神正世界戦争:獣神vs聖盾③

 再び仕切り直しになった戦場ではあるが、最初のような静寂はない。


 お互いにお互いの動きを分析し、次の動きに備えて動き始めていた。


 「おい、聖盾。前にやったあの光るヤツはできないのか?」

 「できなくはない。が、先日の戦争で力を使いすぎて範囲内の味方全てに強化バフをかけるのはキツイな。お陰で防戦一方だ」

 「俺だけにかけるのは?」

 「そのぐらいなら問題ない。今すぐやろう」


 聖盾は痛い出費だと思いつつ、必要経費だと割り切って“聖なる魔力”を消費する。


 “聖なる守護者ホーリーガーディアン”と呼ばれる異能は、“聖なる者ホーリー”と呼ばれる異能の一種だ。


 普通の魔力を“聖なる魔力”に変換し、その魔力を使って力を行使することが出来ると言う特徴がある。


 変換は常に行われ、彼の武具である盾に蓄積されていくがとにかく変換率が悪い。


 魔力を1消費して得られる“聖なる魔力”は約0.1程度。


 更に、変換できる魔力量は自分の意思によって決められるものでは無い。


 その盾によって一定時間の魔力を変換できる量が決まっており、そうそう乱発できるものではなかった。


 強欲の魔王との戦闘で消費した“聖なる魔力”は既に回収できていたものの、ブルボン王国南部出の戦争で消費した分は戻ってきていない。聖盾はできる限り“聖なる魔力”を温存したかった。


 しかし、ここで死んでしまっては意味が無い。


 多少の損は受け入れるしか無かった。


 「聖なる守護者ホーリーガーディアン:“守護者の鼓舞”」


 聖盾は、少ない“聖なる魔力”を消費してガルルフに強化バフをかける。


 聖なる盾は光り輝き、その輝きはガルルフの力となる。


 「キタキタァ!!これで更に根性が入るな!!」

 「いや、入ったのは根性しないんだが........まぁいいか」


 溢れ出る力を認識したガルルフは、即座にザリウスとドルネスの元に駆け出した。


 先程よりも明らかに速いその足を見て、ザリウスとドルネスも動き出す。


 「あちらも本気って訳か?国王陛下。力は使わないのか?」

 「そんなポンポン乱発できるものじゃないから、ここぞって時ように取ってあるんだがな」

 「んな事言ってる場合か。アレは強いぞ。それに、出し渋るから二回も仕留め損なってる。昔の戦闘感は忘れたのか?」

 「馬鹿言え、ペース配分を覚えたんだよ。ここは戦場だからな。動けなくなったら困る」

 「その時は、アタシが担いでやる」

 「昔、おれに背負われてた奴がよく言うな?」

 「るっさい、さっさとやれって」

 「はいよ」


 顔を僅かに赤らめたドルネスを見て、ザリウスは微かに笑う。


 10年近い付き合いになる彼らは、黒歴史の一つや二つはお互いに持っているのだ。下手につつけば、手痛いしっぺ返しを喰らう。


 「それじゃ、出し惜しみはここまでにさせてもらうとするか!!“獣神化”ァ!!」


 異能を使用したと同時に、ザリウスの体は神々しく光り輝く。


 人に近かったはずの見た目は、完全に獣へも変貌し、その姿は獣人の祖のようにも見える。


 人の形をした獅子。


 正にその言葉通りの姿をしたザリウスは、天に向かって高らかに吼えた、


 「ガァァァァァァァァ!!」


 重厚な叫びは空気のみならず、大地すらも揺らす。


 咆哮の音波は、草花をさざめかせ、戦場に巻き込まれていない遠くの木の枝をへし折った。


 あまりの爆音に、正共和国側の兵士は何事かと僅かに動きが止まり、その咆哮が獣王の者だと気づいている獣人達はその隙を逃さず敵兵を殺していく。


 近くにいた正共和国側の兵士達は、鼓膜が破れるかと錯覚する程の爆音にみみを塞ぎ、事前に獣王の咆哮に備えていた獣人達は平然と敵兵の命を刈り取る。


 毎年のように獣王の咆哮を耳にしてきた彼らは、その対処法も各自で身につけているのだ。


 主に、魔力で耳を覆うと言う力任せな方法だったが。


 たった一つの咆哮で戦況を有利にしたザリウスは、大剣を担ぐガルルフに向かって走り始める。


 既に間合いはかなり詰まっており、後2.3歩でお互いの攻撃が届く間合いだった。


 これがタイマンなら、怠惰の魔王に負ける前なら、ザリウスも正面からの殴り合いに応じただろう。


 しかし、コレは戦争であり、自分よりも遥高みにいる者を目にしてきている。


 既に限界地点付近にいるザリウスは、異能や自身の肉体を強化するのではなく、戦い方を学んだのだ。


 不利な相手に対する戦い方を、複数人での戦い方を、勝てなければ負けない戦い方を、誰かに背中を任せる戦い方を。


 その圧倒的強さから学ぶことのなかった戦い方を学んだザリウスは、以前よりも飛躍的に強くなっていた。


 「オ、ラァ!!」

 「悪いが、お前とはやり合わんぞ」


 大きく振りかぶって振り下ろされた大剣を、ザリウスは軽く避けるとその隙を攻撃することなく横を通り過ぎていく。


 厄介なのはガルルフでは無い。


 先程から、殺せそうで殺せなかった聖盾である。


 「私狙いか!!」


 完全にサポートに回る気だった聖盾は慌てて盾を構えるも、ザリウスはとにかく冷静だった。


 真正面から盾を突破できないのであれば、盾を避ければいい。


 聖盾程の男がザリウスの速さに対応できない訳が無いのだが、ザリウスはそこら辺の心配はしていなかった。


 素早く聖盾の後ろに回り込むと、ナイフ以上に斬れる爪を突き立てて心臓を穿かんと腕を突き出す。


 聖盾もその攻撃に対応しようと後ろを振り向こうとした。


 しかし──────────


 「っ!!──────────しまっ!!」

 「盾の内側は守れないだろ?闇ってのは内側にできるもんだ」


 闇縫ダークバインドによって腕を絡め取られ、振り向く速度が遅れてしまった。


 ドスッ


 静かな音を立て、ザリウスの爪は聖盾の心臓を貫く。


 これで終わりに見えたが、自らの死を悟った聖盾は最後の力を振り絞って闇縫を引きちぎり、盾でザリウスを殴り飛ばした。


 「んぐっ!!」


 “聖なる魔力”を纏った攻撃はザリウスの想像以上にダメージを与え、ザリウスの右腕をへし折る。


 しかし、殺すまでには至らなかった。


 「聖盾!!」

 「ザリウス!!」


 崩れゆく聖盾と、吹き飛ばされたザリウスに駆け寄る2人。


 お互いに牽制し合いながら駆け寄ったのは、さすがと言えるだろう。


 「大丈夫か?!」

 「お、おう、右腕をへし折られたが、俺は元気だ。それよりも、聖盾を殺れたな」

 「あぁ、よくやったよ。後は私たちに任せておけ」

 「いや、俺ももう少し暴れるとしよう。手負いの獣がいかに恐ろしいか、人間共に分からせてやるさ」

 「それ、アタシも入ってね?」

 「お前は別だ........どうやら逃げられたようだな」


 ザリウスが聖盾に視線を向けると、聖盾の死体を持ったガルルフが既に戦線を離脱していた。


 せめて首を取らせる訳には行かないと判断したのだろう。


 「いい判断だ。とはいえ、今後聖盾が出てこないから、士気が下がるのは確実だな」

 「よくやったよ。さて、アタシ達も行くとしよう。見せてくれるんだろ?手負いの獣を」


 獣神vs聖盾の戦いは、獣神に軍配が上がった。


 その後、聖盾と言う最大の戦力を失った正共和国は徐々に戦線を押し込まれることになる。






 能力解説

聖なる守護者ホーリーガーディアン

 聖なる盾を顕現させ、その力を行使する能力。

 特殊系具現化型の異能。

 “聖なる魔力”を消費して様々な力を使うことが出来るが、作中でも言われていた通り燃費が悪い。

 盾に“聖なる魔力”は蓄積されていくので、盾は魔力タンクとしての役割もある。

 普通の魔力から“聖なる魔力”に変換される効率が悪すぎるため、力を乱発できないのが欠点ではあるがそれ以外に欠点らしい欠点はない。例え相手方格上であっても、通用する攻撃が幾つかあった(作中で使われたことはないが)。

 もし、聖盾が万全の状態ならば、最低でも引き分けには持ち込めただろう。

 また、“聖なる者ホーリー”と呼ばれる異能の1種であり、この異能は同じような欠点を抱えている。

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