第111話 魔眼鑑定

「それとな、タクトくん、身分証を出してもらえるかね?」

 身分証?

 何が見たいんだ、セインさん?


「いや、入れ物からは出さなくていい。名前の見える方を見せてくれ」

 俺はケースペンダントを引っ張り出し、身分証の名前が見えている方をセインさんに見せた。

 セインさんがそれに指を触れて……魔力を流している?


「やはり、視えないな……」

 え?

 何が?

「タクトくんは姓を隠しているだろう?」

 ……今、それ言っちゃう?

「成人の儀では聖魔法でそれが表示されたのに、今は全く視えなくなっておる」


 うおっ!

 隠蔽が完璧すぎたか?

 でもあれも聖魔法で見えたんじゃなくって、【文字魔法】が古くなっただけだったんだよなー。


「タクトくん、聖属性の魔法か技能が出たのではないか?」

「……なんでそう思われるんです?」

 見えていないはずだ。

 何を根拠にそんなことを?


「今まで聖魔法で君の隠蔽が見えたのは、おそらく君に聖属性の魔法や技能がなく、知らなかったせいで防ぐことができずにいたからだ。しかし、聖属性が出たのであれば隠蔽もできるようになっていてもおかしくない」


 そういうルール!

 そういう、基本のルールが!

 もっと!

 早く知りたかったのです!

 またしても後手に回っています!


 しかし隠しているわけにはいかない。

『聖魔法で暴けない隠蔽をしている』ことは解ってしまっている。

 そして、嘘も吐けない。

 ライリクスさんの魔眼は、誤魔化せない。

 一番言っても差し支えなさそうで、嘘の必要がないもの……


「実は……成人の儀の後、家に帰ってから気付いたのですが『魔眼鑑定』っていうのが出ていました」

「魔眼? 君も魔眼になったのか! 何が見えているんだ?」

「あ、違います、ライリクスさん。『魔眼』ではなく『魔眼鑑定』という技能です」

「技能……?」


 そう、ライリクスさんの顔をじっと見ていると、両目が違って見えてくるのが解る。

 おそらく魔眼だと、こういう風に色が変わったり、周りに何か見えたりするんだ。

 まだそれが、どういう魔眼かまでは解らないけど。


 俺がそう話すと、ライリクスさんが自分の魔眼がどう見えているのか教えてくれと言ってきたので、じーーーーっと見つめてみる。

 ……ちょっと照れくさいな。


「ライリクスさんの右目は……青っぽいもやが目の周りに見えます。左目は瞳の色が青と黄に交互に点滅しているみたいに見えますね」

「片方ずつ違うのかい?」

「はい。どっちがどういう魔眼かまでは、解らないです。まだ第四位ですからね『魔眼鑑定』……あ、片目だけ瞑って、手で覆ってみてください。視え方変わりませんか?」


 ライリクスさんは左目を閉じて、手のひらで覆った。

 右目だけの視界がどういう風に見えているかで、魔眼の種類が解るのではないだろうか。


「魔力の揺らぎが……視えなくなりましたね。なるほど……こうなっていたのか」

「おまえはそれぞれが、違う魔眼だったということだな。タクトくん、私は解るかい?」

 セインさんも魔眼だったのか。


「セインさんは、両方同じに見えますね。でも……色が変わったりはしていないです。ただ両眼の周りに光? のようなものが輪になって見えています」

「兄上の魔眼は、聖属性鑑定でしたね?」

「うむ……そんな風に見えるものなのか……」

 セインさんの聖属性鑑定の魔眼って、何がどう視えるんだろう。

 気になる。


「その鑑定した魔眼が、何を視ているかは解るのかい?」

「いえ、それは判らないです。でも、魔眼持ちの人が俺を見ているかどうかは……なんとなく判ります」

「我々の視線も判ると言うことかね?」


「今の段階で判るのは明確な『敵意』とか、俺に対して『悪意』のあるものだけのようです」

「さっき『遠視』の石を見つけたのも、それなのかな?」

「多分。なんとなく、嫌な感じがした方向を見たらありましたから」


 これは【精神魔法】とのコラボである。

 悪意の視線っていうのは、結構感情が乗っているものらしい。

【精神魔法】は感情の動きが感じられるみたいで、それを辿ることもできる。

 もしかしたらその内、対象を操れるようになったりするのかもしれないけど、そこまではしたくない。


「その技能は君の助けになるだろうけど、無理しちゃダメだよ」

「あんまり、そういう人が近づかないことを願っているんですけどね」

 悪意に警戒するなんてこと、しないで済む生活がしたいんですよ。


 ライリクスさんの微笑みが『だったら自重しろよ?』と言っているように感じるのは、この技能のおかげではないのだろう……

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