リンドブルムの過去
ウロボロスの過去を聞きなんとも言えない空気で解散した中、俺はリンドブルムに“ちょっと空の旅に行こう”と言われた。
リンドブルムはあまり背中に人を乗せたがらない。
俺も何度かリンドブルムの背中に乗せてもらった事こそあれど、ほかの厄災級魔物に比べれば圧倒的に少なかった。
そんなリンドブルムが珍しく自分から“乗れ”と言うのは、俺にとって驚き以外の何物でもない。
揺るがに空を飛ぶ白銀の竜の背に乗せられた俺は、しばらくの間静かにしているのだった。
「こうして団長さんを背中に乗せて空を飛ぶのも久しぶりだね」
「リンドブルムから誘った事は1度もなかったな。急にどうしたんだ?」
「いやぁ、ウロボロスの爺さんの昔話を聞いたら、アタシもしたくなっただけさ。歳を食うと、他人に感化されることが多くてね」
リンドブルムは一応女の子である。
年齢はおおよそ2万歳近く行っているが、そのことに触れるほど俺も馬鹿ではない。
魔物であろうが人であろうが、女性に年齢を聞くことはタブーである。
この、人外乱れる傭兵団で学んだのだ。
アルスールとかマジで怖いかな。あの島にいた頃にサラッと年齢を聞いた時は、正直死を覚悟するぐらいには怖かった。
あの時思ったよ。魔物であろうが女性は女性。人間と同じように接しなければならないって。
まぁメデューサだけは、自分の年齢を暴露していたが、あれは例外である。
俺はリンドブルムの年齢はスルーし、会話を続けた。
「リンドブルムも昔話を聞かせてくれるのか」
「そうだね。団長を見るといつも思い出す子だよ。可愛い女の子でね。彼女は魔物に好かれる才能があった」
「........異能か?」
「いや。異能じゃない。ただの才能さ。魔物に好かれるのはね。異能は魔物の言葉が分かる事だったはずさ」
魔物の言葉が分かる異能。
動物の言葉が分かるようになりたいとか、自分のペットの声が聞けたらなとか、そう考える人間はそこそこ居る。
魔物の声を聞きたいという人は少ないだろうし、欲しがる人も少ないだろうが。
俺も蜘蛛や蛇の言っていることは何となく理解できるので、それと似たようなものなのだろう。
リンドブルムの言う通り、その子は俺と似ているのかもしれない。
「魔物の言葉が分かるってのは、意外と便利でね。そこそこ知能のあるやつとは話せるようになるのさ。ほら、団長も子供達と仲良く話してるだろ?魔物からしても、話せる人間ってのは珍しいから話を聞いてくれることが多いのさ」
「ベオークと最初に会った時とかも、話を聞いてくれたな。俺が蜘蛛の言葉を分かってなかったら、殺されてた可能性の方が高いけど」
「運が良かったね。ともかく、魔物と話せるというのは、魔物にとっても楽しいものだったのさ。アタシもそれを楽しむ1人だった」
昔を思い出し、どこか悲しげな雰囲気を出すリンドブルム。
相手は人間であり、あの島に入り込む前の話だろうから、既にこの世には居ない可能性の方が圧倒的に高いだろう。
亡き人の話をするのは、たとえ魔物であっても悲しいものだ。
ウロボロスですら、どこか悲しげだったのだから。
「アイツは魔物にも平等に接する変わり者でね。ゴブリンのような知能の低い奴には、流石に話が通じなかったが上級魔物ぐらいとは仲良くやっていたんだ。中には、知能の高い中級魔物も居たしな。そして、噂が噂を呼んで魔物達が彼女の元に集まるようになったのさ」
「へぇ、魔物も噂をするんだな」
「魔物にも魔物のコミュニティぐらいはあるさ。要は群れって訳だな。中にはあの子を殺そうと目論んだアホもいたが.......そんな奴らは殺されていったよ」
「魔物達にも好かれていたんだな」
「好きだったさ。まだ若かった頃のアタシも物珍しさから見に行ったが、そこで話すあの子の事は直ぐに好きになったよ。良くこうして空の旅にも出たし、人の言葉も教わった」
人の言葉が話せる厄災級魔物は、過去に人と関わっていたことが多いとは思っていたが、リンドブルムも関わりがあったんだな。
吸血鬼夫婦も人間との関わりがあったし、ドッペルゲンガーに至っては人の社会で記載がてきたこともある。
ウロボロスもニーズヘッグも関わりがあったな。
恐らく、ラナーと一緒に話したくて言葉を覚えたジャバウォックと同じようなものだろう。
数年間、人の言葉を話す練習をしたジャバウォックは、ほぼ完璧に人の言葉が話せるようになっている。
ラナーの前以外ではあまり話さないが、少し話した時には驚いたものだ。
めっちゃ流暢に人の言葉を話すジャバウォックの違和感が、半端じゃなかったのを覚えてるよ。
ファフニールにも人との関わりがあったようだし、魔物は人から言葉を教わるようだ。
「そうして楽しい日々が続いたんだが ........ある日、他の人間が来た。しかも、軍隊だ」
「軍?........あぁ、魔物が集まりすぎて、その中心にいる子が魔王とでも思われたのか」
「話が早いねぇ。簡単に言えば、そんな感じさ。その子は、魔物と人の共存できる世界を目指し始めていたからね。魔物を素材としてみる人間達とは価値観が合わなかったし、知能の低い魔物は人を食料としてしか見れない。人と魔物の共存は無理だ。この傭兵団のように、賢い奴らばかりが集まれば別だけど、バカはどこにでもいるからね」
人も魔物も、結局は生き物。
本能や欲に逆らうことが出来るのは、ごく一部の者たちのみ。
国家規模での魔物他の共存は、どう考えても無理がある。それこそ、相手を洗脳するような異能がなければ難しいだろう。
「そうして起こった戦争だが、それでも彼女は訴え続けた。抵抗は最低限、だが、誰一人として耳を傾けない。彼女は騙され、処刑された」
「........」
「たとえ私が死んでも、敵討ちをしようなんて思わないでね。なんて言っていたが、当時のアタシ達には無理な話だ。怒り狂った魔物達が全てを蹂躙し、アタシも全てを壊したよ。これがアタシたちの答えだった」
“夜は亡き友への鎮魂歌。星降る夜は貴方の願った世界を潰した者への裁き。今ここで奏でよう。これはアタシが友へ送る答え”
これはかつて慕ったその人間に捧げた歌だったのか。
アンスールが少し悲しそうな顔するはずだ。
俺が何も言わずに黙っていると、リンドブルムは首をこちらに向けてニッと笑う。
「団長はあの子に似てる。性別も性格も違うが、どうしてもあの子の顔がチラつくんだ。なぁ、団長、出来ればこのままでいてくれよ。アタシに夢の続きを見させてくれ」
「できる限りは頑張ろう。だが、期待するなよ?」
「アハハハハ!!その言葉が聞ければ十分さ!!永遠の夢を見ていたい」
リンドブルムは盛大に笑った後、日が落ちるまで適当なことを話しながら空の旅を楽しむのだった。
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