第19話 資料室
リオンは勤務交代を済ませて、向かったのは資料室だ。
今回、赤のピエロの起こした暴動では火災での建物の焼失で済んだが、今まで彼らが引き起こした事件は女性絡みの事件が多い。
金髪の若い女性を襲い、衣類を剥ぎ、その後に暴行を加える悪質なものだ。
それがここ一か月の間に連続して起きている。
捕まえた赤のピエロ達は何者かに指示を受けてそれに従っただけだと答えている。
それが何の目的があって行われているのかは未だに捜査中で、はっきりとしたことは分かっていない。
リオンは被害女性の特徴をもう一度調べ直した。
みんな、金色の髪を持つ若い女性だが、それ以外の特徴はバラバラだ。
貴族のご令嬢もいれば水商売の女性もいて学生もいる。
年齢にも職業や身分にも共通点はないように思えた。
リオンは嘆息して資料を閉じで棚に戻す。
足を向けたのは十三年前のスチュアート家惨殺事件の記録が収められている棚だ。
捜査は既に打ち切られ、時効も迫っているその事件に今や触れようとする者はリオンぐらいのものだろう。
資料も随分と奥の棚の上に追いやられてしまい、リオンは梯子がなければ届かない。
梯子を上り、資料を手にして足場が安定していることを確認して資料を開く。
王宮警吏となり、この資料室に何度足を運んだか分からない。
何度見返しても代り映えのしない内容に、リオンは何度も目を通して、犯人の痕跡がないか探った。
自分の正体を隠しながら事件を追うのは容易ではなく、警吏となり、王宮へと脚を踏み入れるのにこんなにも時間を費やしてしまった。
ようやく辿り着いたのに、未だに何の手掛かりも掴めないことが歯痒い。
あの日、炎の中で見たピエロは確かに王宮警吏の制服を着ていた。
十年以上も前に現役でも、今は退職してしまっているかもしれない男を探すのは困難を極めていた。
当時、父の同僚と言える人達は隊長クラスや管理職についていて、接触も難しく、下手に話題に出せば怪しまれると思うとそれもやりにくい。
ジェイス様は管理職を怪しんでいるのよね……。
当時の父の同期や同僚の中に犯人がいるのではないかと考えているようだ。
「叔父様も管理職の一人よね」
リオンの叔父でロナウスの弟であるアルバート・コーナードが現在、王宮警羅隊の総括責任者を務めている。部隊として現場を走り回ることはしないが、王宮警羅隊を内部から支える人物である。
若かりし頃は父ロナウスと共に王宮警羅隊の二本柱として活躍していたと聞くととても誇らしい。
一度、どうにかして接触したいが、一隊員でしかないリオンが警羅隊総括責任者と接点を持つのは難しい。
「君、まだいたの?」
「きゃっ」
ふと、梯子の下から声を掛けられた。
リオンはその声に驚き声を上げ、手にしていた資料を落としてしまう。
資料はそのまま、声を掛けてきた人物の手に落ち、床に落ちることはなかった。
「ふーん。スチュアート家の事件ねぇ」
その聞きなれた声にリオンは眉を顰める。
手元に振ってきた資料に視線を落とし彼は言う。
足元を見下ろせばそこにいたのはケリードだ。
何でここにいるのよ。
見た所、手ぶらだ。
何か資料を取りに来たのなら早く済ませて持ち場に戻って欲しい。
「拾ってくれてありがとう」
リオンは上から手を伸ばして資料を手渡すよう求める。しかし、いくら待っても資料は戻ってこない。
「どうしてこんなの見てたの?」
「何だっていいでしょ。ただの興味」
資料を手で弄びながらケリードはリオン問いかける。
リオンが答えるとケリードは意地悪そうな笑みを浮かべてリオンを見上げた。
「こんなの見たって今更何も出てこないよ。時効も迫って来てるし、もう普通なら諦めるけど」
見るだけ無駄だと言うようにケリードは吐き捨てる。
「まだ分からないでしょ。時間はあるんだから」
無駄だと言われるとリオンはついムキになる。
「何で君がそんなにムキになるの?」
「そ、それは……」
リオンの反応を楽しむようなケリードにリオンは言葉を詰まらせる。
ケリードのアイスブルーの瞳がレンズの向こうで色っぽく細められ、リオンはどきりとする。
美しいケリードの瞳を見ると鋭い眼光がリオンの核心を射抜きそうな気がして落ち着かなくなる。
心臓の鼓動が大きくなり、リオンから平常心を奪っていく。
だから彼は苦手なのだ。
「君に聞きたいことがあったんだ」
「……聞きたいこと?」
唐突なケリードの発言をリオンは訝しむ。
「探し物をしてるんだ。それはとある金髪の女性が持ってる。年は今年で十九」
「悪いけど、心当たりがないわ」
何を探しているのか知らないが、金髪の女性に心当たりはない。
しかし、そこで違和感を覚えた。
十九歳……若い金髪の女性……。
赤のピエロ達が好んで襲う被害者の特徴を一致する。
何だか嫌な予感がした。
「君って綺麗な銀色の髪をしてるよね」
「……何? いきなり……」
話が急に変わるものだからリオンは戸惑う。
「君のその髪、元は金色だったんじゃないの?」
口元に弧を描きケリードは言う。
その意味深な笑みに、リオンは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
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