疫病など様々だ。


 今回使ったのは、魔物だけを殺す疫病。


 相手に干渉すると言うよりは、あくまでも病気を起こすまでの過程を示すものであるため魔力による抵抗すらもできない。


 感染から発症までに多少のタイムラグがあるが、対策を持っていない相手に対しては絶対的な強さを誇るのがこの異能である。


 「........終末のオンパレードですかね?七つある終末の異能の内、2つがここに集まるなんて。あ、でも団長さんと副団長さんも同じだから、人のことは言えませんね」

 「随分と余裕そうやなー。感染したら死ぬでー?」

 「問題ないですよ。感染しようがなんだろうが、私には関係の無い話なので」


 ニーズヘッグはそう言うと、再び魔力を大量に消費して能力を行使。


 癒しの神々が使っていた欠片の1つを取り出すと、ニーズヘッグの周囲にある全ての病原菌を排除した。


 ニーズヘッグの強みは、ありとあらゆる場面ニーズヘッグ対応出来る器用さ。


 仁の様に馬鹿げた火力で全てをぶち壊すなんてことをされない限りは、ニーズヘッグが負けることは無いのだ。


 レナード達も一般的に見れば馬鹿げた火力をしているが、ニーズヘッグからすればまだまだ発展途上。


 油断こそできないが、油断しなければ負ける事など有り得ないのである。


 「........まさか浄化されるとは」

 「下がってろ!!こいつに絡めては効かねぇ!! 」


 レナードはそう言うと、選手交代と言わんばかりにあちこちで火山を噴火させる。


 何度も大地が揺れ、空気が揺れ、世界が揺れるが、そのどれもがニーズヘッグには効かなかった。


 尚、噴火の規模は相当なもので、舞い上がった火山灰は既に空を覆ってしまっている。


 この後どのような決着がつこうとも、人々の生活に甚大なる被害を出すことだろう。


 ニーズヘッグもそれが分かっているから全力で止めに行くが、レナード達は上手くその攻撃を躱す。


 火山の噴火でニーズヘッグの足を止め、できる限り距離を取り、ニーズヘッグが近づけば魔力を使わせるために疫病をばら撒く。


 嵐が吹き荒れているというのに、器用に逃げながらニーズヘッグに攻撃を加え続ける二人は人類の中でも相当な上澄みにいるだろう。


 それこそ、5本の指に入るぐらいには。


 「厄介ですね。私を近づかせないと言うのを徹底されるとやりづらいですよ」

 「ハッ、無傷のくせによく言う。そういうなら死んで欲しいけどな!!」

 「さっさとくたばって欲しいやねー。そろそろ死のか?」

 「それはこちらのセリフですよ。本当は使う気はなかったのですが、使ってしまいましょう。どちらにしろ、既に被害は大きいですからね。私が多少被害を出しても問題ないでしょ」


 ニーズヘッグはそう言うと、天高く昇って翼を広げる。


 何事かとレナード達は一瞬固まり、ニーズヘッグはその隙に“友”を呼び出した。


 「かつて滅んだ大陸を知っていますか?私の友人が眠るあの地を少しの間だけ顕現させましょう。浮かべ、アトラス大陸」


 その日、世界は数万年ぶりに失われた古代の大陸を海の底から顕現させた。

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