第22話 レスディアルからの転移者ロシュヴァルド・フォン・アーデルハイド

Side 二人目の異世界転移者

Side 二人目の異世界転移者



「へえ・・・僕以外の転移者か。向こうから来てくれるなんてね」



ふと、今まで感じた事のない気配を感じて窓の外を見てみたら、この辺りでは見慣れない人間が真っ直ぐこちらに向かって来るのが見えた。もちろん遠いのでスキルを使って見ている。


1人はここケレスの街の子供だろう。服装がこの辺りに住まう民と似た感じだ。それに纏うオーラが、こう言っては何だが凡庸だ。


けれど、2人はおそらく僕と同じ異世界からの転移者だ。あの忌々しい管理神とやらが寄越した服と同じような服を着ているし、感じるオーラが、この世界の住民とは全く違う。


一人は赤い髪に緑の瞳。

背も高いし、体も引き締まっている。歩く時の体重移動を見ても体幹がしっかりしている。おそらく戦いでは直接戦闘を行う前衛を担っていただろう。属性は火、あたりだろうと推測する。

もう一人は・・・


「・・・黒髪に黒い、瞳」


一目で惹かれた。


僕の世界のある国では忌避されているけど、僕にはこの上なく美しく見える髪の色と瞳の色、そして何よりその顔に思わず吸い寄せられる。


「綺麗だな・・・」


僕の恋愛対象は男だ。

もう一人の赤い髪の男も整った顔はしているが、僕の好みとは違う。



黒髪の彼は、体は華奢で、纏うオーラと反比例して体幹はそこまでしっかりしていない。直接戦闘はした事がないように見える。後衛か、もしかしたら一度も戦いを経験した事がないかもしれない。属性は読めなかった。


まあ、他の異世界から連れて来られた人間だ。僕の魔術では分からない事もあるだろう。


「この世界に連れて来られて3ヶ月。出る事も出来ず困ってたんだ。彼等の訪問が何か打開策に繋がるといいな」


「それに」


もう一度、黒髪の青年を見つめる。


こんな異世界に勝手に連れて来られて辟易していたけど、彼に出会えたのならここに来たのも、悪くはなかったかもね。


僕はそう思って、口元を緩めた。




☆☆☆





かなり歩いて、やっと高台の城みたいな神殿の門の所にたどり着いた。


「悪かったな。こんな遠い所まで付き合わせて」


アインにそう言うと、アインはぶんぶんと首を振って笑った。


「いいんですよ!勇者様達とたくさん話せて、色々聞けて、しかも店番やらなくて済んで、オレにとってはいい事しかないです!」


「そうか・・・」


ま、いいか。


俺はヒューゴと顔を見合わせて頷くと、神殿の大きな門をくぐって、入口の扉に手を掛けようとした。すると、その瞬間に向こうから扉が開いて、中にいた神官の格好をした若い男が、俺達を見て頭を下げた。


「ようこそおいで下さいました。至高神エオルの御遣いであられる勇者様。どうぞ中にお入り下さいませ」


「あ、もう分かってるんだ。じゃあ遠慮なく入らせて貰うな」


ヒューゴが言って、中に足を進める。そうしながらアインを振り向いて「ありがとな!」と手を振った。


「いえっ、こちらこそ!めっちゃ楽しかったです!機会があったらオレの宿屋に遊びに来て下さいー!飯だけは美味いって評判なんです、赤い馬亭って名前なんで!それじゃ!」


アインはそう言うと俺にも手を振って、後ろを向いて駆け出して行った。


俺達が中に入ると、若い神官は「この神殿にご滞在の勇者様がお待ちになっておられますので、会談室へご案内いたします。どうぞこちらに」と先に立って歩き出した。


転移者が俺達の事を待ってるって?もう気付いたんだろうか。


石造りの、天井の高い廊下を歩いて行く。コツコツと靴音が空間に響いて、明り取りの切り出された窓から差し込む光が、廊下を幻想的に照らして非日常を強く感じた。


「こちらでお待ちでございます。私はここで失礼させて頂きます」


若い神官が頭を下げて、一つの重厚そうな濃いウォールナットの扉の前で止まった。


ヒューゴが「ありがとな」と神官を見送って、扉を拳で数回叩いて声を掛ける。


「おーい。入っていいか?」


ややあって、「どうぞ」と声がした。扉越しなのでくぐもって聴こえるが、若そうな男の声だ。ヒューゴよりも高い声。


「邪魔するぜっ・・・と」


ヒューゴが扉を開ける。

と、真っ直ぐにこっちを見ている男と目が合った。思わず息をのむ。


まず目が行ったのはその神秘的な色の髪だ。

南極の氷のように角度によってプラチナシルバーに見えたり、アイスブルーに見える、不思議な色合いの髪の毛は長く腰辺りまであり、それを左側で一つに纏めて結んでいる。


その顔は美の極致とでもいうのか、あり得ない程整っていて、琥珀色の目は髪の色と相まって神秘的だった。

同じ美形でも、ヒューゴはどちらかというと、野性味あるというか、男っぽい感じの顔をしているが、目の前の男は綺麗、という言葉がぴったりの風貌だった。


身長はヒューゴより少し低いが、俺よりは高く、細身だけど引き締まった体躯に見える。


職業柄、周りには色んなタイプのイケメンがいたが、今までこんな男は見た事がなくて、俺は圧倒されていた。もう、男とか女とかいう枠を超えているとしか言えない。


時間にして数秒だろうけど、俺達は黙ったままお互いを見つめ合っていたが、目の前の男がようやく口を開いた。


「初めまして。他の世界からの転移者達。僕は異世界レスディアルからの転移者、ロシュヴァルド=フォン=アーデルハイドだ。よろしく頼むよ」


そう言って微笑むロシュヴァルドの姿は、妖艶という言葉を体現しているかのようだった。



「うわ~・・・見た事ない位キレーな顔してるな、あんた。あ、俺、ヒューゴってんだ。ヒューゴ=ヴェルスター。エクシリアから来た。よろしくな」


俺が衝撃を受けている間に、我に返ったらしいヒューゴは手を差し出した。


「ああ、よろしく」


そう言ってにこやかに出された手を握るロシュヴァルドに、ヒューゴは、うーんと首を捻りながら


「ロシュヴァルドって言いにくいな。ロシュって呼んでいいか?」と言った。


ロシュヴァルドは、小さくため息を付くと肩をすくめた。


「・・・僕の世界じゃ、本当に親しい間柄でしか略称では呼ばないんだけど。まあいいか。異世界人には言いにくいだろうしね」


あまり嬉しくなさそうではあったが、俺もロシュヴァルドとは言いにくい。便乗させて貰う事にした。


「俺はサクラバ=ユキトだけど、ユキトでいいよ。日本から来た。俺もロシュって呼んでいいかな?色々話を聞かせて貰えると嬉しい」


そう言って手を差し出すと、ロシュは俺の顔をじっと見つめたあと、ニコッと花が咲いたような笑みを浮かべて俺の手を取り、自然な仕種で手の甲にキスを落とした。


「もちろん、いいよ。君にならロシュと呼ばれるのも歓迎だ。僕も君の事を色々知りたいなユキト」

「え?あ、ああ」


馴染みのない所作に面食らって、俺が呆けたようにロシュの顔を見ていたら、そのまま手を引かれてソファに座るよう促され、俺とヒューゴは並んで腰を下ろした。


ロシュが俺達の向かいに座ると、ヒューゴがすぐに口を開いた。


「俺たちがここに来たのは、あんたに協力して欲しいからだ。俺ら二人で魔王と戦ったんだが、どんなにダメージを与えても即座に回復されちまって、決定打に欠けるって話になってな。転移者全員で協力して倒さねえと無理だろって思ったんだ。あんた―――ロシュも、魔王を倒さないと自由にしねえ、ってあいつに言われたろ?」


黙って聞いていたロシュは、軽く頷く。


「ああ、そうだ、忌々しい事にね。僕も魔王と戦ってみたけど、確かにあれは人の理を越えた存在だ。僕一人じゃどうにもならなかったし、もうこの世界に3ヶ月も閉じ込められててうんざりしていた所だったから、協力してもいいよ。君たちはどんな強力なスキルを貰ったの?」


ロシュの言葉に、俺は心臓がどきん、と跳ねた。いよいよアレを言わなければいけないのか。急にロシュとこれからしなければいけない事を思い出してしまって、俺はドキドキと鳴り始めた心臓を手で押さえた。


俺の様子を見たヒューゴが気遣ってくれたのか、


「それなら俺達の事、『鑑定』して見てくれ。喋るより早いしな」


そう言って、どうぞ、とでもいうように両手を広げた。


「うん、それもそうだな。じゃあ失礼するよ」


ロシュがスキルを発動して、まずヒューゴを見る。


「ふぅん・・・やっぱり炎属性の魔術スキルか。・・・マジックブラスター?僕の知らないスキルだな。ブラスターって何だ?・・・あとは僕とほぼ同じか・・・うん、分かったよ、ありがとう」


ロシュはぶつぶつと独り言を呟きながら鑑定結果を確かめている。


「ちなみに俺のスキルじゃ、魔王にはかすり傷くらいしかダメージ喰らわせてやれなかったからな」


ヒューゴがソファの背もたれに体重を預けながら言うと、ロシュは「・・・そうか、やっぱりね」と言った。


「じゃあ次はユキト、君のスキルを見せて貰うね」

「分かった・・・」


はあ、いよいよか。俺は、じっと俺を見つめるロシュの琥珀色の目から、何となく目を逸らした。


「ん・・・?ヒューゴのと同じスキル?炎属性があるようには思えなかったけど・・・他は殆ど僕と同じだけど、スキル名の後に何か数字が付いている物が多いな・・・これは何だ?『スキルコピー』という見慣れないスキルがあるな」


うわ、来た。と俺はますます身体を固くしてしまう。


「え・・・何、このスキル?」


出会った当初からずっと涼し気だったロシュの顔が、初めて唖然とした。


「な、中に出して?え?いやちょっと待って、という事はこのヒューゴと同じスキルはそういう事、なの・・・?」


呆然と俺の目を見つめて来るロシュに、俺は顔が真っ赤になるのを感じながら、


「・・・そういう事、だ」


と答えるしかなかった。



*******

2021/11/16加筆修正しました。最初のバージョンとはロシュの態度の変更、ユキトへの好意を表す描写が加筆修正されてます。この後からもっと違う筋になりますが三章へはスムーズに繋げられるようにする予定です。

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