第六十一話

 清三せいぞうは、いきどおった表情になった。

「オ、オノレ……。ウン? モウヒトリイルナ……。ソッチナラ、ドウダ?!」


 そして清三は、ことみに向けて『光』をるった。


 九射きゅうしゃ


 ことみは、おびえた。な、何なの、この攻撃? この速さ、矢って言うより鉄砲てっぽうの玉じゃない……。いや、鉄砲の玉よりも速い……。か、かなう訳が無い……。いくら妖刀ようとう神通力じんつうりきがあったって、せいちゃんも攻撃をふせぐのがやっと……。駄目だめだ、こんなてきかなうはずがない!


 すると、ことみの左から誠兵衛せいべえが叫んだ。

「危ない、ことみ! 攻撃を防げ!」


 しかし、ことみは怯えていて動けなかった。意を決した表情の誠兵衛は素早く、ことみを突き飛ばした。すると九本の光の矢が誠兵衛の左腕、左の腹部、そして左脚に突き刺さった。

 

 誠兵衛は、激痛で思わず声を上げた。

「ぐっ!」


 そして、ことみに告げた。

「だ、駄目だ。これじゃあ戦えねえ。ことみ、陰陽術おんみょうじゅつは使えるか? 一旦いったん、逃げるぞ!」

「う、うん!」


 ことみは頭上で『いん』と『よう』を交差こうささせて、呪文じゅもん詠唱えいしょうした。

「黒ききりよ、敵の視界をうばえ!」


 神通力陰陽術 暗刀あんとう


 すると黒い霧が、清三の顔をおおった。

「グッ?! ナンダ、コレハ?! ナニモミエン!」


 ことみはもう一度、詠唱した。

「敵を深い眠りにいざなえ!」


 神通力陰陽術 眠刀みんとう


 すると清三の動きが、にぶった。

「ナ、ナンダト?! コンドハ、ネムクナッタ?! クッ、イッタイ、ドンナジュツヲツカッタンダ?!」


 ことみは誠兵衛に右肩をすと、その場を離れた。

「これで少しは、時間をかせげるはず……」


 しかし、このままでは逃げきれない。ことみの『陰』と『陽』の神通力陰陽術の効果は、通り雨が止むくらいのわずかな時間だったからだ。


 ことみがあせっていると、目の前に黒装束くろしょうぞくの三人の男があらわれた。真ん中の男は我々は本郷ほんごう弟子でしで、本郷の指示で二人を見守っていたと告げた。ことみが三人の男に近づくと男たちは誠兵衛を、二人は胴体を抱えもう一人は脚を抱えた。そして今は、もう戦えないだろうから一旦、江戸に帰ると告げた。


 ことみは妖刀の神通力の本当の恐ろしさを知り、まともに戦うことも出来なかったくやしさをみ殺した。くっ、何が相模二刀流さがみにとうりゅうの強さを日本中に広める、よ。こんな私じゃ、そんなことできっこない! でも今は逃げなくては! そして、走り出した本郷の弟子の後を追った。

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