【episode3–甘い思い出】
「ありゃりゃ、また靴を脱ぐ場所がない…。」
玄関のタタキは、その日も
私は、彼らの靴を踏まないように避けると、端の方にそっと自分の靴を脱いで部屋に向かう。
同じ高校に通い始めた私たちは、ちょっとした名物姉弟だった。
ダークカラーの眼鏡をかけた私たちは、まるで双子のようだったからだ。
髪型はお揃いのツーブロック。染髪は、お小遣いを出し合って購入したカラー剤を半分に分け、染め合いっこをした。
落ち着いた物腰の弟と、破天荒な姉である私たちのことは、教論の間でもしばしば話題になっていたそうだ。
制服を着替えた私がリビングにおやつを取りに行くと、不意に弟の部屋の扉が開く。
「ねーちゃん、お帰り!!」
そこには、20人あまりの男子高校生が所狭しと
私は、弟と同じクラスの男子学生から『ねーちゃん』と呼ばれていた。
一気に、ひとクラス分の弟ができたというワケだ。
「ただいまぁ。」あまりのむさ苦しさに、眉を下げ苦笑いした私の前に1人の男子くんが進み出る。
「ねーちゃん、これどうぞ。」
普段から好意を示してくれる後輩が、私の手にお菓子を握らせる。
「ありがとう。」
照れた笑顔を見せる彼が、数年後若いパパとなり、お子さんに私と同じ名前をつけていたことを後から知った。
弟が言う。
「あいつ、ずっとねーちゃんのこと好きだったんだよ。」身に覚えのある様々な場面が
なんとも甘酸っぱい思い出である。
私たち姉弟の高校時代は、毎日が賑やかで輝きに満ちていた。
そうして新年度、私は高校を卒業し歯科衛生士科へと歩みを進めたのである。
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