第6話 休日の出来事

「はぁ~……」


 神尾拓は憂鬱だった。

 夜の自室で読んでいたライトノベルから目を離し、目頭を揉んでため息を吐く。


「どうしたもんか」


 最近の学校での事を思うとため息がとめどなく溢れてくる。


 神尾拓は一人でいるのが好きだ。

 人付き合いは苦手ではないが、なければないほうがいいと思っているし、何より一人で本を見たり動画を観たりするのが好きだった。


 そして、中学まで、そして高校入学から最近まではそんな生活が出来ていた。

 …………出来ていたのだ。


 だが、最近そんな生活が半ば強制的に終わりを迎えたのだった。


 その原因は……御神本舞華という女子生徒だ。


 ある日を境に何かと神尾拓に構ってくるようになったのだ。

 毎日何らかの理由をつけて会いに来るのだ。

 

「どうしてこうなった……?」


 御神本舞華は美少女だ。それもめったにお目にかかれないレベルの。そんな美少女に毎日話しかけられる……それも他の生徒にするような横暴な態度は控えめに、だ。

 普通の男だったら嬉しいと思うことだろう。


 確かに御神本舞華はとんでもなく美しい。

 それは神尾拓自身も素直に認めるところだ。

 男なら誰もが振り返る美貌、そして普段の性格を知らない者が突然彼女に話しかけられたら、それだけで舞い上がってしまうだろう。


 だが、神尾拓、彼は違う。

 彼は御神本舞華に話しかけられても舞い上がらない。それどころか最近は事務的に対応している。 

 

 なぜなら彼は二次元が好きだからだ。


 物心ついたころからそうだった。

 現実の女の子より漫画やアニメの女の子が好きだった。

 確かにみんなが可愛いと言う娘も普通に可愛いとは思う。

 だがそれが恋愛感情に結びつかないのだ。

 

 男子に人気の可愛い女の子と話した時も嬉しいとかそんな事は思った事がないし、ドキドキする……なんてことは今までの人生で経験したことがない。

 つまり、どういうことかと言うと……彼は現実で恋をしたことがないのだった。


「考えても仕方ない…………か」


 もう一度ため息を吐いて気持ちを切り替えると今日放送するお気に入りのアニメを見る。

 明日は休日。

 今週撮り溜めたアニメを見て、集めている漫画の新刊を買って読むとしようと考えるのだった。



○ ○ ○


「おはようございます、神尾拓」

「何でここにいるの? 御神本さん」


 翌日、本屋に出かけるために家を出たら家に前にリムジンが停まっていて御神本舞華が立っていた。


「勿論、あなたに会うためです。神尾拓」


 腕を組んで仁王立ち、胸を張って答える彼女だが、その顔は若干赤みがかっていたのに彼は気づかない。


「え……なんで? というかいい加減フルネームで呼ぶのやめてくれないかな」


 純粋に彼は疑問を口にして、ついでに要望を口にする。

 目の前の少女は彼もことを事あるごとに『神尾拓』とフルネームで呼ぶのだ。


「で、では……んんっ!」


 御神本舞華は一度咳払いをする。


「か、神尾……さん、とお呼びしても?」


 目を合わせずに問いかける。


「別に神尾でも拓でもいいけどフルネームはやめて欲しいかな」

「ひゃわっ!?」


 彼の言葉に御神本舞華は奇声をあげた。

 その顔は今までで一番赤くなっている。


「………………?」


 神尾拓はそんな彼女を見て不思議そうにしていた。


「た、拓って……それはもう……夫婦といっても過言ではないのでは!?」


 少女は赤くなった顔を両手で隠し、彼に聞こえないぐらいの声でテンパっていた。


「…………いや、過言でしかないのでは?」


 ずっと御神本舞華の後方に控えていた従者の少女が主人の呟きに冷静かつ辛辣なツッコミをいれるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る