第五十七話

   ● 


 そして、ことみは美玖みくを見つめた。ことみは相模二刀流さがみにとうりゅうの強さを日本中に広めるために、江戸にきたと言った。くっくっくっ、江戸で最強と言われるさむらい、美玖さんを倒せばそれは達成たっせいできると考えた。


 それを聞いて美玖は、感心した表情になった。

「ほう、それはなかなかの心がけだ……。そして自信もあるようだ……」

「はい! でも今は妊娠中にんしんちゅうのようなので、ちゃんと手加減てかげんをしてあげますよ!」


 だが美玖は、冷静に答えた。

「そうだな……。でも、ことみ。あなたは手加減する必要は無いぞ。それでは私には勝てないだろうからな……」


 すると、ことみは完全に頭に血が上った。

「その言葉、後悔こうかいさせてやる! 私は二刀流だから、もちろん竹刀しないを二本、使わせてもらうけど、いいわね?!」

「ああ、もちろん」


 ことみは怒りをあらわにして道場のすみにある、竹刀入れから竹刀を二本取り出した。そして門下生たちがけた道場の中心に立った。美玖も、竹刀を持って道場の中心に移動した。


 ことみと美玖は、試合前の一礼いちれいをした。

「お願いします!」

「お願いします……」


 早速さっそくことみは左の竹刀を水平すいへいに、右の竹刀を垂直すいちょくかまえた。左で攻撃を受けて右で攻撃する、相模二刀流の基本の構えだ。すると美玖も、竹刀を中段に構えた。


 その構えに、ことみは絶句ぜっくした。頭に上っていた血が、一気に引くほど。何? この人? スキが全然、無い……。それどころか、どこに打ち込んでも、さばかれるような気がする、とおびえた。


 美玖は、静かな口調くちょうで聞いた。

「その構え、左で攻撃を受けて右で攻撃をする気か……。すると私から、攻撃をしなければならないのかな?……」


 その言葉を聞いて、ことみは更に怯えた。駄目だめだ、この人の攻撃を受ける自信が無い……。だが、覚悟かくごを決めた。こうなったら、こっちから本気で攻撃をするまで! 


 そして、ことみは宣言せんげんした。

沖石おきいし美玖さん……。あなたには、相模二刀流の奥義おうぎを喰らってもらいます……」


 すると美玖は、真剣な表情で答えた。

「うむ。さあ、かかってきなさい……」


 ことみは、二本の竹刀を垂直にり上げた。二本で攻撃するのが、相模二刀流の奥義だ。そして、右の竹刀を全力で振り下ろした。


 二段斬にだんぎり、いち太刀たち


 もちろん美玖は、上段で受けた。『ぎりぎりぎり』と二本の竹刀がり合い、美玖の動きが止まった。


「今だ!」と、ことみは左の竹刀を渾身こんしんの力で振り下ろした。


 二段斬り、の太刀!


 一の太刀を受けているため美玖は、動けない。だから二の太刀は、完全に美玖の右肩に入る! だが美玖は素早すばやく一の太刀を左にさばくと、再び上段で二の太刀を受けた。


 ことみは、驚いた。そ、そんな馬鹿ばかな! 私の全力の一の太刀を、さばくなんて?!

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