ナチュラルボーンボマー

 この学園で1番の変人は誰か?


 そんな質問を生徒たちにすれば、大抵の生徒たちからはこの名前が上がる。


 それはエレノラだろう。と。


 何千人といる生徒達の中には、当然変わり者も多く存在する。しかし、エレノラはその中でも頭1つ抜けた変人であった。


 常に考えている事は、爆破爆破爆破。


 ものを爆発することに快感を見いだし、実際に何かを爆発させなければ気が済まない。


 “変人”と言うよりは“変態”に近い思考を持っているのが彼女である。


 しかも、錬金術に関しては天才的と言うのが、エレノラの爆破活動に拍車をかけていた。


 才能の使い方を完全に間違えている。


 「あ、ジン先生。見てくださいよ。一定以上の重さに反応して爆発を起こす爆弾を開発したんです。後は、小型化を目指せば、完璧ですよ!!」


 近づいてきた俺を見て、目をキラキラさせながら危険物を持ってくるエレノラ。


 その満面の笑みは年相応の可愛らしい少女であるものの、手に持っている物が余りにも物騒すぎた。


 さっきの爆発はコレが原因か。どう見ても人を殺せる調整になっているように見えるんだが、エレノラは何を考えてるんだ?


 武闘大会において、勿論殺しは禁止されている。武闘大会で使用される武器はレプリカではなく本物だが、未来ある若者を殺すなんてことは絶対にあってはならない。


 毎年多くの回復系異能を持った人達や治癒ができる魔法使いを呼び、即死さえしなければ問題ないようにしてあるのだ。


 で、今の爆破はどうかと言うと、ほぼ間違いなく即死するだろう。


 どうやったのかは知らないが、余りにも威力が高すぎる。


 「流石にその威力の爆弾は使えないぞ........武闘大会で人を殺す気か?」

 「まさか。ちゃんと死なないように調整してますって。でも、相手に被害が行かなければ意味が無いので少しだけ威力を強めにしてますよ」


 嘘つけ!!と言いたい気持ちをぐっと堪えつつ、俺はエレノラの持っている地雷に目を向ける。


 大きさは直径60cmほどの大きめな地雷だ。


 これを地面に浅く埋め込めば、紛争地帯の出来上がりである。


 「ちょっと踏んでみてもいいか?威力を確認したい」

 「どうぞどうぞ。人が踏んでもちゃんと反応するのかを確認できてなかったのでいい機会です!!」


 俺を実験材料モルモットとして見るなよ。


 俺はそう思いつつも、エレノラが置いた地雷に足を下ろす。


 ドォォォォォォォォォン!!


 先程と同威力の爆発が巻き起こり、かなりの衝撃が俺に襲ってきた。


 うーん、アウト!!


 俺が魔力を全身に纏って防御しているにもかかわらず、とてつもない反動を感じる。


 厄災級魔物に攻撃された時ほどでは無いし、ウチの団員達なら余裕で耐えられるだけの威力ではあるが、学生に耐えられるかと言われればNOだろう。


 もう半分ぐらい威力を落としてくれ。そしたら使っていいから。


 「うん。コレを武闘大会で使うの禁止な。学生相手に使ったら死ぬぞコレ」

 「そんな........私の可愛い爆弾ちゃんを使うのナシなんですか?」

 「いや、もう半分ぐらい威力を落としてくれ。俺なら余裕で耐えられるけど、学生相手なら片足ぐらいは余裕で吹っ飛ぶぞ?」

 「そのぐらいで調整してますからね。以前魔物相手に爆発の威力を確認したことがあって、それを基準に作ってるので」


 最初から片足程度を吹き飛ばす気満々かよ!!


 末恐ろしいにも程がある。


 この子、1歩でも道を踏み外したら大量殺人鬼になっても可笑しくないぞ。


 俺はエレノラの今後が心配になり、今後の事に関して話題を振ってみることにした。


 「エレノラは学園を卒業したら何をしたいんだ?」

 「特には考えてません。爆破さえ出来れば私は満足なので」


 ナチュラルボーンボマー。


 社会に適応した爆弾魔とか言ったけど、適応できてないわこれ。


 この世界には爆破解体なんて技術はない。高層ビルなんてなければ、普通の一軒家を爆破解体することもない。


 精々、鉱山で爆破採掘するぐらいしか道を示せないぞ。後は軍に入って兵器の研究をさせるか。


 教師として、生徒の今後を考えてあげる必要がある。エレノラの今後は特に考えてあげた方がいいかもしれない。


 個人的に、教え子が大量殺戮兵器なんて作って欲しくない。あくまでも個人で頑張って欲しいのである。


 エレノラの興味を引きつつ、個人の技量によって活躍出来る職業........冒険者か?


 戦闘で爆弾を使えるし、魔物相手なら爆殺しても罪に問われない。


 世界術を旅すれば、爆弾を作る上で新たな材料を見つけることもできるし、彼女の欲求を満たすことが出来るかもしれない。


 俺は、少し冒険者について詳しく調べると同時に、エレノラが間違った道に行かないように見守ろうと決断する。


 危なっかしいのもあるし、個人的にはこういう変人は面白くて好きなのだ。


 「そうか。まぁ、それは追追考えるとして、今は対人用の戦い方を考えよう。小さい爆弾は持ってるか?」

 「ありますよ。ほらコレ」


 エレノラは、ポケットからジャラジャラと小石程度の大きさの玉を取り出す。


 この全てが爆弾か。確か、エレノラが開発した火薬すらも使わない画期的な爆弾って話だったか?


 魔力を流し込めば、任意で爆発させられる魔道具に近い爆弾。


 作り方も簡単らしく、鉄さえあれば錬金術を用いて容易に作れるらしい。仕組みは聞いたが、専門用語の羅列でよく分からなかった。


 しかし、火薬を使わないため、威力はお察し。


 とは言え、人を火傷させ軽く吹き飛ばすだけの威力はある。これを主軸に戦ってもらうとしよう。


 「これ、何個ぐらいある?」

 「鉄さえあれば無限に作れます。私は慣れてるので、ひとつ作るのに一秒もかかりません」

 「ちょっと作ってみて」

 「はい」


 エレノラは既に爆弾用に加工されている鉄を取り出すと、手のひらで握りしめる。


 一秒も経たずに手のひらを開くと、確かに爆弾の形に変化した鉄がそこにはあった。


 凄い才能だ。今日の錬金術学で鉄の加工と言うのがどれ程大変かを知った俺からすれば、コレはひとつの極地に辿り着いた者である。


 わずか一秒足らずで、鉄を加工し爆破させる為の工程も終わらせているなんて、この世界でたった一人しかできない芸当と言えるだろう。


 「ちゃんと爆発させれる?」

 「できますよ」


 ポイッとゴミを投げ捨てるかのように出来たてホヤホヤの爆弾を放ると、時間差で爆弾は爆発する。


 ドン!!


 先程の地雷よりは明らかに威力が落ちているが、武闘大会で使うには十分すぎる威力だった。


 「んじゃ、この爆弾たちを活かせるように、戦闘技術を磨いていこう。魔力操作はかなりできてるだろうし、先ずは防御の練習からだな」

 「え、爆弾は使わないんですか?」

 「使うけど、爆弾達を活かせるだけの下地がないと意味が無いぞ。虚空を爆破したいってなら話は別だけど、そうじゃないなら基礎を磨きあげないと」

 「うぅ、私の愛する爆弾ちゃん達の出番は........」

 「もう少し先だな。でも、想像してみろ。武闘大会でその愛しい爆弾ちゃんたちが長い事活躍するには、エレノラがやられないだけの強さが必要だ。爆弾ちゃん達の凄さを見せたいんだろ?侮るヤツらに見せてやれ。お前の持つ才能と、その産物をな」

 「........頑張ります」

 「いい子だ。それじゃ、俺と簡単な組手をするか。爆弾を使って戦う性質上、素手の方がいいだろうしな」


 俺はそう言うと、エレノラと組手を始める。


 後に“爆殺魔ボマー”と呼ばれる生ける伝説の冒険者が生まれることになるのだが、この時の俺もエレノラもそれを知る由は無い。

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