第43話 王妃の思い

 王の城内の奥にある建物、そこにベルグール王国王妃サッチがいる。

 現王妃は死別した第一王妃に代わり、当時の第二王妃が繰り上がる形となって王妃となった。

 そのため、旧第一王妃の子であるエルドレッドは幼少の頃からサッチから嫌がらせを受けていた。

 俺はそういった事も知っているため王妃が嫌いだ。


「久しぶりですね、若き英雄オルクス」

「お久しぶりです王妃」


 王の間ほど広くはないが、そこそこ広い部屋の奥に王妃はいた。

 華美な装飾品や豪華なドレスをその身に纏いいかにもこの国の王妃というような気配を全身から出している。

 それなのに相変わらずこの人からは冷たい感じがした。


「何の連絡もなしにいきなり現れるとは、いかに英雄と言えど許し難きことですよ」

「ええ、存じております」

「エルドレッドの事ですか?」

「……」


 俺のただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、王妃は比較的早くエルドレッドの名を出してきた。

 なんだ、俺がその件について聞きにきたのがわかってるのか?


「貴方がここまで来る理由なんてそれくらいしかないでしょう」

「ああそうだよ、俺はあんたにエルドレッドの事や今回の騒動を起こした理由を教えてもらいに来たんだよ」

「……そう、魔人族の軍勢を止めたのは貴方の仕業だったのね」

「まぁね、一つ聞きたいこの国の軍が動かなかったのはあんたの仕業か?」


 今回のエルナス王国や魔人軍の侵攻に関してベルグール王国の軍は一切動いていない。

 おそらくエンダートの指示だろうけど、とりあえず聞いてみた。


「ええ、私の指示よ」

「そ、そうか」



 おいおい簡単に認めちゃったぞこの人。

 悪びれる様子がないところを見ると、本当にこの人が黒幕なんだな。

 ならこっちもそれ相応に対応するとしおう。


「そんなことの確認のために来たの?」

「……今回あんたのやった事は立派な背信行為だぞわかってるのか?」

「……息子がいるのよ」

「?」


 俺が問い詰めると王妃は突然天井を見てそう言った。


「貴方はまだ10代くらいだからわからないだろうけど、子を持つ親はねどんなになってもその子供を大切にするものなの」

「……」

 

 息子とはおそらくエンダートの事だろう、でもエンダートは一度死んでいる。

 しかも魔人に変えられもう人ではない、それでもこの人にとっては息子だ。


「確かにあの子は人ではないわ、それでもね私にとってはかわいいエンダートなのよ」


 そう言って王妃は椅子から立ち上がった。


「オルクス、私を捕らえなさい、エルドレッドの件もタマキの件も全部私がした事です、裁きは受けます」

「……王妃」


 なるほどな、全部息子のためだったって事か。

 色々言いたいことあるけどこんだけ潔いと言いたい事の一つや二つなんだか飲み込めてしまいそうだな。


「オルクス、エンダートは無事ですか?」

「ええ、一応安全は保証されてますよ」

「そう、それならいいわ、あの子はね大人びているけどまだ子供よ、だからねオルクス」

「はい?」

「大目に見てあげてね」


 そう言って王妃はニコッと笑った。

 おいおいまさかこれだけのことをやっておいて、本当にエンダートはお咎めなしにしろって言ってんのか?

 そんなの無理だろ……でも、まぁできなくはないか。


「あいつの出方次第ですね」

「……そう、貴方は優しいのね」


 そうして俺は王妃の下へ行き拘束した。

 まさかこんな形で幕切れになるとは、千手達に連絡して戦いが終わった事を知らせないとな。


 

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