第181.5話 広場の人々

▶トリセアと女の子達


(あら……あれは、タクトくん……あの一緒にいる子がもしかして、婚約者?)

「ごめん、ちょっと休憩するわ! こっち、お願いー」

 はーい、ごゆっくりーー



(あの子……よくうちに買いに来ていた子だわ。知り合いだったのね)

(タクトくんったら、手なんか繋いじゃって……ああ! 女の子達があのふたりに気付いたわ!)

(……ここなら、タクトくんから見えないわね。声も聞こえるし……何を話してるのかしら?)


〈いや、この間のは生誕日の贈り物だし……これは……その、婚約の記念に〉


(やっぱり、あの子が婚約者ね。美人よね、彼女。タクトくんって結構、面食いなのかしら)


「え? 今、タクトくん、婚約って……」

「うそ、婚約者がいるの? だってまだ、成人になったばかりでしょう?」


(ああっ、あの子達もよく買いに来てくれる子達じゃない! うわー……ばれちゃったわー、婚約……)


「ねぇ……婚約者に何か贈ってるの? 身分証入れ?」

「そうみたい。なんかキラキラしてるわ」

「絶対に手作りだよね! 羨ましいー!」


「あーあ……もうタクトくんは望みないわね」

「でも、元々恋人になりたいとかじゃなかったし……」

「そう言われてみれば……恋しちゃっていたのって、ロゥエナくらいよね?」

「ロゥエナも王都なんかじゃなくて、もう少し近い所だったら、頻繁に帰ってこられたのにね」

「そうしたら、まだ望みがあったかもねー」


〈こうして並べるとひとつの図柄になるように作ったんだ……お揃いにしたかったから〉


(え? お揃い? 並べるとひとつの絵柄ができる……ふたりで持つもの……なるほど……良い案だわ)


「ねぇ……ふたつでひとつになるんだって」

「なんかいいわね。彼と一緒に持つの」

「やっぱりタクトくんの作る物って素敵だわ。あたしの彼、買ってくれないかしら?」


(あら? あの子達……もう恋人がいるの? ということは……タクトくんというより、本当に商品が好きで買っている女の子もいるってこと?)

(彼とふたりで着ける……か。うんうん、いいわね!)


〈あ! 青い光が見える! 凄い! これ、タクトくんの神様の色ね?〉

〈そう。ふたりの神様が、俺達ふたりを守ってくれるように〉


(そうか、お互いの加護神の色にするのね! それいいわ! なんで今まで考えつかなかったのかしら!)


「……いいなぁ。魔法の属性の色もいいけど、加護神の色だともっと深い関係って感じ……」

「そうね。なんだか本当に、守ってもらえそうだし」


(いいわね! 守る、っていうのはとてもいいわ! うーん、流石タクトくん!)



〈俺は絶対にメイリーンさんを護る。何があっても。誰にも何にも君を傷つけさせたりしない〉


(やだもうっ! タクトくんったら! まるで騎士の誓いみたいじゃない! ときめくっ! これはときめくわ!)


「素敵……あんなこと、言われたい……」

「タクトくんって……凄く男らしいのね。あたしの彼に見習わせたいわ」

「ああっ! 着けてあげてるわよ! タクトくんが!」

「あれ、されたい! 好きな人にして欲しい!」


(タクトくん……こんなに情熱的だったのね……だっ、抱きしめたっ! これは、この後ろ抱きはっ! 最高だわ……!)


「……」

「……」


(女の子達、もう思いっきり見てるわね。そうよね、こんな風に真っ直ぐに愛情を伝えられたら……絶対に胸が高鳴るわ)

(あ、離れちゃった……でも、ちゃんと気持ちは伝えて、態度にも出して……だけど、相手が恥ずかしがるほどは押さずに弁える……行き届き過ぎているわ!)


「本当に、騎士様の愛の告白って感じ……」

「ちゃんと仮婚約してるってことでしょう? やっぱり、きちんとする人は違うわね」


「ねぇ、今、気付いたんだけど、あの子のしてる髪飾りも……タクトくんが作った物なんじゃない?」

「何、あれ、すっごく素敵!」

「宝石かしら?」

「きっと、さっき言ってた、生誕日の贈り物じゃないの?」


(本当だわ。あの髪飾り、めちゃくちゃ綺麗! 硝子じゃあ、ないわね……くぅーっ! タクトくんったら、どうしてこう造形が上手いのかしら! なんで錬成師じゃないのよ!)

(でも、今後、男の子が女の子に贈るもの……ってことで、商品を展開していくのもいいわね)

(うん、お揃いで持つとなれば……二倍、売れるわ)

(男性用にも女性用にも使える意匠を増やして、ふたつでひとつの絵柄の物と……うんっ! なんか、見えてきたんじゃない? これなら婚約が広まれば、かえって売れるかも!)



▶男性陣


「おい、お揃い、だってよ」

「俺、ちょっと恥ずかしいよ、そういうの」

「いや、でも絶対に女は好きだと思うぜ?」

「そうかな……あんまりキラキラしていないやつなら、いいけどさぁ……」

「……おまえ、彼女いたことないだろ?」

「えっ、なんでそんなこと……」

「自分の好みを押しつけるやつに、彼女なんてできる訳ねぇもん」



「あいつと同じことしたら、モテそうじゃねぇ?」

「無理。俺にあれは、絶対無理……女の子と……話すことさえ無理」



「ああやって着けてあげるのとか、やりてぇー」

「相手いるのかよ?」

「ふっふっふっ、俺、今セラーナと付き合ってるんだ。あのお揃いのやつ、売ってねぇかな?」

「セラーナだと? この間は、レティラがいいって言ってたくせに……」

「レティラにはもう男がいた。俺は切替が早い方なんだ」

「……気が多いだけだろ?」



「タクト……婚約者がいたのか……」

「おい、良かったじゃねぇか。これでロゥエナはあいつを諦めるだろ?」

「……可哀想なロゥエナ」

「おまえ、本当にいいやつだなぁ……でも、それじゃ絶対にロゥエナに気持ちは伝わらないぜ」

「お揃いの物を贈ったら、着けてくれると思うか?」

「やってみなきゃわからねぇだろ! 行動しろ!」



▶恋人達


「……ねぇ、あたしにも作ってよ、お揃いの」

「無理だよ、俺、加工の魔法も技能もないもん」

「じゃあ、買って」

「……そ、そのうち、ね」



「いいなぁ、あの子。ずっと守ってもらえるんだってー」

「俺だって、おまえのこと守ってやるさ」

「本当?」

「ああ!」

「でもこの間、冒険者に絡まれそうになった時に、知らん振りしたよね? あれ、どういうこと?」

「そ、それは……」



「俺が作ったら、着けてくれる?」

「勿論よ。あなたが作った物なら、なんでも嬉しいもの」

「じゃあ、君のために作るよ!」

「あたしの加護神がなんだか、知ってる?」

「………えっと……」

「前に話したことあったのに、覚えてないの?」

「……ごめん」

「いいわよ。次は忘れないでね?」



(あいつ、後ろから抱きしめてたよな……同じことやったら……嫌がられないかな?)

(あんな風に積極的にして欲しいのに、この人、手も繋いでくれないのよね……あたしのことなんて、そんなに好きじゃないのかしら……)



▶ファイラスとオルフェリード


「タクトくんは……なかなか大胆だね」

「そうですね。吃驚しましたが、彼女は正式な婚約者なのでしょう?」

「うん、そうみたい。この間、教会で仮婚約の手続きをしたって言ってたから」

「羨ましい……ですね」


「もうすぐ、原典の新訳が発表になる。そうしたら、神々の本当の関わりがはっきりする」

「本当の……ですか。それでまた否定されたりしていたら……」

「そんなことはない」


「……内容をご存じなのですか? 副長官」

「一部だけね。でも、賢神一位と聖神二位の忌み事が間違いだったってのは、確実だよ」

「早く……その神典が読みたいです。そうしたら、僕も彼女に揃いの身分証入れを贈ることにします」



「そうだね。それがいい。きっと幸せになれるよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る