3話「転校2日目」

「おはよう、太郎くん」

「え? あ、お、おはよう山田さん」


 次の日の朝、先に教室へついていた俺に向かって山田さんから挨拶をしてくれた。

 正直向こうから声をかけてくれるなんて思いもしなかったため、かなり驚いた。

 改めて目の前に立つ山田さんは、やっぱりとんでもない美人さんだった。


「それはダメ。私は華子、だよ」

「あ、そっか……おはよう、華子さん」

「うん、おはよう太郎くん」


 山田さん呼びが気に入らなかったようで、俺が改めて華子さんと呼ぶと、今度は満足そうに笑って自分の席へと向かって行った。


 そんな俺達二人のやり取りを見ていたのだろう、教室内がざわついていた。

 昨日は色んな人に囲まれていた山田さんだが、誰が何を話しかけても簡単な返事しか返って来ず、クラスで彼女と打ち解けた人は一人も居なかったあの山田さんが、この教室で初めて笑みを浮かべて見せたのである。


 だから教室内は、その笑顔の可憐さに騒ぐ人から、なんであいつが? と嫉妬に満ちた視線を向けてくる人まで様々だった。


 ……いや、俺にそんな視線向けられても困るのだけどね。


 ただ俺と山田さんは、名前が同じ無個性ネームなだけなのだ。

 ただそれだけで、今は互いにちょっとしたシンパシーを感じているけれど、こんな繋がりが続くのは最初だけ。

 すぐに山田さんはクラスに打ち解けるだろうし、時間の問題だと思っている。

 どうせ直ぐに、名前の共通点なんて薄い繋がりは消えてしまうに決まっているんだから――。



 ◇



「山田くんおはよー!」

「あ、おはよう……」


 そして、今日も遅れてやって来た田中さんは挨拶をしてくれた。

 本当に、田中さんは女神様の仮の姿なんじゃなかろうかと、失恋したくせに声をかけられた事がやっぱり嬉しくなってしまう情けない自分がいた。


 思わず嬉しさから顔が綻んでしまいそうになるが、ふと視線を感じて後ろを振り向くと一瞬山田さんと視線が合った気がしたが、すぐに視線を外された。


 そしてそこには、頬杖をつきながら無表情で窓の外を一人眺めている山田さんの姿があった。


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