第七十一話

「ふふ。俺は菊島佐八きくしまさはち火消ひけしなんて他の奴にまかせて、俺と遊ぼうぜ!」


 妖斧ようふと聞いて顔色が変わった市之進いちのしんは、『おと』を抜刀ばっとうした。


 佐八は余裕よゆうの表情で、えた。

「ふふ。それでいい。なら、こっちから行くぜ!」


 佐八は、おのを市之進に振り下ろした。それを市之進は『音』で、上段で受けた。だが斧の攻撃は、重かった。市之進の両足が少し、地面に沈むほど。


「くっ」

 斧を右にさばいた市之進は、考えた。あの斧は重い、今の攻撃で分かった。ならば、その弱点をく! 市之進は『音』で、連続して突きを繰り出した。重い斧では、連続攻撃はさばけないはずだ!


 すると佐八は、叫んだ。


 重変じゅうへん


 そして重いはずの斧を小枝こえだのように振るって、市之進の突きをさばいた。


 市之進は、動揺どうようを隠せなかった。

「な、そんな馬鹿ばかな……」


 佐八はやはり、余裕の表情で語った。おどろくのも、無理はなかろう。だがこれが、妖斧ようふへん』の神通力じんつうりきだ。この斧は重さを、本来の重さから小枝ほどの重さに変えることができる。これを作った周五郎しゅうごろう様は常温の水と、熱した水を混ぜたそうだ。水は常温と熱した場合で、重さが変わるからな、と。


 そして重変! と叫んだ佐八は、再び『変』を市之進に振り下ろした。市之進はやはり、『音』で上段で受けるのがやっとだった。


 するとまた佐八は、叫んだ。


 重変!


 そして小枝のように『変』を振るい、市之進に連続して斬りつけた。


「ぐはっ!」

 市之進は、両腕両脚をりつけられた。これはまずいという考えた市之進は、必死に足さばきで佐八と距離を取った。そして両腕両脚に、痛みを感じた。やはりこれはまずい。これは斧の刃を破壊はかいするしかない。そして市之進は、放った。


 音波おとは


 そして、突きも放った。


 音波、くちばし!


 ぎゅいいん! と親指ほどの太さの衝撃波しょうげきはが『変』の刃に当たったが、破壊できなかった。


 佐八は、笑った。

「ふふ。効かないなあ、そんな攻撃……」


 市之進は、考えた。衝撃波を生じさせる音波の後に一度、突きを放っても駄目だめか。それならば、と考え市之進は聞いた。

「佐八と言ったか。君は、『あまだれ石を穿うがつ』という言葉を知っているか?」


「ああ。知っているが、それがどうした?」

「攻撃も同じだ。たとえ小さな攻撃でも続ければ大きな攻撃になると、僕は思う」


 佐八は訳が分からない、という表情になった。

「ふん。だから、それがどうした?!」

「君には小さな攻撃を、続けて喰らってもらう……」

「な、何だと?!」


 市之進は、放った。


 音波!


 そして『音』を中段の構えから素早く三回、突きを放った。


 おおハヤブサの口ばし!


 三つに連なった親指ほどの太さの衝撃波が、連続して『変』に命中した。そして『変』の刃を、破壊した。

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