厄災戦争 瘴気が纏うは巨人の英雄2

 

 巨人族タイタン


 それは、かつてこの世界に存在した人類。


 人の5倍以上の体格を持ち、とある大陸に暮らしていた種族。


 1歩歩けば地鳴らしが起こり、二歩歩けば山は崩れ、三本歩けば草木は残らぬ。


 かつての人々は、自分たちよりも強大な巨人達を同一の人類とは見なさなかった。


 とは言え、巨人族は戦争を好まない。


 彼らは心優しき隣人であり、人類が恐れるのであれば身を引く。


 平穏を望み、その平穏のためにできる限り生命を優しく包む。


 偉大なる英雄。巨人の英雄と呼ばれ、世界で初めて巨人の王となった“ユミル”は海に大陸を作り、そこに巨人の楽園を作り上げたのだ。


 しかし、その楽園も僅か200年で幕を閉じる。


 巨人達がどれほど心優しくとも、人は強大な力を恐れ、欲するのだ。


 やがて人々と巨人の間で戦争が起き、最終的に巨人の王は大陸を沈め“巨人”と言う種族を終わらせる。


 彼らは最後まで心優しく、平穏を望んだのだから。


 これが、数十万年前の話。


 巨人が滅び、現在に至るまでの間に巨人の記録はかき消され。歴史の闇に葬り去られてしまった。


 このことを知っているのは、創世記から生き続けた“原初”や“管理者”くらいだろう。


 海の上をさまよっていた頃、またまた巨人の王を見つけた不死王もこの歴史を知ることは無い。


 知っているのは、彼が御伽噺に出てくる“巨人族”だと言うこと。


 もし、この場にファフニールやアドムがいれば、目が飛び出さん程に見開いて驚きの声を上げていたはずである。


 “何故ここにユミルが居るのか”と。


 「なんだコイツは........」


 アドネルは初めて見る巨人(アンデッド化)を見て、思わず足を止める。


 先程まで相手していたアンデッド達とは訳が違う。


 瘴気を身にまといながらも、決して薄れることの無い神々しさ。


 それがアドネルの足を止めさせたのだ。


 「コレハ、巨人族ノ王。ソレ以外ノコトハ、私モ分カラン。幾ツモノ文献ヲ読ミ漁ッタガ、分カッタノハ、ソレダケダ」

 「巨人の王だと........?!巨人は物語の話に存在する空想上の生き物では無かったのか」

 「私モ最初ハ疑ッタ。ダガ、本物ダ。凄イダロウ?」

 「普通にすげぇな。アタシも数多くの魔物を見てきたが、こんなのは初めてだ」


 思わず素直に賞賛の声を上げるアドネル。


 彼女は、現在の人類の中で初めて巨人を目にすると言う歴史的立会人となったのだ。


 自分が今不死王と戦っていることも忘れ、マジマジと巨人の王を見つめる。


 物語の世界にしか存在しないはずの巨人。


 彼女はロマンの分かる女であった。


 「かっけぇ!!すげぇ!!あんたすげぇな!!こんなものまであるなんて!!やっぱり胡散臭いアイツの話を聞いて正解だった!!」

 「........アドムノ事カ?」

 「あぁ、女神イージスや伝説的な魔物を見ることが出来ると言われて来たんだ。アタシはこの世界の神秘を見たくてね。それで奴に同意した。あぁ、最高だよ。この光景は。そして残念だよ。これを壊さないといけないなんて」

 「案ズルナ。ソノ必要ハ無い」


 不死王はそう言うと、巨人の王に命令を下す。


 目の前の敵をうち滅ぼせと。


 巨人の王とは言えど、既に故人。


 生きる意味も無く、意思も持たない操り人形がその力を発揮する。


 「........」


 巨人の王が拳を握り、地面を強く殴る。


 ドッゴォォォォォン!!


 と、思わず耳を塞ぎたくなる爆音を奏でながら大地が真っ二つに割れた。


 「は?ちょ、マジかよ!!」


 まさか、足元を無くされるとは思っていなかったアドネル。


 慌ててその場から飛び退くが、巨人の王の攻撃は止まらない。


 飛び退いた先に素早い蹴り。


 羽虫を蹴り飛ばすかのように気軽に振るわれた足は、アドネルを捉えて遥か彼方にまで吹き飛ばす。


 「グッ........!!」


 吹き飛ばされないように何とか耐えようとしたアドネルだが、そもそもの体格差が違いすぎる。


 身体が破裂しなかっただけマシだが、内蔵に大きなダメージを負った。


 「........」


 そしてまだ巨人の王の攻撃は止まない。


 巨人の王は何も無い場所に手を伸ばすと、かつて封印した自分の武器を呼び寄せる。


 アドムが訪れていたとある遺跡。


 その遺跡に眠る巨人の剣は、巨人の王のものなのだ。


 どこからともなく飛んできた巨人の剣を掴むと、上段に構えて遠く離れたアドネルに狙いを定める。


 「ヤバっ........でも、ちょっと気分がいいや」


 アドネルは空を飛ぶ手段がない。


 吹き飛ばされている今、この攻撃を避ける手段を持っていなかった。


 しかし、これでいい。


 そう思えてしまう。


 おとぎ話の伝説を目の当たりにできたのだから。


 巨人の剣は振り下ろされ、大地を巻き込みながら世界を切る。


 「あぁ、悪くない人生だった」


 アドネルは、そう言うとあまりにも強大すぎる斬撃をその目に焼き付けながら地理も残さず消えゆくのだった。


 「........コレ、団長サンニ、怒ラレルカモ」


 無事に勝利を収めた不死王。


 しかし、不死王の顔は優れない。


 その理由は、地平線の彼方まで続く、巨人の王の斬撃があったからだ。


 本来は人々を守るための戦い。しかし、巨人の王の斬撃は、誰がどう見ても周囲のモノ全てを巻き込んでしまっている。


 方角的に大帝国側。


 下手をすれば、不死王が大量虐殺者だ。


 「........ヨシ、何モ見ナカッタ事ニシヨウ。ウン。ソウシヨウ」


 今更どうしようも無いことを悟った不死王は、全てを諦めると、巨人の王を使うのは辞めようと心に決めるのだった。



 その日、突如として全てが奪われた。突風が吹いたかと思えば、私の目の前にいたはずの妻は消え去っていた。何が起きたのかは分からない。だが、これだけはハッキリしている。この日、栄えある大帝国の半分は消し飛んだのだ。

 ........神の怒りなのか、それとも厄災が訪れたのか。その真偽は今も謎であり、私は知ろうとも思わない。知ってしまえば、私も殺されるかもしれないのだから。“大帝国が滅んだ日”より

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