第918話 錆山裏の祠

 まぁ、セーブしないといけないんですけどね、魔法の乱用を。

 だけど、どーせならガツッと全部終わらせてから、底を打ったあとに回復させた方が覚悟が決まるのではと思った訳ですよ。


 乱暴だなー、こーいうやり方。

 でもねー、のびのび魔法を使いきってからの方が、体力作りも頑張れると思うっ!


 ということで、今晩は錆山の裏側に吸収されていた魔効素のポイントを確認に行きます!

 その後で、亜麻と朴樹の所だね。

 これが終わったら、衛兵さん達との洞窟発掘まで温和しくしていますっ!


 少し寒くなっては来たが、星の瞬きも美しい晴れ上がったナイトフライト。

 えーと、錆山は全部で六箇所、西側は一箇所、町側の山頂付近と中腹、裏側は確か三箇所ほど……


 西側は、あの紅花の祠だな。

 表側の山頂付近は管理している場所かもしれないし、中腹は……うーん……やっぱりこの辺は爆発があって境域設定されている所だな。


 これって、どっちも入り込んだらソッコーで衛兵隊員がとんできそう。

 残念だが表側は危険だから、今回はスルーしておこう。

 もしかしたら、あの『移動用方陣ステーション』からなら、行かれたりするかもしれないし。


 裏側に回り込み、まず一番下の転移マーキングした所へ。

 ……ま、当然ですが表面を見ていたって、なんも解りゃしませんな。


 俺はお弁当にと持ってきたホットドッグにかぶりつき、一帯をサーチしていく。

 あったけど、結構深いなー。

 やっぱり方陣移動システムなんだろうなー。

 でも、どっから入っていいか解らないので、今回は正規ルートではございませんが上から失礼致しまーす。


 土と岩を慎重に脇にどけつつ、辺りの木々をなるべく傷つけないように掘り進めていく。

 背の高い針葉樹が疎らで、どちらかというと低木が多い所で助かった。

 土……結構柔らかい?

 それとも、俺の魔法の段位が上がって操作性が上がったか?


 掘り進めていくと『平たい一枚岩』に突き当たって、その向こう側がどうやら目的地だ。

 中が空洞であることを確認できたので、岩に『鏡文字』を【文字魔法】で平たい一枚岩の裏側に『染み込ませる』。

 黄色い色墨で染み込んだその文字は、この岩の裏側で『転移目標』として記される。


 向こう側が、確実に空洞であると解っているからできる方式だ。

 転移して中へと入り込むと……おっと、暗視モードよりは、明るくしちゃった方がいいかな。


 俺が『採光の方陣』を起動すると、あの紅花の祠と同じような祠を発見。

 だけど、水は流れておらず、何処とも何も通じていないみたいだ。


 祠に書かれている神約文字は『しるしまもり』……?

 この表記の場所への方陣は、あの方陣ステーションにはなかったなー。


 祠の中には……おやおや?

 石板じゃなくて、石造りの箱?

 箱の蓋部分と思われる所に、神約文字で『しるし』『眠り』という単語が並ぶ。


 特に方陣などは書かれていないのだが、箱の石にはしっかりと魔力が満ちていて、まるで金庫のような……あ、そーかっ!

 これ、保管庫になっているんだ!

 いったい中には、何を入れているのか……ゆっくりと箱の上部、蓋になっている石をずらす。


 入っていたのは、十粒ほどの『植物の種』。

 そうか、この種を休眠状態にしてずっと保管していたってことか!

 それにしても、まるで今年に取れたかのような状態の種だ。

 凄いなー、干涸らびてもいないし破損もないし、勿論、腐ってもいない。


 うわ、全部同じものっぽいけど、なんの種なんだろうっ!

 シュリィイーレで育つかな?

 全部は怖いから、二、三粒だけいただいて試してみよう。


 この神約文字自体が、魔法ってことなんだろうけど……昔々は『陣形すら必要のない文字だけの魔法』が?

 それって……俺の【文字魔法】と同じもの?


 石箱の蓋を閉めて魔力を注ぐと、ふわりと青く輝く神約文字の『魔法』は、また何ごともなかったように効力を発する。

 間違いないだろう……この神約文字は【文字魔法】だ。


 となると、やはり【文字魔法】は、元々この世界でかつて持っていた人がいる魔法であり、俺の、鈴谷家の血統魔法ではない……ということだ。

 そりゃ、そもそも『魔法のない世界』の家系なんだから、血統魔法なんてものはあるはずがないのだが。


 だけどなー、そーすっと、なーんで俺は成人の儀の時に『金証』になっちゃったんだろうね?

 その他の当時の魔法で、血統魔法相当のものってなんだろう……【蒐集魔法】か【金融魔法】だろうか?

 うーん、解らん。


 まだ二箇所あるから、そっちに行くのが先だよな……考えごとは、安全なおうちの中で。

 お次の場所は、確かここよりもう少し上。

 この上だともう寒いから、空を飛んで行くより転移しちゃおう。


 背の高い木は、更に少なく……あれ?

 そーでもないか?

 錆山って結構上の方まで植物もあるし、樹木も多いんだよね。


 これが『神々の加護の山』といわれる一因なのかもしれないけど、この高さでこんなに土壌が豊かなのは、やはり常に放出されている魔効素のお陰だろうか。


 こちら側は、表からだと途中にかなり深い亀裂が入っているから、飛べるかガイエスみたいに『遠視とおみ』プラス【方陣魔法】の『門』でもない限り入れない場所だ。


 だけどさ、こうして考えると、ガイエスのフィールドワークが広範囲なのも納得できるよね。

 あ、苔桃みっけ。

 美味しそーだから、一個もらっておこうかな。


 凄いなー、苔桃がいっぱ……い……って、なんだろう、まるで茸の菌輪フェアリーリングのように、苔桃で円を描いているようだ。

 苔桃が茸のように『環状をなして生息する』なんて聞いたことがない。

 いや、苔桃で『境域』ができている?

 あのプラタナスと同じか!


 ということは、やはりここには紅花群生地のように祠が……あ、視ーえた!

 苔桃の境界を壊さないように、少し離れた所から下へ向かって階段を作っていく。

 石室の壁を発見したので、ここも『浸透式【文字魔法】付与』で転移目標の書き込み成功。


 中に入るとここはさっきの種の保管庫と違い、水の流れがあって紅花の祠と同じ造りになっている。

 祠に書かれていたのは『始まり』……?


 これ、今と言葉の意味が、変わっていたりする?

 何のどういう『始まり』……なんだ?

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