どこだよそこはぁ!!
大魔王の居場所を突き止められないか色々と考えること2日後。ついに動きがあった。
いつものように聖堂で報告書に目を通していると、シルフォードが慌てた様子で聖堂の扉を開く。
あまりに乱暴な開き方だった為か、扉を開いた時に発生する風がここまで届いていた。
雑すぎかよ。
「団長!!神託があった!!」
「お?そうか。場所と日時は?」
「コレ」
シルフォードに手渡された報告書に目を通すと、そこには神託の内容が書かれていた。
“リテルク湖の奥底。明日の正午に復活”
リテルク湖。リテルク湖ねぇ........
「リテルク湖か........どこだよそこはぁ!!」
俺は地面に報告書を叩きつけながら叫ぶのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
神聖皇国の首都大聖堂カテドラでは、教皇と枢機卿が神託について大慌てで調べていた。
名前も知らない湖。その場所の特定は容易ではない。
「どこだ。リテルク湖とは」
「それが分かれば苦労しませんよ。今、急いで神官達に探させています。が、正直見つけるのは難しいかと........」
「せめて国名を言ってくれれば何とかなるかもしれぬのだがな」
教皇は深くため息をつくと、枢機卿の後ろに控えていたジークフリードに話しかける。
「ジークフリード。何か知っているか?」
「知っていたら話すと思いませんか?」
「だろうな。聞いてみただけだ」
教皇はもう一度深くため息をつく。
居場所がわかっても、どこにいるのか分からないと言う矛盾。
教皇は目頭を抑えながら、どうしたものかと考える。
「どうすればいいと思う?」
「どうしようもない。と言うのが答えかと。今回に関しては場所すらも分からないのです。魔王が派手に動いてくれなければ、我々も対処の仕様がありません」
「しかし、それでは被害が出る」
「そこは目を瞑るしか無いでしょう。いつでも動けるように勇者達を待機させ、友好国には話を通しておくぐらいしか出来ることは無いと思いますよ」
枢機卿の言う通り、現在神聖皇国が取れる手段はそのぐらいしかない。
場所が分からない以上、対策のしようもないのだ。
教皇は妙案が浮かばないかと頭を回転させることを諦め、疑問に思っていた事を言う。
「ところで、なぜお前がここにいるのだ?ジークフリード。呼んだ覚えはないが........」
ようやく自分の用事を済ませられると思ったジークフリードは、少し弾んだ声で話し始める。
「いやぁ、このまま僕を放置するのかと思いましたよ。かれこれ30分近く魔王の話をしてるものだから、てっきり存在しないものとして扱われているのかと」
「で?用事は?」
「最近、第五団長のエルドリーシスがとある捜し物をしていることは知ってますか?」
「
3番目に復活した魔王を倒した傭兵団
表向きは、勇者達の迅速な対応によって周辺国に被害をもたらすこと無く討伐された事になっているが、実際は違う。
勇者達が旧サルベニア王国に到着した時には既に魔王は討伐されており、置き手紙だけがその場に残っていたのだ。
この事実を知るのは現場へと赴いた聖堂騎士団第五団長エルドリーシスと3人の勇者。そして、教皇と枢機卿の5人のみである。
「えぇ、調べ物については別にいいのですが、少々調べ方が乱暴になってきてですね........」
「ほう?あまり権力を振りかざすのは好きではない彼女が?」
「どうも彼女の
「それで。その報告をしてどうするのだ?聖堂騎士団長にはそれなりの権限が与えられている。その権力に逸脱しない範囲なら、目を瞑るものだろう?」
「まぁ、その通りなんですが。あまり深く探られると、
ジークフリードの口から漏れたその言葉に、教皇の表情は固まる。
カマをかけているのか、それとも全てを知っている上で言っているのか。
背中に嫌な汗を掻く教皇。
「まて、その言い草。ジークフリード。貴様は何を知っている?」
「全て。とは言えませんが、大まかな事は知ってますね。例えば、
「........どこまで知っている?」
「魔王の討伐が終われば、そのまま戦争を起こす所までは。最近、物資の移動や神官の移動が不自然ですね?なるべく早めに戦争を起こしたいのだと見える。他にも、逃走手段を用意したり........ね?」
「........」
黙りこんだ教皇。その目は明らかに険しく、長年神聖皇国を導いてきた威厳ある目だった。
ジークフリードはその目を見ながら、ケラケラと笑う。
「やだなぁ。そんな怖い顔をしないでくださいよ。別に僕はその計画に関して何か言うつもりはないですよ。どちらかと言えば、僕は賛成寄りなんですから」
「その言い方だと、エルドリーシスが反対するように聞こえるが?」
「実際そうでしょう?彼女には前科がありますからね。特に、こう言うやり方は好かない」
「つまり、彼女に彼らについて調べさせるのはやめさせた方がいいと言う訳か?」
「彼らについて知られれば、後は芋ずる形式で出てきますよ。リュウジ君はその辺を分かってて沈黙を貫いているようですが、彼に聞かずとも、誰かに聞かずとも、答えに辿り着くことはできてしまいますからね」
「お前のようにか」
「えぇ。僕のように」
ジークフリードはニッコリと笑う。
その笑顔は、世界中の女性を虜に、下手をすれば男すらも虜にできるほど爽やかなものだったが、教皇の目にはそのようには映らない。
枢機卿も同じだ。
彼の笑顔の裏には、ほんの少し狂気が垣間見えた気がしたのだ。
教皇は三度ため息をつく。
「分かった。多少の妨害はしておこう。少なくとも全てが始まる前までは、何も知られないようにしなければな」
「あぁ、そうだ。この計画、彼も知ってますからね」
「彼だけではわからんわ」
「禁忌ロムス。彼の場合は本人に教えてもらったようですが」
教皇は天井を見上げると、4度目の溜息を吐いて小さく呟いた。
「もう面倒くさい........80過ぎのジジィを虐めて楽しいのか?ワシをストレスで殺したいのか?」
「“私”から“ワシ”に変わってますよ。教皇様」
「アッハッハッハッハッ!!偉い立場にはなりたくないんですねぇ!!」
「面倒事を持ってきた貴様が言うかァ!!」
教皇の執務室は、賑やかになるのだった。
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リテルク湖の奥底。そこに眠る魔王。
近くに悪魔もおらず、静かな湖だ。
この湖を訪れる人は誰もいない。
なぜか?
それは、このリテルク湖の周りにある場所が問題である。
この湖の周りには森が拡がっており、その森の中をアンデットと呼ばれる死の魔物が徘徊している。
死の魔物が生み出す瘴気により周りにある木々は侵食され、食料や街の発展になるような資源は何一つない。
そんな土地に人は来ない。
そしていつしか、その湖の名を覚えているものは少なくなった。
今は国境の森として人々に知られている。
「ム?ナニカ、クル」
だからこそ、人知れずそこにそれはいるのだ。
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