みけ猫みけ太は異世界のお師匠である

もちる

第1話 みけ猫みけ太とチハル


『神様、みけ太が生まれ変わったら好きな事が沢山出来ますように』



「お主の飼い主は、優しいのだな」

「みゃー」

「ああ、すまないな。力及ばずお主の飼い主しか魂の救済が出来なんだ」

「フゥーーッ!!」


猫は、毛が逆立ち尻尾は限界まで広がる。


「そう怒るでないよ。お主はこちらの世界の先輩だ、よくよく飼い主を助けてやってくれ」

「にゃー、ふにゃー」

「ふむ......お主の魔力量なら問題なかろう」





―――





  其処は暗かった。真っ暗だった。

  ごそごそと体を動かし這い出ると眩しい明り。


  「みぃー、みぃー」

  「ねぇママ見て、可愛いー!」


  頭上から降ってくる幼い声。

  それが僕の主人、チハルとの出会いだった。



  どのくらいの間チハルと過ごしたのだろう。

  僕はいつのまにか、目覚めない眠りについた。 




春の息吹が芽吹く頃、みけ太は虹の橋を渡っていった。


『神様、みけ太が生まれ変わったら好きな事がたくさん出来ますように』


そんな願いを込めた日から季節が廻る。

みけ太が居なくなってから私の日々は灰色だった。




ある夜、熱くて、息苦しかった。




「みけ太、たすけ......て」




霞んでいく視界。

最後に映ったのは、真っ赤な部屋と大好きな家族と一緒に撮った写真だった。




その日放火魔の犯行により、猪野いの家は火事で全焼。

全員救助されるも、その生涯を潰える。




猪野 千晴いの ちはる


『......ん』


『チハル、目覚めなさい』


『......んぅ......? ......っ! お父さん、お母さん!?』


そこは真白な場所だった。


熱くも、息苦しくもない。


花畑なのに白い花に白い茎や葉。

目の前に立っているのは真っ白な人。


『チハル、貴方は世界から旅立ちました』


『旅立つ? お父さんやお母さんは?』


『ごめんなさい、救えたのは貴方の魂のみでした』


『魂......?』


『チハルのご両親は別の天界へ参られました』



私はゾッとした。

大切なものを失った時の感覚。

大切なものから置いていかれる焦り。



『なんで、私もそっちに行く!』


『ご両親は、チハルを愛していると言っておられました』


『やだ!いやだ、私もお父さんとお母さんと一緒がいい!』


『泣かないでチハル。ご両親は貴方に生きて欲しいと願っています』


『お父さんもお母さんも居ない世界なんて嫌だ! みけ太の居ない世界なんてもっと嫌だ!』


みけ太。私の家族だった猫。

ずっと前に虹の橋を渡っていった唯一の親友。


『チハル。その、みけ太は貴方を案じていますよ』


『え......?』


『みけ太は別の世界で、チハルを案じています』


『みけ太生きてるの?!』


真っ白な人は頷いた。


『みけ太は別の世界で獣人となって暮らしています』


『じゅーじん?』


『獣人とは、人型の獣です』


『ひとがた......』


私は漫画やアニメ、ゲームといったものには疎い。

みけ太が虹の橋を渡って何もかもが面白くなくなった。


唯一好んでいたものは、みけ太と一緒に読んでいた子供向けの冒険譚の思い出だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る