第15話 出動要請
『中央警吏署から応援要請、中央西、ルビ地区にて赤のピエロの暴動、並びに赤と金の抗争を確認』
深夜十二時、緊急要請の無線が鳴り、王宮警羅隊第二部隊、第三部隊は現場に駆け付けた。
「ご協力感謝します」
駆けつけた王宮警吏に敬礼する中央警吏の表情は緊張で強張っている。
「状況は?」
王宮警吏を率いるのは第二部隊長ベネギル・グレンジャーと第三部隊長のスペンサー・ハンソンだ。
「赤の集団によって中央の三個部隊が半壊、一部で火災が発生し、消防に要請、消火作業の妨害を受けています。そこに金のピエロ達が現れて赤のピエロ達が抗争を始めました。避難しきれていない住民がパニックになっており……」
報告を受けてベネギルとスペンサーは頷く。
「スペンサー、私は消火活動の応援に行く」
「あぁ、抗争の方は任せておけ」
二人が二手に分かれて現場の収束に当たることを決めた。
「リオン」
「分かってる」
集まった部隊が取り囲まれていることに気付いた。
建物の屋根から地上に集まるリオン達を見下ろす集団の姿がある。
赤の仮面をつけた者達だ。
一人ひとりが刃物などの武器を所持している。
「来たな、ピエロども」
オズマーが呟く。
するとピエロの一人が隊長二人に向かって飛び掛かかろうとするのが見えた。
「隊長!」
リオンは叫ぶが二人の隊長は特別焦った様子もない。
大きく身を振りかぶって鉄の棒を振り上げるピエロだが、ベネギルを目と鼻の先まで迫った所で動きが止まる。
ベネギルとピエロの間に青い色の紋様が浮かび上がった。
空中で動きが止まったピエロは動揺して身体をばたつかせるが、まるで空中に縫い留められたかのように動けなくなっている。
「元気が良いのは結構だが、血の気が多すぎるようだ。頭を冷やしなさい」
ベネギルが言うと青い紋様が淡く光、その中心から姿を現したのは白い大蛇だ。
「うわぁぁ!」
ばっくりと口を大きく開き、男を頭から飲み込んでしまう。
ごっくんと大蛇がピエロを丸飲みにして身体の奥に落ちていくのがはっきり分かった。
「これ、初めて見ると奴には刺激が強いよな……」
大蛇が人間を丸飲みにする絵は正直なところ、常識離れしていて、引く。
オズマーが漏らした言葉にリオンは小さく頷く。
見るのは初めてでないリオンですら、唖然としてしまう迫力がある。
「初めて見たら腰を抜かすわよね」
現に、側にいた中央警吏達が腰を抜かしている。
そしてその大蛇がリオンに気付き、身体をうねらせて近づいてきた。
「お利巧だったわね、レイニー」
大蛇はリオンの身体にすり寄り、リオンはその大きな頭を撫でる。
この前は普通の蛇と同じ大きさだったレイニーだが、今はベネギルの魔力により身体を大きくしている。
「でも、そんな汚いの、いつまでもお腹に入れてたら毒よ。出した方が良いわ」
リオンが言うとレイニーは一度飲み込んだ人間をぺっと吐き出した。
唾液塗れになったピエロはぐったりとしていて意識を失っている。
レイニーの唾液には興奮を沈静化する作用があるらしく、ベネギルは興奮して暴れるものがいれば、レイニーに飲み込ませて、興奮を覚ましてから逮捕捕縛を行う。
リオンとオズマーは見慣れているのが、初めてこの光景を見る中央警吏や他のピエロ達は腰が引けている。
「これ、レイニー。お前はこっちだぞ」
レイニーは主のベネギルに言われてしぶしぶリオンから離れる。
「おい、女の警吏がいるぞ」
「捕まえて人質にでもするか」
その声をリオンは聞き逃さない。
リオンに向かって飛び掛かろうとする複数人のピエロを睨みつけて警棒を振り上げた。
リオンの魔力が通った警棒は波動銃と同じ効果を持ち、触れた者の動きを鈍らせる。
「ぐわっ!」
「うっ……」
呻き声を上げて地面に沈むピエロ達の仮面を片っ端から蹴り飛ばし、顔面を晒していくリオンに中央警吏はドン引きだ。
素顔を晒すまいと必死に顔を隠そうとするが、もう遅い。
リオンは男が手を伸ばす仮面を踏み砕き、リオンは男を睨みつける。
「女の警吏を捕まえて、どうするって?」
顔を手で隠したところでどうにもならない。
男達はすぐに中央警吏に取り押さえられた。
「リオン・シフォンバーク、オズマー・テルード、君達はこの場にいるピエロの鎮静作業に当たりなさい。他の隊員はグレンジャー隊長について消火活動を妨害する者達を捕縛、消火活動の援護を行う。中央の君達がシフォンバークとテルードのサポートを」
「了解、隊長」
スペンサーの指示に部隊は動き出す。
「オズマー、私があいつら気絶させるから、君の言現術で受け止めて」
「任せろ」
リオンは屋根の上からこちらの様子を伺う赤の仮面集団を見上げる。
「市民の生活を脅かし、不安を煽る犯罪者に鉄槌を」
私はあんた達を許さない。
リオンは警棒を握りしめ、赤のピエロ達に突き付けた。
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