第6話 共に戦いたかった

「何かあったのか?」

「親父が倒れた」


 嫌な予感は間違っていなかった。ロンディが何を考えているのかもわかってしまう。

 それはクルーサも同じだろう。


「もしかして村に帰るの?」

「俺は次男だけど兄貴は知ってるだろ? あいつに村は任せられない」


 ロンディの兄は女遊びと金遣いが激しい奴だ。確かに次期村長がそんな人だと不安で仕方がないだろう、だからこそロンディはこのグレイド学園で力をつけ、卒業する必要があった。


「今すぐじゃないとダメなのか?」

「今帰れば村長にはなれないだろうな、だが横で暴走を止めることはできるはずだ」

「嫌だよ! 俺ちん……いや、僕はロンディが居たからアッシュと出会えた、ロンディが居るから今も頑張れるんだ! 居なくなるなんて嫌だよ」


 クルーサの瞳に涙が浮かぶ、俺も多くは知らないがこの二人には並の友人以上の絆がある。到底受け入れ難い事なのは十分に伝わった。


「クルーサ、俺の分もアッシュの横で支えてやってくれ、お前は強いんだそれは俺が一番わかっている」


 クルーサの肩に手をかけ優しい言葉をなげかける、クルーサはそれでも受け入れる気がないのか、その手を振りほどき寮の中に走って行った。


「アッシュ、お前は人を見る目がある……そして考える頭もある、そんなお前に誘われたんだ俺はそれだけでも一生の誇りにできる、だから上に行ってくれ、俺が肩を並べて戦った友人が強いって事を証明してくれ」

「あぁ任せろ、お前の言葉がなくてもそのつもりだ」

「それが聞けただけで安心だ、俺はもう行くよ、迎えの馬車が来てる頃だろうし……もし親父が回復して何事も無かったら戻ってくる、その時は後輩だろうけどな」

「関係ない、その時はまた一緒に強くなろう」

「…………共に、共に戦いたかった」


 最後に悔し涙を流すロンディへ俺は手を差し出した。互いにそれ以上言葉を交わすことなく手を握りあい、ロンディは背を向け歩き出した。


 遠くに消えていくロンディの背中を見て胸の底から込み上げてくるものは確かにあったが、それを必死に押さえ込んだ。


「バカヤロウ……計画が、台無しじゃねぇか」


 俺には止まってる時間はない、だけど今日は何もする気が起こらない。

 進めた足は無意識にロンディが居た部屋に向かっていた。少し空いている扉から小さな泣き声が聞こえてきた。


 強くなるしかない、自分の為にも……友との約束のためにも。


 ――――――――


 どれだけ辛い日が訪れようと必ず明日というものはやってくる。

 次の日の第五修練所で、俺とクルーサは改めて顔を合わせた。


「本当にもう居ないんだね」

「あんな別れで良かったのか?」

「わかってるよ、僕が悪かったって」


 昨日は一晩泣いていたのか、クルーサの目元が赤く腫れてる。

 喋り方も普段とは違って大人しい。


「なら一日でも早く上のクラスに行くぞ、外出許可が出ればあいつの村に行ける、年始休み以外で行けばあいつも俺たちが前に進んだって安心できるし、一石二鳥だろ?」

「確かに、そうだね! うぉぉおおやる気出てきた! 俺ちん今日からハイパーモード! ビシバシ頑張るぞい!」


 ようやくいつものクルーサに戻ってくれた。ロンディの離脱は俺たちにとって大きな喪失だが、それと同時に大きな力をくれた。


「となるとセシリアちゃんと戦うのにダブルで申し込むの?」

「そこが問題なんだ、だけどなあの宝石組ジュエリークラスがどうも引っかかる、もしシェルドフとパーティーを組めば、必ず出てくるだろうな」

「それはアッちん的にもまずいですなぁ……恋のライバルを相手にするか、それともずっと追い続けた想い人を相手にするか」


 調子を取り戻した途端にこれだ、突っ込むのもめんどくさいから一旦捨てておこう。


「他の黄金組ゴールドクラスならまだしも宝石組をクルーサに相手してもらうのは心苦しい、やっぱり元々の一対一に戻そうかと思ってたんだが」

「今更仲間はずれ? 僕ちん泣いちゃうよ?」

「だよな、わかってる、勝負はダブルで申し込むよ」


 と、口にするのは簡単だがやっぱり不安要素が大きい。ただでさえ上位クラスを相手にするつもりだった、勝ち目なんて針の穴程、そこに最上位が加わるなんて針の穴より小さいのはなんだ、もう毛穴か、毛穴に毛を通すくらいなものだ。毛穴なら毛を生やせよ。


「あー頭が混乱してる、一旦夕方のバイストン先生の時間までは自由行動でいいか?」

「いいよん、ちょうど見学したい授業あったし」


 それからは朝の授業を終えて、俺とクルーサは各々の見学したい授業へ向かった。


 青銅組の授業へ向かおうとしている時、背中を誰かに軽く叩かれた。


「やぁ、昨日から気になってたんだけど、もう一人の坊主の子どうしたの?」


 話しかけてきたのはよく授業見学で同じ場所に居るマシャットさん、大量の髭を生やしているドワーフ族のベテランクズ鉄組。グレイド学園の都市伝説にもなってる方だ。開校以来ずっと鉄組に居るって。もちろん大袈裟な噂なのは知ってる。


「彼は家の都合で学園をやめました、本当に急だったので僕も昨日知ったんです」

「そうだったのか、ごめんね気が遣えなくて」

「いえ、気にしないでください」

「君たちは仲が良かったからとても羨ましかったんだよ」


 厳つい見た目の割には優しい瞳をしているマシャットさん、きっとこの方は戦士に向いてないんだろうと思ってしまう。だからきっと上のクラスに行けないのだろう。


「マシャットさんはずっと一人ですか?」

「僕はね、ドワーフ族の中でも稀に見る程の不器用さなんだ、ろくに鍛治もできないから追い出されるようにこの学園に入学した、上のクラスに行くまで帰ってくるなって」

「……マシャットさん、一緒に上に行きませんか?」

「え?」

「僕達は元々三人パーティーなんです、三人なら一人一人が足りないものを補えばいい、マシャットさんが足りないもの、僕とクルーサが補います」

「いいのかい?」


 ロンディが抜けた矢先に他のメンバーを入れるのはどうかと思った、だからクルーサも俺も三人パーティーを選択肢から消した。だけどこの人を見てたら力になりたいと思った。思ってしまったらもう行動するしかない。

 それに俺もずっとマシャットさんを見てきたけど、この人はたしかに不器用なだけなんだ、それ以外は揃ってる、俺がこの人を上に連れてくんだ。

 クルーサもわかってくれるはず。


 マシャットさんと授業見学を終えた後、バイストン先生との特別授業の時間になった。

 職員室前で先生とクルーサを待とうと思いそこに向かうと、クルーサが先に来ていた。

 昨日ウィルと揉めてた少女エリナと一緒に。

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