第1104話 従家の秘密……っぽいもの
内蓋用の石は取り出せないが、一番上の蓋は開けた後に髪留めをもう一度回しても蓋は開きっぱなしにできることが解った。
なので、髪留めを抜いてからふたつの石も外して、そのひとつをもうひとつの穴に嵌め込むと二重底になっていたようで底部分がスライドしていく。
中にあったのは、サリエーチェさんの家系魔法証明といくつかの魔石ではない宝石の欠片、そして……手紙が一通とはがき大くらいの冊子。
他にも本やノートのような冊子はいくつかあったが、どうしてこれだけが大切にしまわれていたのだろう。
何が書かれているのかなー?
んんん?
これって『対応表』?
タルフ語の皇国語訳か……あ、いや、マイウリア語もあるのか?
違う、これ……古代文字を元にした暗号表だ!
あああーーーっ!
この文字、あの訳わからなかった『組み合わせ文字』じゃんか!
だけど、ガイエスの名前に使われていたものは……ないな。
ってことは、マイウリアではなくてタルフとか東の小大陸、オルフェルエル諸島で使われていたやつの方かな。
あれれ、だけどそうとも言えないか?
あーーー、これ『誤訳』を元にしているから、メチャクチャなんだ!
えっと、間違っていた頃の神典と神話は……あ、これこれ。
大元が間違っていたら、対応表なんて役に立たな……そうっ、そうだよ!
基準となっている言葉が誤訳の方だから、今の正しい訳だと意味が違うんだ!
そりゃ正しい訳を元にしたら、解んねーの当然だよなっ!
くそー、自動翻訳さんの正確さにこんなトラップがあるとは……!
てか、思いつけ、俺。
その後、一緒に送られてきた冊子も見ると、所々『暗号』が記されていた。
そして……『従家に口伝で伝えられていた突拍子もないこと』の一部が、書き留められている。
この冊子はおそらく昔、下位貴族達が通っていたという『下位貴族学院』とやらで教えられた時のノートだろう。
へぇ、下位貴族同士の通信文には、暗号を用いることが多かったってことか……
それは読まれてしまっても『正しい意味が伝わらない』書き方で、所々に混ぜられている『文字ではない記号』がどの暗号を使っているかを示しているってことか。
ふぅ……なんか今日、ずっと叫んでいる気がする……心の中でだが。
従者家門、ある意味でお宝の宝庫かもしれない。
犯罪に関わっていなくても、知らず知らずにその証拠やヒントを所持していそうだ。
学院で教えられていたことが、犯罪準備になってたってことだろうからな。
そして、その下位貴族学院と臣民奨学院が一緒になったことで……もしかしたら、臣民の中にもこういった情報が流れたかもしれない。
まぁ……変にプライドが高い元下位の人達が『ただの臣民』と馬鹿にしていた彼らに教えるはずはないだろうけど。
ははははは……こりゃ、貴族家門は大変なことになりそうだなぁ……
従者家門との間に溝ができないといいんだけど……元々従家にいい感情を持っていない貴族家門とか傍流家門だったら……
いや、貴族達のことはまだ信じられるけど、傍流家門だといろいろ思うところもありそうだしなぁ。
これは一応、正しい解読文を作っておくことにして、解読の方法は共有したほうが良さそう。
ノートや暗号解読手帳の原本は、ヒメリアさんに確認してからだな。
さてさて、こっちの随分と綺麗な封筒の手紙は……
『ドミナティア・セルジェム様へ』
んんんんーーーー?
えーっと、ファンレターとか?
いいのかなー、これ見ちゃっても。
……失礼しまーす。
……
こいつぁ、ラブレター……でしょうか?
それともポエムかな?
うん、ラブレターにしてはあまりに夢見がちだし、どれだけ憧れているかは書いているけど、自分の名前も書いてない。
しかもなんだかドミナティアの魔法に煌めきを感じたとか、一緒に飲んだ紅茶が忘れられないとか……どう見ても妄想だよ。
だって間違いなくドミナティア家門の方なら、まず全く違う領地の従家なんて接触はできない。
あー……でも、貴系学舎からの出入りの時だったりしたら、隙をついて近づけるのか?
それにしたって、貴族が他家門従者の異性とふたりきりで紅茶を飲むなんてことはあり得ないよね。
その辺の距離感はよく解らないんだけど、昔は一時期従者家門が近しい時代もあったっていうからなぁ。
セルジェム様って、いつ頃いらした方なんだろうなぁ。
今度ライリクスさんに貰ったドミナティアの本を訳したものを渡すから、その時にセルジェム様のことも聞いてみよう。
それにしても、エイシェルスの人達って行動力があるんだなー。
ケイレスって人にしたって、ヒメリアさんのお母さんにしたって、ヒメリアさんにしたって……ホント、凄いと思うよ。
それが『運命を切り開いていく』ことにもなっている。
まぁ……全部が上手くいくとは限らないけど、それは自分から何も動かなくったって同じだ。
彼らの生き方は結果がどうであれ、格好いい、と言っていいんじゃないかな。
一段落したかな、と遊文館地下から自室に戻ると、ガイエスからいろいろと送られてきていた。
頼んでいたハーブティーと……これは、レリエ村の神泉粉。
おおお、湯の花だ!
ガイエスのメモには『熱い湯で溶くのもいいが、その場合は飲むんじゃなくて浸かる方がいい。水で溶いたら飲むこともできる』と書かれていた。
俺が知っている湯の花とは、違うタイプのもののようだ。
それとこの保存袋は……あああっ!
茹でたものを塩水につけてあるぞっ!
鶉の玉子って殻が薄いから持ってこられないって、ファイラスさんが残念がっていたんだよな。
鶉の肉もファイラスさんが買ってきてくれた時以来、食べてないしねー。
買ってもらうのもいいんだけど……鶉肉料理、俺にはレパートリーないからなぁ……ローストしてワイン煮にするくらいしか思いつかない。
あ、だけどベリーのソースだと美味しいよね。
日本でレシピ本って、出てるのかなぁ?
こっちは……レリエ村で売られている香草茶と神泉に入れる香草?
へぇ、お湯にいれるタイプのハーブか。
松の実が入ってるぞっ!
うわうわうわ、これは松の実単体で売ってないかな?
いや、実の方はまだ季節じゃないから、売られ始めたら買って欲しいっていう依頼の手紙だけ送っておこう……ん?
『朴樹の若木があったから転送板で送っておいた』
おーーーっ!
これは嬉しいぞ!
シュリィイーレ南の森でも見つけたけど、紫朴樹の候補は多い方がいいよね!
早速植えて、育てなくっちゃ!
遊文館の屋上、まだ植えられるよな?
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