第14話 ユキトの独白②

ユキトは、少し目を伏せると呟くように話し始めた。


「俺は、あっちの世界でクズみたいな生き方をしてたんだ。ヒューゴが命を掛けて戦ったり真剣に生きてる時に、俺はどうでもいい事ばかりしていた。酒飲んで酔って自分を誤魔化して、何人もの女を道具のように扱って酷い事を平気でしたり…男とトラブって喧嘩して、あげくに、寝取った女の男に刺されて、ゴミみたいに死んだんだ」


「……ユキトが?そんな事を?ホントに?」


俺はあまりの驚きで、それしか言えなかった。


この、線の細い、女みたいに綺麗な顔して、俺に縋って泣いてたあのユキトが?まさか、信じられない。


「ほんとなんだよ。俺はほんとにそんな生きる価値の無いクソ野郎だったんだ。生きてるのが苦しくて、心のどこかで、早く死なねぇかなっていつも思ってた。だから、あの時ナイフで刺されて死んだ時、これでやっと楽になれる、解放される、ってホッとした位だったんだ」


一度話し出したからかユキトの声には迷いが無くなり、どんどん言葉が出てくる。

だがその内容は、俺にはあまりにも驚く事ばかりで、何も言えない。


「それなのにあいつに拉致られて、魔王を倒すまで死なせないって言われて、その時は気付かなかったけど、俺は絶望したんだ」


ユキトはそう言って、はぁ、とため息を付いた。


「それで魔王に傷を負わされた時、心の底で絶望が深まったんだ。もちろん痛かったし、そのショックもあったけど、それよりも、それでも死なないって所にたぶん、深く絶望したんだと思う。それで不安定になって…昔の傷まで出て来た」


俺は聞きながら、胸が苦しくなっていた。あんなに平和な世界だって言ってたニホンで、ユキトだって平和な世界で生きて来た人間そのもので、幸せに生きてたに違いないって思ってたのに。


「ユキト…お前、そんな…」


言葉が詰まって、それ以上出て来ない。


ユキトは俺の顔を見てちょっと笑ったあと、また話し出した。


「俺、子供の頃、義理の母親に虐待されてたんだ。ヒューゴの世界にもそういう事あるのかな?血の繋がらない子供…いや、血が繋がってても、子供を自分の感情で殴ったり蹴ったり、わざと飯やらなかったり、ストレスのはけ口の道具に使うってやつ」


俺は絶句した。それでも何とか言葉を絞り出す。


「俺の…世界には、そういうのは無い…親がいない子供も、施設で大事に育てられる。飢えさせたり、意味なく折檻したりって事は絶対に無い」


「はは、そうか。そしたら戦争してて大変かもしれないけど、少なくとも虐待されてる子供からしたら、ヒューゴの世界の方が幸せかもな」


乾いた笑い声を立てるユキトに、いや、そんな事はない。平和な方が絶対にいい、とは俺は言えなかった。


「まあそんな感じでさ、俺は義理の母親っていう肩書の女に、ストレスのはけ口として10年近く虐待されててさ。最後の方じゃ、性欲の発散相手にまでされてさ。発作的に家を飛び出した後は、さっき言ったようにクズみたいな生活して、ほんと早く死なねぇかなって願ってた」


「ユキト…俺、何て言ったらいいか全然分からねえ…お前の事、平和な世界で幸せに生きて来たとばかり思ってたから…」


「気にするなよ。ヒューゴには、もう充分助けて貰ったし、俺、すごく感謝してるから。ヒューゴがいなかったら俺とっくに狂ってた。死にたいのに死ねないってほんと最悪だよな」


項垂れる俺に、ユキトは明るく笑って言った。

その言葉は本当にそう思っている、と感じられるものだった。


「あとさ。魔王にやられた後、お前がゆっくりやっていけばいい、って言った時、俺勝手に焦って怒鳴ったよな。あれ、ほんとごめん。さっき言ったみたいに日本に未練なんか全然無いけど、ただ、あいつに縛られて自分の意志で生死も決められないって所がすごく嫌だったんだ。でも」


ユキトは俺の目を真っ直ぐ見て言う。


「ヒューゴが前の世界に未練が無い、ここが気に入ってるって言うなら、俺は魔王を倒す事をもう焦らない。ヒューゴの言う通りゆっくりでいいって思ってるよ」


「ユキト」


俺は胸が暖かくなるのを感じながら、ユキトの肩を両手で掴んだ。


「やっぱ、なるべく早く魔王倒そうぜ」


「え?」

きょとんとするユキト。


「あーあのな。さっき考えてたんだけど、俺、このスキルがあればエクシリアの戦争終わらせられるな、って事あるごとに考えちまってて。やっぱりどんな地獄でも生まれ育った場所って、俺にとって特別みたいでさ。だから出来れば早く魔王倒してエクシリアの事もどうにかしたいなって」


そう言って付け加える。


「それにユキトが言うように、俺もあいつに自分の自由を制限されたままってのは、嫌だからな」


「ヒューゴ…」


「まあ、その為にはやっぱ、他の転移者と協力するしかないかもなー。けど、あんだけ俺のスキルが全然通用しなかったって事は、他の転移者のスキルでも同じような感じなんじゃねえかとは思うけど。どうするかなー」


俺はそう言うと、砂浜に寝っ転がった。


今まで他の転移者に会いに行かなかったのは、管理神のやつに協力して倒してもいい、なんて話は聞いて無かったのと、自分のスキルであれだけノーダメージだったのに、他の転移者のスキルでどうにかなると思えなかった事もある。


あと、単純に特に急いでなかったからな。


でもユキトの話を聞いたら、何よりも自由を欲しているユキトを、早く解放してやりたい。けどなあ、これと言って魔王を倒す為の策がなあ。

と考えていたら、ユキトがなぜか頬を上気させて、目を伏せながら口を開いた。


「…俺、前に攻撃スキルは無いけど、攻撃に使えるようなスキルはあるって言ったよな?」


「ああ、そうだったな」

頷く俺。


「…ヒューゴ、俺の事『鑑定』して『スキルコピー』ってスキルを詳しく調べてみてくれ」


「?ああ」


なんで口で言わないんだ?と不思議に思いながらも、それがユキトの言う、攻撃に使える攻撃スキルじゃないスキル、なんだろうと思い当って『鑑定』を発動する。


ああ、あるな。何だこれ?俺には無いスキルだ。えーっと、詳しく見てみると…


…ん?んーーーー???

―――――な、何だこれ!?


ちょ、ちょっと、待て。


いや、確かにスキルの効果は凄い。どんなスキルでもコピー出来る上に、コピーしたスキルは自由自在に使えるようになる。それなら、俺のスキルや、他の転移者のスキルを全部コピーすれば、魔王の事もどうにか出来る可能性が出て来る。


だけど、問題はその使用方法だ。どうやってコピーするのかと言ったら…コピーしたいスキルを持つ相手とセックスして、精液を中に出して貰う事って書いてある…


生で、中に出す、って。


―――――え?嘘だろ?ちょっと待てよ。


という事はだ、俺のスキルをユキトにコピーして貰う為には、俺が、ユキトとセックスして、中に出さなきゃいけないってか!??


「―――――な、ななななな、なんだこのスキル!!??」


俺が動揺して叫ぶと、ユキトは真っ赤な顔で俯いて「だから言うのが嫌だったんだ…」と呟いた。

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