第71話 燈火作り

 今日は『燈火作り講習』の日である。

 うーむ、カルチャースクールを思い出すね。

 父さんには今日だけお休みしてもらって、工房を使わせてもらうことにした。


 朝、五人の職人さん達を連れて、コデルロさんがやってきた。

 ……タセリームさんまで来ているのは何故だ。


「タセリームさんには、教える約束をしていませんよ?」

「いいじゃないかぁ、興味が有るんだよ」

「コデルロさん、タセリームさんを加えるなら、職人さんをひとり外してください。約束は五人まで、です」

「タセリームくん、食堂の方で待っていてくれるね?」

「……はい」


 当たり前だろ。

 契約にないことを、なあなあで了承はしないのだ。


 タセリームさん以外の全員と工房へと移り、消音の魔道具を発動させてから燈火作り講習スタート。

「では、この羊皮紙に作り方の手順を書いてありますので、ひとり一枚差し上げます。他の方に教える時は、これを写した物を必ず渡してください」

 最後に入れる電池は、俺が作るのでここには書いていない。

「あの……」

 職人さんから早くも質問か。

 熱心だなぁ。


「この……『材料を分解』って、よく解らないのですが……」

「え? やったこと、ないですか?」

 ……全員がないと答えた……


「皆さん、【加工魔法】と『金属加工』『鍛冶技能』はありますよね? 今までどうやって素材から材料を取り出して、加工していましたか?」

 どうやら砕いたあとに鑑定しながら物理的に依り分けていたか、別の職人が分けた物を購入していたようだ。

 折角【加工魔法】があるのに、なんてもったいない!

 コスト削減のため、皆さんに直接抽出してもらうことにした。


 俺は先ず鑑定し、何が含まれているのか書きだしてから、ひとつひとつの素材に魔力を通して抽出して見せた。

 本当は【文字魔法】を使えばいっぺんに全部を分けられるのだが、皆さんには使えないので仕方ない。

 すると皆さん、あっという間にできるようになった。


「こんなやり方があったなんて……砕く必要、なかったんですね」

「効率は良いけど、知識がないと巧く取り出せないな……」

 そうだよなぁ。

 慣れないと難しいか。


「それは何度もやっているうちに覚えますよ。俺も五日間ほどかけて、二百個くらいを分解して慣れましたから」

 みんな固まってしまった。

 あ、そうか、働きながらじゃそんなに時間取れないもんね。


 「……五日で二百個……?」

 「ありえねー……魔力保たないよ……」

 「どんなに頑張っても私、

  一日十五個くらいが限度だわ」


 なんかブツブツ言っているけど……やり方を反芻しているのかな?

 早く慣れてくださいね。


 あれ?

 分解をやったことがないって事は……


「すみません、皆さん、空気の組成って……解ります?」

「空気は……空気でしょ?」

「空気なんて、どう分解するっていうんです? 見えないのに……」


 あああーっ!

 そっかーーっ!

 酸素とか窒素とか、そういう概念すらないのかー!

 これは……まず、化学の授業からか?

 いや、俺に化学の講義は難しいか……


 電球の耐久性が落ちても、仕方ない。

 アルゴンガスは諦めて、真空にする方向で行こう。

 元々のアーメルサス製白熱電球も、真空バージョンだったし。


 そうして色々なことを妥協しながら、俺はなんとか五人にひと通りの手順を説明した。

 あとは実践してもらいながら、不明点や疑問点を潰して仕上げていこう。




「みなさん、お腹が空いた頃でしょう? ちょっと早いですが昼食にしましょう」

 コデルロさん、ナイスタイミング。

 俺も腹ぺこです。


「じゃあ、皆さんこちらの食堂でいただきましょうか。タクトくんもいかがですか?」

「いえ、俺は裏で食べちゃいます。昼は混むので手伝いたいし」

「そうですか……では、私とタセリームくんの分も含めて七人分、お願いしますね」

「はーい、かしこまりましたぁ!」


 食事中、彼等はディスカッションしながら、やり方などを確認していたようだ。

 みんな職人さんって感じだよなぁ。

 女の人達は器用な人ばかりだし、男の人達も繊細な作業が得意みたいだし、きっと良いものが作れるに違いない。


「えっ、このパン、タクト君が作ったのか?」

「美味しい……こんなに柔らかいパン、初めて……嬉しい……」

「この煮込み料理も旨いよ。この町に来てよかった……!」


 どうやら皆さんはこの町に留まって、ここで製作作業をするみたいだ。

 そりゃそうか、殆どの素材はこの町の物だ。

 他の場所に素材を持っていって作るより、ここで作った製品を出荷する方が遙かに効率的だ。

 という事は、竹がコンスタントに入ってくるって事かな?


「竹を……ですか?」

「ええ、ちょっと分けてもらえないかなって」

 コデルロさんに頼んでみる。

 近隣には生えてないから、入れる量次第ではコストが高く付くだろうしダメ元で。


「ええ、かまいませんとも! あれを利用する職人は殆どおりませんから、処分に困るほどでしたので」

「運搬費がかかりませんか?」

「中が空洞で軽いですからね。他の木材よりはかかりませんよ。それにあれはやたらと生育が早くて、伐採が追いつかないらしいのです」


 そっか、竹はなかなかないのかと思ったけど、使う人がいないから流通していなかっただけか。

 でも、そんなに沢山は要らないんだけどね。

 なるべく古くて太い物を一本と、若くて青い物を三本欲しいとお願いしたら快諾してくれた。


 これで竹細工ができるぞ。

 ざるを作って、うどんとか蕎麦とかも試してみようかなー。

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