第146話 米とカレーと花と音楽 

 えー、米が届きました。

 がつんと大量に。

 うちの地下がただいま、野菜と米でぱっつんぱっつんです。

 ということで、地下室を拡張いたしました。

 現在、我が家は地上二階、地下三階でございます。


 鉱物素材の備蓄部屋と、野菜倉庫は地下一階。

 地下一階を裏庭方面に掘り進めて、もう一部屋造った所に茸栽培部屋。

 菓子用食材・調味料部屋は地下二階、米などの穀物とレトルト在庫が地下三階です。


 食材を持っての階段の上り下りが大変なので、魔法で動くエレベーターも作りました。

 階段も魔力を通せば、エスカレーターのように動きます。

 完璧です。


 これも、大気中の魔効素を魔力にできるからこそ使える常設型の魔道具ですよ。

 魔効素の発見は、革命と言えるものでした。

 錆山様、今日も大量の魔効素放出、ありがとうございます!



 米が届いたのなら、まずはあれでしょう!

 台所で勢いよく試作を始めた俺を、父さんと母さんがチラ見をしつつ見守ってくれている。

 大丈夫、ちゃんと美味しいものを作るからね!


 そう、カレーである!

 カレーライスなのである!

 日本人としては『おむすび』と言いたいところではあるのだが、届いた米はインディカ米のように細長い、どちらかというと粘りも甘みも少ないものだったのである。

 しかも、玄米だ。

 まず、精米しよう。

 その方が食べやすいだろう。

 そして、炊き上げて……うん……ちょっと日本の米とは、炊き上がりの香りが違う。


 あ、でもカレーには合う。

 特に、チキンカレーとの相性は抜群だ!

 父さんと母さんもこれは少し食べにくいけど美味しいと、おかわりをしていたくらいだ。

 サフランがあったらなぁ。

 サフランライスにしたら綺麗だし、カレーの雰囲気もよくなるんだけど……

 ま、ないものねだりはやめよう。



 なので、本日のランチメニューは『カレーライス』である!

 具材が多め、水分少なめのキーマカレータイプだ。

 カレーは中辛、甘口を選んでもらえる。

 辛口はリシュリューさんくらいしか食べないので、ご依頼があったら作ることにしている。

 おかずに、温野菜と唐揚げもご用意した腕白セットである!


 食べ慣れていない『米』という食材に、初めは戸惑う方々も多かった。

 しかしそこはカレーの旨さで、すぐに皆さん如何に米とカレーがベストマッチであるか気付いてくれたのである。

 特にファイラスさんがめちゃくちゃ米を気に入ったようで、毎日食べたいとまで言ってくれた。

 やはり、カレーには米だ。


 そうだ、パンにする時は中に入れて、カレーパンにしよう。

 総菜パンとして、保存食用ラインナップに加えてもいいかもしれない。


 今度は丼ものとかも作ってみようかな。

 カツ丼、牛丼、親子丼……ああ、夢が広がる……!

 Viva 米!



 米でかなり気分よくなった俺は、部屋に戻ってすぐトリセアさんに渡すアクセサリー用造花の見本を、調子に乗って何種類も作ってしまった。

 プラモのように簡単にばらして組み立てられるように作ったので、これを渡せばレンドルクスさんならすぐにでも再現できるだろう。

 ガーベラ、コスモス、菊、ツツジ、マーガレット……など、花がひとつでも存在感がありそうなものにしてみた。


 勢いに乗ってしまった俺が次に取りかかったのは、ビィクティアムさんに頼まれた蓄音器である。

 蓋の上に螺鈿のように花を描く……と、置いてある時はただの箱でなんだかつまらない。

 では、蓋の上に立体的に花をあしらうというのはどうか? と思ったが、音楽を聴く時に蓋を開けたら見えなくなってしまう。


 なにせ、ビィクティアムさんの伯母様である。

 大貴族様のお部屋に置かれるに相応しい意匠とは、なんぞや?

 花……花束……ブーケ。

『箱』ではなく『花』が置かれているような見た目にできないか?


 お貴族様の部屋なんだから、多少飾りで大きくなったとしても場所に困ったりしないだろう?

 寧ろ、コンパクトにするより、ゴージャスを目指すべきなのでは?

 誕生日のお祝いだし!

 でも、手で持てるくらいがいいよな。


 音源水晶をしまえる箱である、という前提も崩してはならない。

 すべて水晶で作ることにしたので、まずは箱状の蓄音器を作る。

 その箱を覆い隠すように水晶で象った花をあしらい、置かれている時はまるで花束に見えるようにする。


 花をリボンで纏めてあるように作るのはどうだろう。

『蓋を開けると音が出る』だけでなく、蓋を閉めていても花の向きを変えると音が出るようにしよう。

 花は……薔薇はまずいんだよな、えーと、えーと……百合はどうだ?

 百合をいくつかと、カーネーションみたいな花も入れようかな……ドラセナ? いや、もっと細い葉で、くるっと巻いてる感じにしてっと……レモンリーフみたいな葉も……


 四苦八苦しながら、なんとか『置かれているブーケ』風に仕上げた。

 おお!

 なかなかよいのではないかな!

 この形状を、魔法で記憶。

 一度ばらして、水晶の花びらや葉に色を付けていく。


 お祝いの花束だからね、ピンクやオレンジ、鮮やかなグリーン、でも透明感を損なわずにグラデーションなんかを付けて。

 綺麗に色が入ったら、さっき記憶させた魔法で組み上げる。


 箱の蓋が開いても、正面の花はそのまま見える。

 開けた蓋の裏側には『あなたの生誕に心からの祝福を』というこちらでの定番のメッセージ。


 強化魔法と、防汚、防塵、耐衝撃を付与して……よし、蓄音器本体は完成だ。

 曲は……何にしよう?

 楽団で演奏してもらったものは基本が庶民向けなので、このブーケタイプにはあまり合わない気がする。


 ……俺が聞いたことのある曲であれば、楽譜を手に入れられたら音源にできるのでは?

 貴族の部屋で流れていていい……というか、そういう部屋で聞いて欲しい音楽。

 クラシック……だよなぁ、やっぱり。


 俺はコレクション内の『本』の項目の空きスペースをタップし、楽譜の本が買えないか調べる。

 音楽の題字などもカリグラフィーの見本としてとても役に立つので、何冊かメジャーな楽譜本は持っているのだが、お祝いの曲っぽいものがないのである。

「おっ、買えそうだぞ!」


 えっと……アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク……?

 ああ、あの曲か!

 うんうん、知ってる知ってる。

 あとは……『皇帝円舞曲』……も、知ってるぞ!

 このふたつなら、結構お貴族様的にオッケーなのでは?


 取り敢えず楽譜本を買ってみて、そのまま転写できるかやってみる。

 ……できなかった……

 やっぱり、一度は俺が書かないと駄目なようだ。

 試しに八小節だけ書いて、転写してみる。

 これで音が鳴らなかったら別の方法を考えるか、曲を変えるしかない。


 ♬


 おおっ、鳴ったぞ!

 ちゃんと俺の知ってる冒頭部分のメロディだ!

 これを全部書き写せば、この世界でもクラシックが聴ける!


 これ……を、全部?

 何種類もある弦楽器、管楽器の……全譜面を?


 俺はその膨大な量に挫けそうになったが、苺とカカオのためだ! と姿勢を正し楽譜の書き起こしを始めたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る