第三章 やっと大人の仲間入り
第82話 あと半年
こちらに来てからもう、五回目の冬が終わろうとしている。
俺も、二十四歳になって半年たった。
つまり、あと半年でやっと成人である。
長かった……アラサーから十九歳になったのはいいんだが、成人として認められるまでが長すぎだよ……
「もうすぐ、タクトも大人の仲間入りねぇ……」
「成人の儀用の服を作っとかにゃあ、間に合わねぇな」
成人の儀はこちらでも一大イベントであるようで、晴れ着を新調し教会で司祭様から成人としての訓辞などいただき、そして魔法や技能などを新たに授かる場合があるのだという。
……ぶっちゃけ、必要な魔法の技能も既にあるし、これ以上は使いこなせないというか、話せないようなものが増えたら困るというか……怖い。
なので、予め独自魔法や赤属性以外の魔法は、表示、鑑定、看破されないように細工しておかなくてはならないのである。
希少性の高い魔法や技能が出てしまって注目を集めるだけならまだいいが、やりたいことを制限されたり、この町から移動させられる可能性もあるからだ。
そうだ、攻撃系魔法も、絶対に表示されないようにしておかなくてはいけない。
攻撃魔法や攻撃特化の技能が出ると、近衛付きの魔法兵とか兵団の見習い魔法師とかにさせられちゃうらしいからな。
争い事なんて、絶対にごめんだ。
衛兵にだってなりたくない。
俺は、
物作りの町で、平和に楽しく暮らす魔法師でいたいのである。
「まぁ、タクトはもう職業が出てるからあんまり変化はないだろうけど、楽しみだねぇ」
「え? 職業って成人まで出ない人もいるの?」
「今のガキ共は、殆ど出てねぇらしいなぁ……」
ああ、そういえば以前、役所のお姉さんがそんなこと言っていたなぁ……
「そっか、でも成人が二十五歳だから、それからだと技能とか身につけるの大変そうだね」
鉄は熱いうちに打った方がいいに決まっている。
若い頃の方が物覚えだっていいだろうし、変なプライドが邪魔することもないだろうし。
「でも百歳を越える頃にゃあものになるだろうし、遅いなんてこたぁない」
「そうだよ。成人なんて、四十歳ぐらいでいいってあたしは思ってるけどね」
……は?
なんかもの凄く
「あのさ、今って……だいたいの平均寿命、どれくらいなんだろう?」
「さぁてねぇ……貴族様達は長生きだろうけど、あたし達は三百歳くらいかねぇ?」
「でもよ、リシュレアさんは確か三百四十歳くれぇだったぞ。長生きになってるんじゃねぇのか?」
さ ん び ゃ く ?
あれれー?
そんなにながーーく生きちゃうの?
あれれー?
俺、絶対にそこまで生きられないんじゃないの?
だって身体は、あっちの世界のまんまだよね?
いや、魔法とか使えるようになってるくらいだから、もしかしたら寿命も延びてたり?
常識が、またしても覆されてしまった……五年目にして。
うん、三百歳まで生きるんなら、成人は六十歳でもいいよね。
うん。
「でもタクト、どうして急に寿命なんて……」
「俺、父さんと母さんの年齢、知らないなーと思ってさ。毎年誕生日祝っているのに」
「儂らのこと、いくつくらいだと思っとったんだ?」
平均寿命が俺の感覚の三倍ということは……でも、見た目の倍くらいで言っとけば無難かな?
「んー……父さんが百歳くらいで、母さんがそのちょっと下かなぁ……って」
うん……だいたい、見た目で五十歳くらいに見えたんだよね……
「まぁ! そんなに若くないよ、あたしは! もうっ、タクトったらお世辞が上手くなったねぇ」
「そうか、儂ら随分若く見られとったんだなぁ……ふふん」
二人共ご機嫌だなぁ……まぁ若く見えるってのは人によっては怒られることもあるけど、大概は喜ばれるよね。
実年齢は俺の見た目の想像五十歳前後ってより、二人共八十歳も上だった……
そっかー、百三十歳越えてるのかー。
日本だったらご長寿過ぎて、ギネスどころの騒ぎじゃないよね。
昼時、ロンバルさんからも、もうすぐ成人だね、と話しかけられ少し照れてしまった。
子供から大人になるのは、自分がどうであろうと世間の見方が変わるってことだ。
今まで許されていた甘さが許されなくなり、今まで禁止されていたことが許されるようになったりする。
自由だけど、とても不自由なのも大人。
あっちの世界で既に大人だった頃、もう一度子供に戻れたらって思ったこともあった。
しかし子供は許される分、何もさせてもらえなかったと思い出して、大人も子供もつらいよな……なんて、黄昏れてみたりもしていた。
でも、ここで『子供』をやり直して、大人になった時に後悔しないように『子供』を楽しむことができたと思う。
だから、そろそろちゃんと大人になろう。
俺はやっと、子供を羨む後悔だらけの大人から脱皮できた気がする。
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