神正世界戦争:破壊神vs聖弓①
二ヶ月間、正連邦国は数多くの密偵を失いながらも、なんとか大まかな地形を把握することに成功した。
まだ詳しくわかっていない場所も多くあったが、これ以上時間を引き伸ばすことはできない。
同時期に始めたはずの獣王国と正共和国の戦争は既に終わりを迎え始めており、正共和国内部にまで獣王国の兵士が入り込んでいる。
正共和国が落とされると戦線が増えてしまうため、正教会国からも幾らか援軍が送られたが焼け石に水だった。
正連邦国としても、正共和国が落とされると敗北が濃厚になってくるので早めに援軍を送りたい。
そんな思惑があって、準備が不十分な状態でも戦争を始めようとしていたのだ。
「ほー、無理にでも山を登って来たな。ちょいちょい嫌がらせはしていたが、やっぱり限界はあるか」
「そう言うなよ。ドワーフは弓の扱いが下手な奴が多いからな。魔法も苦手な奴が多いし、牽制程度にしかならねぇよ」
山の山頂付近に陣を構えるドワーフ連合国軍にいる“破壊神”ダンは、山の麓から登ってきた正連邦国軍を見て楽しそうに口元を歪める。
真正面から暴れたい気持ちをずっと抑えてきた破壊神は、今にも暴れたくてウズウズとしているのが見て取れた。
彼の横で同じ景色を眺める同僚は、小さく溜息をつきながら呆れ返る。
「まだダメだぞ?上からの指示がないからな 」
「分かってるって。まだ仕掛けねぇよ。この距離でも問題無いが、最初はできる限り巻き込んだ方がいいもんな」
「それは知らん。上の考えなんざ、冒険者に分かるかよ」
そう言って、同僚はずんぐりむっくりとした体型をした体をゆっくりと地面に下ろす。
種族的に背が低く体力があり筋力も多いドワーフと言えど、二ヶ月間に及ぶ攻防は肉体的に来るものがあった。
隣で元気そうにしている破壊神がおかしいのであって、自分は普通のはずだと言い聞かせながら山の中腹辺りに陣を敷き直した正連邦国軍を見つめる。
「向こうは大体100万人近くって言ってたか?こちらのほぼ倍だな。さすがは人間種。数が多い」
「一人二人づつ殺せばいいんだろ?簡単じゃねぇか」
「そんな単純な話じゃねぇだろ。相手にもお前のような奴が居るんだし、50万人全てが動ける訳でもないだろ」
相変わらずの脳筋さに同僚は軽く頭を抱えつつ、不気味な気配を感じる辺りに視線を向けた。
その一帯だけ、何故か背筋が凍るほど嫌な気配を感じるのだ。
出来れば見たくないが、視線を外した瞬間に殺されそうな気がしてならない。
もちろん、今まで何度も視線を逸らしても殺されることは無かったが、だからと言って次も死なないとは限らなかった。
同僚がどこを見ているのかを察した破壊神は、ニヤリと笑う。
「あそこはヤバぇのが居そうだな。楽しみだぜ」
「その能天気さは羨ましいよ。俺は近づきたくないね。命が惜しい」
「馬鹿言え!!死と隣り合わせの生き方をするからこそ、命を感じるんだろうが。命が大切なら、命を感じる生き方をしようぜ!!」
「お前はそうかもしれんが、俺は生と死の境目を行ったり来たりはしたくないんでな。大体、お前は──────────」
同僚が何かを言いかけたその時、1人の兵士がこちらへ向かってくる。
ドスドスと地面を鳴らし、ドワーフの技術によって作られた鉄鎧を纏った兵士は、破壊神の前で止まると敬礼しながら上からの言葉を告げた。
「“やってしまえ”との伝令です!!」
「お、いよいよか。今からやっちまっていいのか?もう少し近づいてくれれば、被害を大きく出来そうだが........」
「問題ありません!!これ以上の睨み合いは不要!!ならば、先手を取るべし!!との事です!!」
「なら、やっちまうか。お前も見てくか?」
ハキハキとした口調で話す兵士は、少し迷った後“自分は他にも仕事があるので”と言って戻っていく。
破壊神と呼ばれるその力を間近で見られるチャンスがあったものの、彼は真面目だったようだ。
破壊神は大きく伸びをした後、全身の体をゆっくりと解していく。
全身の緊張が解けると共に、膨大な魔力を練り始めた。
「俺より前に出るなよ?」
「当たり前だ。俺だって味方の攻撃で死にたくは無い」
準備を始めた破壊神を見て、同僚はさっさと後ろに下がる。
何をするか分かっているからこそ、彼の前には立ちたくなかった。
十分に魔力が練り上がると、破壊神は大きく息を吸い込む。
そして、“破壊神の”二つ名がついた自分の能力を発動した。
「行くぜ!!
音にもならない音が、衝撃波となって繰り出される。
岩が内部から破壊され砂になる程の威力を誇る咆哮が、開戦の狼煙となった。
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正連邦国軍の陣地では、その場所だけ異様な気配が漂っていた。
原因は言うまでもない。
「まだですかねぇ........」
「またそれですか。5分置きに呟くのやめてくれません?後、殺気が漏れてるので閉まってください」
「おっと、私としたことが........それにしてもまだですかねぇ」
「はぁ........」
注意したのにも関わらず、秒で破る聖弓に付き人は頭を抱える。
二ヶ月という時間は聖弓にとって長すぎる時間であり、目の前に仇とも言えるドワーフがいるのにも関わらず攻撃できないことにもどかしさを感じていた。
最初こそ付き人にも感じれない程の殺気を放っていたが、今となっては天幕の近くを通るものが震え上がる程にまでなっている。
もちろん、怒ってはいない。
が、長年の恨みが無意識に殺気をばらまいてしまっていた。
なるべく早く戦争を始めようとした原因の一つである。
彼女を怒らせても何もメリットはない。それどころか、その場にいるだけで殺気をばらまいて兵士を怯えさせてしまってはどちらが敵か分かったものでは無い。
付き人とて、注意はしているものの辞めさせるのは無理だった。
復讐の鬼を止める術を待つ者は誰もいない。
「上はなんて言ってるのですか?」
「さぁ?私に聞かないでくださいよ。私はあくまで付き人で、上からの指示は現場の指揮官が聞くものです」
「そうですか。それにしてもま──────────」
何度目になるか分からない“まだですかねぇ”は、途中で途切れ、聖弓はこの時を待っていたかのように牙を剥く。
急に雰囲気が変わった聖弓を見て、付き人も察した。
「来ますか?」
「えぇ、来ますよ。今からは殺戮です。この世界の浄化のためにドワーフと言う下等種族は淘汰されるのですよ」
「それは何よりですね。私もサポートに回ります。ご武運を」
聖弓は天幕を出ると、山頂付近に陣を構えるドワーフ連合国軍を見つめる。
目は見えないが、そこには憎き敵が大勢いることだろう。
「先ずは攻撃を防ぎますか。来たれ“聖なる狩人”」
その手に顕現するは聖なる弓。神々しく輝き、金と鋼によって装飾された紋様は自然を表す。
復讐を果たす為の天からの贈り物であるその力が今、解放されようとしていた。
「では、殺戮を開始します」
こうして、ドワーフ連合国vs正連邦国の戦争が始まった。
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